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Luminary Talk! vol.15 横浜創英中学・高校校長の工藤勇一さんに聴く〜「これからの時代に私たちが実現したい民主主義」〜”誰一人置き去りにしない”学校改革から学べること〜 前編

Project MINTでは、大人がパーパスを起点に新しいステージに移行するための学びのサポートプログラム・コミュニティを提供しており、特別パネルディスカッション「Luminary Talk」を開催しています。「Luminary Talk」では、Project MINTアドバイザーやパートナーの一人ひとりにフィーチャーし、ユニークな経歴を持つ彼ら・彼女たちのストーリーや変遷を、一般参加者を含む皆さんと共有しています。

今回はシリーズ第15弾 ー 横浜創英中学・高校校長の工藤勇一さんに聴く〜「これからの時代に私たちが実現したい民主主義」〜”誰一人置き去りにしない”学校改革から学べること〜を開催しました。この記事は、本記事はProject MINT修了生の二人、さなぎりなさん(5期生)と川井美奈子さん(3期生)によるレポートです。前編、後編に分けてまず前編をお届けします。

工藤勇一さんプロフィール

山形県の中学校で数学教諭を5年経験し、東京都台東区の中学校教諭に
東京都や目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、千代田区立麹町中学校校長(2020年3月まで6年間)
現職に、内閣官房教育再生実行会議委員や経済産業省「EdTech」委員など
著書に、『「学校の当たり前」をやめた。ー生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革」「麹町中学校の型破り校長 非常識な教え」「子どもたちに民主主義を教えようー対立から合意を導く力を育む」など多数

《当日の流れ》

冒頭で、今回のトークテーマの中心である民主主義について、Project MINT代表の植山が考える民主主義について短く紹介しました。その内容は、「どんな属性やバックグラウンドの方も、バイアスや同調圧力で隠されることなく、自分のニーズや本音を話すことができ、その声が聴かれて、さまざまなニーズを持った人間同士で共により良い場を創っていくこと」です。

                 (植山が提示した、自分の考える”民主主義”の解釈)

続いて、約150名のイベント参加者に対して、植山が6つのパネルトークテーマを提示し、参加者による投票結果で関心の高かった順に、5つのテーマについて工藤さんにお話いただきました。

トークテーマ5つ
1. 誰も取り残さないクラスや社会
2. 対立を恐れずに対話するには
3. ”真の民主主義”大人ができる役割は?
4. ブレずに改革するには?
5. 2050年の未来

工藤さんによる自己紹介では、千代田区立麹町中学校で実践できたことが実現したい像の「10%」だったとすると、現在の勤務先である横浜創英中学・高校では、「7%」程度の現状から2年後には「100%」を「実現できそうだ」という発言が飛び出して、雰囲気が一気に盛り上がりました。

イベント当日。工藤先生とProject MINT代表の植山

《工藤さんのお話》

トークテーマ1:誰も取り残さないクラス・社会

植山:本当に、誰も取り残さないということはできるのでしょうか。

工藤:誰も取り残さない社会づくりを誰かに委ねても、つくられません。
民主主義について振り返ると、互いに多様な集団の中で自由に発言ができるという環境だけではなく、誰一人置き去りにしないということを考えながら意見を見つけなければいけないのです。
民主主義はヨーロッパで生まれてきた考え方です。それ以前の専制主義では決して皆が幸せにならず、国が用意した民主主義国家でもヒトラーやムッソリーニが登場し、第二次世界大戦では20~25億ほどの世界人口のうち8千万人もの人が亡くなり、焼け野原になりました。国同士争っていても持続可能な社会を作れないし、自分の国だけ良ければよい、あるいは国内でも誰か力の強い人だけが良ければいいという考えでもうまくいかない、ということに気付いたのです。

一方、今の日本には、多数決が民主主義という思い込みのバイアスがあります。多数決はマイノリティを切り捨てる手法です。民主主義の、誰一人置き去りにしない社会をつくる手だては多数決ではない、ということにヨーロッパの人は気づいています。多数決ではヒットラーが生まれる、そうでない社会をつくるには、大人になってから学ぶのでは遅いと学んで、学校社会で子供たちに自由に対話をさせながら多数決を使わずに物事を決定していく手法を覚えさせていきました。

日本の例を挙げますと、授業が荒れている学校と言われるところは、勝手なことをやる連中がいて授業が崩壊しますね。麹町中学や横浜創英では、「つまらないからといって授業を受けない自由は君らにある。でも人が授業を受けるのを邪魔する自由はないよ」と教えています。これだと全員OKということが分かりますか?

植山:皆がそれぞれ選択ができるということですか?

工藤:誰にも、こんなつまらない授業を受けたくない、という自由はある。一方いや僕はきちんと受けたい、という自由もある。では誰一人置き去りにしないってどういうことかな、と対話をさせる、自分が授業を受けるかどうか選択して、困る、困らないというのは自分の権利だね、でも、人の授業を妨害する行為はダメだよね、それは全員OKだね、と共通理のことを理解するのです。このようにして、一つ一つについて全員がOKなものを探していきます。

ここで法律の話をしますが、法律とは、必ず起きる対立においてどのように調整すれば全員がOKになるか、というものを定めたものです。けれども日本ではまだまだ民主主義が身についていないので、一度決めた法律を変える事がなかなかできません。皆がおかしい、と思っていても近年まで100年も続いていた法律もあります。法律はお上が決めていると錯覚しているのです。実は国民の代表が会話して決めるものなのに。

日本には民主主義国家の仕組みがあるけれど、民主主義が何だということを学校で教えることが出来ていないのが残念です。小学校の低学年から多数決を使う先生がとても多いのですが、これは世の中を象徴しています。教員自身が小さい時から多数決によってマイノリティは切り捨てろ、ということを繰り返して身に着けてしまっていて、それがおかしいと気付かないのです。また我々は多数決を使い続けて大人になったので、当然、対話をして合意するというのがとても苦手です。誰一人置き去りにしないということは、対話をして、多数決を使わずに決めていく経験を繰り返さないと成熟しません。

学校教育は民主主義社会をつくる最大の武器なのです。

自律型学習などといっても、これは教えないと分かりません。

植山:できる、できないではなく、世代を超えてやっていくものなのですね。

工藤:ヨーロッパの人たちが1万年2万年と失敗をし続けてようやく身に着けたものなので僕らが第二次世界大戦で負けたくらいの経験では分からないのですね。そして小学校の先生方が議会制民主主義の決を採る部分を民主主義だと勘違いして取り込んでしまったのですね。
議会で決を採るのは、ある時間内で物事を決めないと国民に不利益を与えるからです。だからこそ国会にいる代表の方々は沢山の会話を通じて、より上位の概念で握手できるかが大事です。より上位の共通の目的を探し、対立がある時には上位と下位を見比べて上位のところで握手すると、下位の自分の考えを修正しなければならない、ということに気がつく、というこの部分が大切で、それは経験という訓練を重ねて身につけるしかないのです。

植山:私たちはパーパスと呼んでいますが、組織やクラスの中で目指していきたい上位概念やゴールを作っていくのはとても大切ということでしょうか。

工藤:はい、なかなか難しいことです。上位概念を作っていった結果、全員がOKでないものを何となく作ってしまうということがあります。企業でいえば、5年先までに店舗を200店舗に全国に増やす、などというのは、共通を意識するうちに全員OKの目標でなくなってしまっています。反対に素晴らしい例をご紹介しましょう。

京セラの会長でいらした稲盛さんがいつも言われていたことです。ご自身がやっていることは、利他の心があるのか、つまり「それは社会のために役立つのか、みんなのためなんだろうか」と何度も自分に問いかけるのだそうです。

また、IHIの石川島播磨工業の会長でいらした斎藤保さんと対談したときに、石川島播磨がIHIとして残っている理由に最上位の目標の存在がある、と聞きました。江戸時代、黒船が来たとき政府が作った造船会社として始まったが、途中で最上位の目標である経営理念を皆で詰め「科学技術を使って社会に貢献しよう」と定めた。そして末端まで全員が常に仕事上で意識をして、自問しているのだそうです。現在は造船をしていませんが橋を造ったり宇宙作業に進出する一流の会社に成長しています。

今の社会の目標はというと、誰一人置き去りにしない社会、それを追求して行くことで社会が持続可能になること。これが今、人類が探し得た最終目標だと思うんです。もう何度も失敗して到達した究極の姿なのだと思います。

トークテーマ2 対立を恐れずに対話をするには


植山  対話をしていくには利他の精神とか倫理観、道徳観が大切、とお考えですか?
 
工藤 僕は民主主義というのはもっとドライだと思っています。結局は利害なのです。各々が利益の担保ができるように全員なOKな社会をつくるということなのですが、将来にわたり自分や子孫が困らない、持続可能な社会をつくっていくということは、思いやりではなく、ドライにどうやってみんなで合意するかということなのです。

陥りがちな対立を3つに分けると、1つは感情の対立。これは質が悪く、許さないという心が出て物事を決定できなくなります。2つ目は考え方、価値観の対立。3つ目が最も重視しないといけない利害の対立です。

対立があって誰かの利益を損ねるという状態はダメなので、対処を追求すると、まず、感情的になるのを止めようということになります。感情と理性を切り分けて理性的に物事を考えましょう。本物の心の教育として、理性的に物事を考えて皆の利益が損なわれている状態をオッケーに変えましょうということです。

心の教育といって、実際には皆多様で心が違うのに団結を求めたり、心を一つにしようというのはおかしいです。今度のことで何で団結できないの?とか今はこれをやる時、というのが優先される社会は危険で、人にはいろいろな特性があり、それぞれがOKということが大切にされる社会が大事です。

     

ー後編は、トークテーマに沿ったお話の続きと、MINTの参加者による感想をお届けしますー

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