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研究者を目指している方のために(2)


はじめに

 私は病院で働きながら大学院で学び、運良くして教育・研究職のポジションを獲得することができましたが、最近では大学院進学率が上昇しており、教育・研究職のポジションを獲得することが難しくなりつつあります。また、私が人事選考を担当してみると、応募者が教育・研究職に求められる専門性を把握しないまま応募していると感じることがあります。当然のことですが、博士課程で学ばれているときや研究員生活をすごしているときには、それぞれの課題に夢中になる訳ですから、大学の教育・研究職に求められる専門性の把握に気を配れない状態になるのが当たり前です。
 そこで今回は、大学ののポジション獲得に向けた準備について、応募書類を紹介しながら私見を述べ、大学での職を志している方に役立つことを願います。

STEP1:募集を確認する

 大学の教育・研究職公募は、国立研究科学法人 科学技術振興機構(通称:JREC)と大学ホームページで確認します。JRECは、大学や研究所等の公募が確認できる最大級のWEBサイトです。公募状況は鮮魚の様に、刻々と状況が変化していきますので、いつアクセスして情報を得るかが重要です。公募"量" は、欠員補充時期(前期8月〜9月と後期3月)にピークを迎えます。各大学で募集開始の時期が異なります。例えば、着任1年前から募集を開始する大学、着任数ヶ月前に募集を開始する大学など様々です。同じ大学であっても学部ごとに方針が異なることもありますので、定期的に見てくださいね。 また、大学公式ホームページに掲載される募集も有力な情報源です。希望するエリアや大学がある場合には、JRECと合わせて随時確認しておくことが良いかと思います。
 次にいつ頃からという話をします。 大学院で学んでいる時期から定期的にJREC等を眺めて勤務地、業務内容、職位、給与等の情報を見比べると、徐々に自分の希望が考えられる様になると思います。 先に情報収集を初めていれば、1~2年間を業績整備に割り当てる時間が生まれるということになります。

STEP2:応募書類の種類を知る

 就職活動で使用する書類は、履歴書ですよね。教育・研究職を対象にした応募書類の中にも履歴書があります。ただし、教育・研究に特化した履歴書です。その他に①教育・研究の抱負と志望理由書、②研究費の獲得状況書、③資格証や修了証、④執筆論文の複写等があります。
 これらの書類準備は、想像以上に時間がかかります。また、入念に業績整備していたとしても、実際に書類を作成してみることをお勧めします。実際に項目を埋めていくだけで、様々な準備不足に気が付きます。やはり、教育・研究に特化した履歴書とは、想像以上に幅広く、また専門性も求められますので理解しておくことをお勧めします。

STEP3:教育・研究に特化した履歴書を理解する

  1. 学歴:学歴は履歴書の表紙にあります。この項目内に、修士論文題目、博士論文題目を記載しますので、大学院で何に取り組んかが重要です。書類審査を担当する委員は教育・研究者で卓越した方々になりますので、応募要件に適した研究であるかを照合されると考えて良いかと思います。大学院の研究以外にも研究活動を実施しているかもしれませんが、表紙に記載するインパクトは大きいです。丁寧に表題を決定してください。

  2. 職歴:職歴も履歴書の表紙にあります。この項目は、担当授業科目名が記載できますので、教育歴がある方は適切に記載されると良いと思います。この職歴は、これまでの職歴から実務経験歴や教育歴を確認します。私見ですが、教育・研究職にも実務経験が重要でありますので、その経験に関与する職歴の下段に"主な業務内容"を短く記載し、審査員が理解しやすい様にします。

  3. 所属学会:教育・研究に特化した履歴書らしい項目です。所属している学会は、自身の専門や興味関心を示す項目です。①どの学会に所属しているか ②どれぐらいの期間所属しているか ③会員の種別は一般会員、専門会員、名誉会員、補助会員のどれか ④査読審査員や評議員等の役割を担っているか等を記載します。私見ですが、自分の専門性に関わる主要な学会で活動実績があることが望ましいので、所属学会数は気にする必要はありません。

  4. 社会における活動:教育・研究は社会に還元されるべきものでありますので、とても重要な項目です。個人研究に意欲的に取り組まれている方が見落としがちになりやすい項目ですので、指導教員の社会活動を参考にして専門性をどの様に社会活動につなげていくかを考えることをお勧めします。私が審査員を務めるときは、どの様な社会活動実績があるかを確認しています。社会における活動は、講演会の講師やボランティア活動への参加等も含まれるので、幅広い活動を継続的に実施していることが良いですね。

  5. 賞罰:学会や論文発表での受賞を書くことになりますが、地方学会から国際学会までの受賞歴がある方は注目🎯されます。ぜひ、国際学会での受賞を目指しましょう。

  6. 研究分野と研究内容のキーワード:研究に関わる情報で最初に列挙される内容です。可能な限り的確な表現に努め、学会発表や論文の内容に対応した研究キーワードを記載します。あまり気にせずにキーワードを設定される方がおりますが、審査員に伝わらないまたは新規性に欠けた研究表現は良くありません。

  7. 教育方法の実践例:教育歴のある方は、どの場所で何の授業科目を、どの様な方を対象者にして、どの様なことを実施したのかと言うことを1項目あたり150文字以内でまとめることを習慣化すると良いかと思います。作成した教科書や教材、アクティブラーニングの有無無等を記載します。もし、教育を実践した機関で評価を受けた場合にはその概要を併せて記載すると良いでしょう。また、実務経験の内容についても教育実践に関連する活動ということで記載して良い部分なので、実務経験が教育とどのように関連しているかを述べると良いでしょう。 

  8. その他委員歴:職歴の中で委員会に所属していた、ワーキンググループに参加していた事などを自由に記載します。

  9. 職務上の実績に関する事項:資格、免許、特許等を記載します。難易度が相当高い資格や免許等について、難易度が相当高いということを伝えることを意識してください。例えば、海外留学をして大学院に入学して2年間の課程を修めて、国内では稀な学位を取得した場合があります。カタカナ表現で○○大学大学院修了とだけ書くと、ほとんど気づかれません。このような場合は、○○国にある○○大学大学院修了(英語表記)し、〇〇学位取得(英語表記)として、備考欄に語学試験に合格し、正規の課程で学んだことを記載すると良いかと思います。国際的な行動力を表す活動は、どの時代でも評価されます。

  10. 研究業績等に関する事項:著書、論文、学会発表に分けて記載します。稀な例かもしれませんが、本人担当分を記載することがあります。研究論文に対してどの様な役割でどの様に担当したかを具体的に書きます。これから教育・研究職になることを目指している方にとっては、何回学会発表した、何本の論文を執筆した等の点数(量)が気になるかと思いますが、『量よりも質』の時代ですので、『教育・研究職のポジションについてから、研究業績が伸びる』ということが伝わるように、研究の背景や研究目的および研究方法で審査員に評価してもらえるよう、質にこだわれて研究を進めましょう。

STEP4:良い履歴書をねらい活動する

 私見ですが良い履歴書というのは、希望職位に応じて定義が異なると考えています。例えば、修士号や博士号を取得されたばかりの方が教育・研究職を希望している場合は、『助教相当の水準』で良い履歴書かを見極めます。これから教育・研究職のキャリアを歩み始める段階ですので、修士論文や博士論文の内容と実務に関連する経歴を参照して、研究活動の内容からその可能性(ポテンシャル)を見極めます。したがって、修士論文や博士論文の質が高い、着想が良い、斬新である事などがわかる履歴書が良い履歴書です。一方、教授相当の水準で良い履歴書とは何か、『社会活動におけるリーダーシップが国際学会水準であること』です。専門分野で研究論文を沢山執筆していますということを主張なさる方がおりますが、それだけですか?と聞きたくなります。教授ともなれば、専門分野を発展させるために国際的に尽力している実態(実績)にはじまり、地域貢献している実態(実績)の全範囲が必要です。
 ここでは、良い履歴書の定義が希望職位によって、活動の多様性と重みが変化することを述べさせていただきました。

STEP5:総合的な研究活動で履歴書を書くための情報を整理する

 まず、研究者にとって重要な能力は、研究活動に関わる能力です。そのため、国際学会の発表や論文が重要な評価項目の一つです。ただし、簡単な国際学会での発表数が多くても評価されません。専門分野においてゴールドスタンダードになっている国際学会での発表数が多くなることを志してください。ここ数年、国際学会のオンライン開催でオンデマンド発表が出現しました。この発表形式は、事前に発表内容を収録した動画を学会に提出して、定められた時間に公開し、チャットなどを使用して質疑応答を実施する形式です。出現した当時は、効率的で良い発表形式と考えていましたが、リアルタイムの質疑応答がないために発表者のコミュニケーション能力改善が得られないことに気づき、現在では良くない発表形式と捉える様になりました。私が危惧しているのは、将来の社会貢献に向けたコミュニケーション能力や国際的なリーダーシップが育ちづらく、育たなかった場合においても教育・研究職である限りにおいて国際的な能力は必ず求められる時期がきますので、淘汰されてしまうのではないかと考えているからです。学会参加では予算の都合もあると思いますが可能な限り対面での国際学会発表を経験して頂きたいと考えます。私見ですが、国際学会での対面発表をして、質疑応答で得たヒントがとても有意義な知的財産です。
 さらに、ゴールドスタンダートの国際学会や国内学会の会員になるということは、有意義な交流と学ぶ機会を増やすことに貢献します。ただし、活動実績が無い会員では意味がありませんので、学会が主催する学術大会や研修会及び情報交換会等に参加して、実質的な会員活動を実施することが必要であり、これも研究活動の重要な部分です。著名な先生と面識があるということよりも、実質的な活動が重要ですね。また、学会であれば、どの学会でも良いというわけではありませんので専門性を見失うことなく、吟味をして欲しいです。
 そしてさらに、研究課題を明確にするために系統的に論文を読解して、研究課題を明確化することは研究業績として示しずらいことですが、執筆された研究論文を読めば、先行研究の読解力と統合力さらに自身の研究についての斬新さ、必要性などが窺えます。したがって、研究論文の量よりも、質にこだわって研究に取り組んでいくことが、重要です。

STEP6:応募のタイミングを見極める

 一度作成した履歴書は随時または3ヶ月ごとに更新する習慣にして、応募のタイミングを見極めると良いと思います。業績が更新されたら履歴書を更新する習慣があれば、内省できる機会が増しますので、次何に取り組んできたいか、または何に対する取り組みを強化するかと考える事ができるかと思います。
 応募したい大学の公募があれば、自身の業績やタイミング等を検討して、書類提出をされると良いでしょう。 募集が少ない大学で募集が出た場合には、多少業績が少なくとも、応募してチャレンジしてみましょう。 

STEP7:面接や模擬講義の準備をする

 書類審査の後に面接や模擬講義が設定されている大学があります。書類審査の結果が届いてから面接や模擬講義の準備をはじめると、準備が間に合いません。 書類の発送を終えたら、面接の準備から始めると良いかと思います。以下に、面接準備の項目をあげます。

  • 大学ホームページの情報を整理する:建学の精神やアドミッションポリシー、カリキュラムポリシー、ディプロマポリシーを確認して、特に共感できる部分や自身が貢献できる部分をリストアップし、具体的にどのように貢献できるのか、またはなぜ共感できるのか?ということを整理しておくと良いでしょう。

  • 応募学部の情報を整理する:大学の特色は、学部または学科ごとに異なりますが、応募者が学部・学科の情報を把握していない状態を人事選考の場面で見受けます。審査員とすると、所属予定の学部・学科の事を把握しないで応募してこられても・・・とネガティブになること間違い無いですよね。ここは自分が採用されたら、どの様なことから貢献できるのかという視点で考えを整理されると良いかと思います。ただし、貴学の教育・研究を底上げしますと言われても・・・・いやいやあなた、となるのではないでしょうか。

  • 面談を想定してQ&Aをする:①志望理由、②本学の教育・研究特色、③学部・学科の特色、④本学の地域貢献、⑤本学生の特徴や特色、⑥就職先、⑦自身の強みと弱みおよび性格、⑧自身の専門について、⑨自身が行いたい授業科目について、⑩学生の学習・生活支援について等

模擬講義の実施依頼が届いたら、準備を始めてください。模擬講義は、学生を対象にした授業の準備を行い、審査員を学生と想定して模擬講義を実施するものです。そこで、資料の作成、学生に対する説明の方法やコミュニケーションのやり取り等を審査員が体験し、この授業を学生に提供したいという事をみるものです。しかし、応募者の中には、審査員を学生だと思えていない方、自身が作成した過去の研究発表内容を授業資料としてそのまま使用する方などもおり、実力差がわかります。悪い模擬講義の要素を以下にあげますので、参考になれば嬉しいです。

  • 資料が見えずらい:文字が小さい、図表の表題や単位がない、解説がない、資料の枚数が多く制限時間内に終了できない。

  • 声が聞き取りづらい:小さな声、重要な箇所を繰り返さない

  • 視線が学生を向かない:スクリーンを見てばかり話され、学生に背を向けながら進める。

  • 一方通行:ただ、音読をしているような講義で教科書を読んだ方が良いと感じるような講義です。学生に質問したり、学生の理解度を確認しながら双方向の授業になるよう心がけて下さい。 練習していても本番ではうまくいかなかったということは、気にしないでください。 審査員はそれを読み解くことができます。

STEP8:面接や模擬講義の実施

 今まで準備してきたことを、そのまま実施できないこともあります。それが普通ですよね。なので、できるか、できないかということよりも、ここまで準備してきて、本番に臨むということができている自分を褒めながら面接や模擬講義を実施していいんです。 プロ野球選手でも、素振りやトレーニングをしないまま、試合に臨む事が無いと思いますので、そのように準備をされてきたということは半ばプロ意識があるということです。 自信をもって! 応援しています。

まとめ

 ここまで大学教員を志している方の準備に役立つ事を願い、教育・研究に特化した履歴書の概要とそれの完成に向けた業績のあり方について私見を述べさせていただきました。 それでは、また! 

 

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