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経済

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2023年5月の記事一覧

財政マネタリストが使い続ける相関グラフ

「税は財源ではない」カルトの教祖の一人・中野剛志が、近著の『どうする財源』で例の散布図を引用している。 財政支出でGDPをコントロールできるという「財政マネタリズム」とでも呼ぶべき論である。 このグラフは起点(t=0)とn年後の名目GDP(Y)と一般政府支出(G)の関係が $$ \frac {Y_n}{Y_0}≒\frac {G_n}{G_0} $$ となっていることを示している。これを変形すると $$ Y_n≒\frac {Y_0}{G_0}G_n $$ となる

「安い日本」が新常態

購買力平価よりもかなり円安の水準が新常態になるのではという考察だが、つまりは生産性が先進国に比べて低いので、非貿易財・サービスや労働力が安い後進国に退行するということである。発展途上ではないので後退国と言うのが適切かもしれない。 実質実効為替レートは1973年の変動相場制移行前の水準にまで低下。 円安→輸出ドライブにならない産業構造に転換している。 経常収支は黒字を続けているが、内訳が大きく変化している。黒字は同じでも、貿易収支の黒字は国内生産を伴うが、所得収支の黒字は

レイオフのススメ?

『Voice』5月号の特集「逆襲の日本経済」に竹森俊平がレイオフのススメ的なことを書いているが、確かに、日米では雇用のあり方が対極的である。 グラフは失業率で、青がアメリカ、赤が日本(黒はOECD平均、薄い線がユーロ19か国)。 この「柔軟な雇用市場」がアメリカ経済の強みであることは理解できるが、中谷巌が『資本主義はなぜ自壊したのか』で懺悔していたように、国民意識や社会環境が全く異なる日本に移植しても同じ結果が得られるとは限らないことは覚悟しておく必要がある。 やるのな

『Voice』のクルーグマンインタビュー

『Voice』5月号にポール・クルーグマンへの巻頭インタビュー「世界インフレは本当に去ったのか」が掲載されていたが、変な箇所がある。クルーグマンがこの通り発言したのか、翻訳・編集の問題なのかは不明。 市中銀行が日銀から受け取る現金(実際は当座預金=電子化された現金)は又貸しするものではないので、世の中(市中)には出回らない。中央銀行は原則として市中には直接的に現金を供給しない。 マネタリーベースは10倍以上になっていないし、名目GDPは2倍にもなっていない。どこからこの数

宮澤首相と歴史のIF

昨日の続き。 若者人口が極大期にあった1990年代に革新と成長を実現できなかったのはバブルの後処理に失敗したからだが、歴史のIFとして宮澤喜一首相に政治力があり、二つの構想を実現できていれば、全く違う90年代とそれ以降の日本経済があり得たかもしれない。 一つは不良債権処理で、1992年8月が分かれ道だった。 これ👇は元朝日新聞の証言。 https://www.jnpc.or.jp/journal/interviews/25696 こちら👇は内閣府経済社会総合研究所の

日本の活力低下

『ヒトラーの大衆扇動術』は某市の前市長の煽動術を理解する上で非常に役立つ本だが、この👇箇所は日本経済の停滞感の説明になっている。 当noteでこれまでに書いてきたことだが、日本経済の停滞感の原因は積極財政派が言うような財政赤字が少なすぎることではなく、老化(人口の高齢化)だと考えられる。日本は総人口の半分近くが50歳以上になっているので、やる気・血気・活気・活力が湧いてこなくて当然である。 昔、ツーカーのCMで松本人志が「日本はおじさん・おばさんだらけ/結構年を取っている

「失われた30年」を止められなかったのは成功だったから

現状認識には概ね同意できるが、構造改革によって日本経済は失敗したのかもしれないが、日本企業は失敗していない、というより「利益が増えている」のだから成功しているということが重要である。 日本企業は経済産業省の思惑通り、株主重視経営を成功させている。 クローズアップすると、配当が劇的に増えていることがよく分かる。 人件費抑制&配当激増が株主重視経営の成功を表している。 企業にとっては現状は「成功」なので、変わる必要性がない。「様々な制約を取り払い企業間の競争が活発になれば

明石市前市長「国と地方の歳出の半分は無駄」

明石市の泉前市長(収録時は現職)が対談で「国と地方の歳出の半分は無駄」と発言しているので、それが本当かどうかを考えるためのデータを示す。 👇は2019年度と2021年度の国と地方の目的別歳出純計(公債費を除く)をツリーマップにしたもの。2021年度は新型コロナウイルス感染症対策のために衛生費と商工費が増えている。 泉前市長は民生費(児童福祉費、社会福祉費、老人福祉費、生活保護費、年金関係費等)と教育費は「無駄」に含まれないと考えているようだが、この二つで2019年度は51