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経済

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2020年2月の記事一覧

資本コストアップ・労働コストダウン

投資業界や企業ファイナンス関係者以外には馴染みがない株主資本コストの重大性について整理する。 現在の日本では家計所得(個人企業を含む)の約7割は賃金・俸給なので、国民が豊かになることは実質賃金の上昇とほぼ同義になる。しかし、個々の企業レベルでは賃金はコストであり、その増大は株主利益を減少させる。この対立関係を止揚するのが労働生産性向上であり、そのためには設備投資による資本装備率の上昇と技術進歩が必要になる。従って、「賃金上昇→設備投資→資本装備率上昇→労働生産性上昇→賃金上

日本再興=夕張化

2012年11月の景気の谷から続く現在の景気拡大期の際立った特徴は、就業者数が急増したことと(特に女)、実質GDP÷就業者の伸びが止まったことである。2013年→2019年の6年間では実質GDP+5.5%、就業者+6.3%、就業者1人当たり実質GDP-0.8%となっている。2012年→2017年の5年間は実質GDP+8.8%、就業者+1.5%、就業者1人当たり実質GDP+7.1%だった。 1990年以降に就業者1人当たり実質GDPの伸びが止まった時期はバブル崩壊、金融危機、

国際収支が示す日本経済の「張子の虎」化

国際収支(~1995年は5版基準、1996年~は6版基準)の変化をグラフで確認する。 2019年の貿易収支の黒字は対GDP比0.1%に縮小したが、 サービス収支は赤字から黒字に転換した。 経常収支の黒字は主に第一次所得収支の黒字によるものである。 経常収支の内訳は大きく変化している。傾向としては貿易収支⇩、サービス収支⇧、第一次所得収支⇧となっている。 サービス収支の黒字転換には、旅行収支の寄与が大きい。 第一次所得収支の黒字増加は、対外投資の増加を反映している。

消費増税の打撃が誇大宣伝される理由

「消費増税が経済に打撃」と強調する記事が目につくが、真の問題から国民の目を逸らすためのスピンではないかと疑われる。 日本政府は昨年10月に消費税率を8%から10%に引き上げた。その結果、消費支出が大幅に落ち込み、家計支出は10~12月期に年率換算で11.5%減少した。 1997年と2014年に消費税を引き上げた際も同じように経済が大きな打撃を被った。過去25年間に家計消費が最も大きく落ち込んだ3度の四半期は、いずれも消費税が引き上げられた時のことだ。 これ(⇧)は実質の家

2019年の実質GDP

2019年10-12月期のGDP速報から、実質のGDP、国内需要、民間需要をグラフにする。赤マーカーは消費税率を引き上げた1997年Q2、2014年Q2、2019年Q4、橙マーカーは金融危機の1997年Q4とリーマンショックの2008年Q3である。 季節調整系列 原系列の4Q累計 2012年11月を谷とする現在の景気拡大期の特徴は、就業者1人当たりの実質GDPの伸びが止まっていることである。 安倍政権は生産性革命や働き方改革を掲げているが、現実の日本経済は労働生産性向

経済音痴のれ新代表(と軍師)

れいわ新選組の山本太郎代表の発言を検証する。 山本太郎のQ&A18分頃~の国民年金に関する質問への回答 年金という制度自体をもう国としては止めてもいいんじゃないかというふうに思っています。もう既に払われているお金に関しては当然戻していく作業が必要でしょうとは思います。自分で将来に対してもらえる額を積み上げていくんですよね。それなら国がやらなくても民間でもいいかもしれないですよね。そういうシステムが必要な方々は。今、国民年金として積み上がっているものとして100兆円位あるわ

1人当たり家計所得

日本経済の異常さは、家計(個人企業を含む)の総人口1人当たり所得が四半世紀前よりも少ないことが物語っている。グラフからは、バブル経済崩壊の1991年度と金融危機の1997年度がターニングポイントだったことが見て取れる。 (大きいマーカーは消費税導入・税率引き上げの年度) 実質ベースでも2018年度は1997年度比で+4%に過ぎない。 長期的に見ると、完全に増加が止まっている。このような異常な状況を何とかしようというムーブメントが国民の間からも政治家からも出てこないという

ハイパーグローバリゼーションから離脱したイギリス・突き進む日本

Brexitの立役者のナイジェル・ファラージは、欧州議会での旗を振るパフォーマンスなどお笑い的なイメージで見られがちだが、非常に本質的なことを語っているので是非聞いてもらいたい。 冒頭では、共通市場に参加したつもりが政治統合など異質なものへと変化したことを指摘。 2:50~では、EUがundemocraticだけでなく、accountabilityの無い人々に力を与えたanti-democraticなものだと批判しているが、これはDani Rodrikの"Globaliz

「消費増税→税収減少」は事実誤認&財界の変節

また中野剛志が事実に反することを書いているので指摘する。大企業経営者の変節についても考察する。 デフレ下での消費増税が消費の減退とデフレをさらに悪化させることを、我が国は1997年と14年の2回にわたって、実証している。景気が悪化すれば税収も減少するから、結局、財政健全化は達成できないことも、学習済みだ。 1997年4月、2014年4月、2019年10月はいずれもデフレ下ではない。 消費税率引き上げ前後で駆け込み需要と反動減が生じるのは当然なので、景気動向はその後の数四