消費増税の打撃が誇大宣伝される理由

「消費増税が経済に打撃」と強調する記事が目につくが、真の問題から国民の目を逸らすためのスピンではないかと疑われる。

日本政府は昨年10月に消費税率を8%から10%に引き上げた。その結果、消費支出が大幅に落ち込み、家計支出は10~12月期に年率換算で11.5%減少した。
1997年と2014年に消費税を引き上げた際も同じように経済が大きな打撃を被った。過去25年間に家計消費が最も大きく落ち込んだ3度の四半期は、いずれも消費税が引き上げられた時のことだ。

これ(⇧)は実質の家計最終消費支出のことなので、グラフで確認する。赤と緑のマーカーは

赤:消費税率を引き上げた1997年4月、2014年4月、2019年10月
緑:金融危機の1997年11月、リーマンショックの2008年9月、東日本大震災の2011年3月

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消費税率引き上げの前後では駆け込み需要と反動減が生じるので、前期比での落ち込みが大きいことは、必ずしも「経済が大きな打撃を被った」ことを意味しない。事実、前年同期比では金融危機やリーマンショック後の減少率の方が大きい。

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駆け込み需要と反動減が相殺される1-6月期と7-12月期の半期ベースではこのようになる。

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2014年4月以降の消費の落ち込み・停滞が長引いたのは、「日本を取り戻す」「日本再興」などと喧伝していた安倍政権の発足によるマインド改善の効果(消費ブーム)が一巡して国民が我に返ったことが大きいと思われる。2015年6月にはチャイナショックも起こっているので、消費税率5%→8%だけを原因とするのは適切ではない。

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消費増税が家計消費に打撃になることは間違いないが、そのことを強調する論者が(おそらく、意図的に)言及しないのは、家計所得が20年前よりも少ないから消費税率引き上げの打撃が大きくなっていることである。

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真の問題とは、株主利益優先のために労働分配率が引き下げられたことであり、消費税率引き上げの悪影響を実態以上に大きく騒ぎ立てることは、そのことから国民の目を逸らすためのスピンになっている。

「消費税率引き上げの打撃はリーマンショック級かそれ以上」などという論者もいるが、リーマンショックは完全失業率が短期間に1%ポイント以上も上昇するほどの激烈なショックであり、消費税率引き上げとは比較にならないほど大きい。専門家の端くれならいい加減なことを言うべきではない。

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