「消費増税→税収減少」は事実誤認&財界の変節

また中野剛志が事実に反することを書いているので指摘する。大企業経営者の変節についても考察する。

デフレ下での消費増税が消費の減退とデフレをさらに悪化させることを、我が国は1997年と14年の2回にわたって、実証している。景気が悪化すれば税収も減少するから、結局、財政健全化は達成できないことも、学習済みだ。

1997年4月、2014年4月、2019年10月はいずれもデフレ下ではない。

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消費税率引き上げ前後で駆け込み需要と反動減が生じるのは当然なので、景気動向はその後の数四半期を見て判断するのが適切である。下のグラフの赤マーカーは消費税率引き上げ、緑マーカーは金融危機(1997年11月)、リーマンショック(2008年9月)、チャイナショック(2005年6月)だが、景気後退・減速の主因は消費税率引き上げではなく金融ショックであったことが見て取れる。

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平成28年度「年次経済財政報告」

こうした中、2015年度の景気動向については、緩やかな回復基調が続いているものの、一部に弱さもみられた。中国経済を始めとする新興国経済の落ち込みや、それに伴う国際的な金融資本市場の動きによって、我が国の金融資本市場も大きく変動し、企業や家計のマインドへの影響を通じて国内需要が下押しされた。また、中国の経済構造の転換や資源価格下落によって新興国・資源国の需要が弱かったこともあり、世界貿易の伸びが低いものにとどまる中、我が国の輸出についても弱さがみられた。こうした外的要因のほか、国内の要因についても、実質賃金の伸びが弱いものにとどまったことに加えて、耐久財の買い替え需要の先食い、食品価格等の上昇による消費者マインドの改善の足踏みや冷夏・降雨や記録的な暖冬といった天候要因等を背景に、個人消費の伸びがマイナスとなった。

1990年以降の失業率の上昇はバブル崩壊、金融危機、ITバブル崩壊、リーマンショックの四度で、2014年は景気後退には至っていない。

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2014年以降も税収は増え、財政赤字も縮小している。消費増税すれば「税収も減少するから、結局、財政健全化は達成できない」は誤りである。1997年度以降の税収減には所得税の最高税率と法人税率の大幅引き下げの寄与も大きい。

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中野は「消費増税の凍結や積極財政に転じる」ことを求めているのだろうが、事実に反することをその正当化の根拠にしてはいけない。主張そのものには理があるのだから猶更である。

大企業経営者の変節

中野は大企業の経営者たちが「実践感覚をすっかり失ってしまった」ことを嘆いているが、

さらに残念なことに、平成・令和の時代には、高橋是清や三土忠造のような政治家も、松下幸之助のような企業人も、全くと言っていいほど現れなかった。それどころか、経団連や経済同友会は、さらなる消費増税を求めている始末である。松下が言った通り「自分で自分の首をしめるがごとくことさらに不景気を造っている」のだ。現代の財界人は、かつて松下がもっていたような実践感覚をすっかり失ってしまったようだ。日本が長期停滞から抜け出せず、没落の一途をたどっているのも当然である。

その起点は「今井・宮内論争」で宮内が勝利したことにある。

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」
「それはあなた、国賊だ。我々はそんな気持ちで経営をやってきたんじゃない」
94年2月25日、千葉県浦安市舞浜の高級ホテル「ヒルトン東京ベイ」。大手企業のトップら14人が新しい日本型経営を提案するため、泊まり込みで激しい議論を繰り広げた。論争の中心になったのが「雇用重視」を掲げる新日本製鉄社長の今井敬と、「株主重視」への転換を唱えるオリックス社長の宮内義彦だった。経済界で「今井・宮内論争」と言われる。
「終身雇用を改めるなら経営者が責任をとって辞めたあとだ」。「企業共同体」論に立って主張する今井に日産自動車副社長の塙義一らが同調した。生産現場の和や技術伝承を重視する経営者らだった。
富士ゼロックス会長の小林陽太郎も「効率や株主配慮は重要。場合によって雇用にも手をつけなければいけないのは分かる。だが一にも二にも株主という意見には、ちょっとついていけなかった」と話す。

日本経済新聞(2017年7月20日朝刊)「海外IR狂騒曲」

いつ頃からだろうか、外資系投資銀行に促され、あたかも遣唐史のごとく日本企業のトップ達は、ニューヨーク、ボストン、ロンドン、エジンバラなど投資家の集積地を定期的に訪れるようになった。

雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」とは「国民がどうなろうと知ったことではない」という意味である。その一方で、配当は激増して株式時価総額はバブルのピークを上回っている。

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従業員の給与(→生活費)を削って株主に報いれば自分の報酬も増やせるので止められない。

安倍首相も2012年末の政権発足当初からグローバル投資家の利益を最優先することを明言していた(下の発言は2015年と2014年)。

安倍内閣の改革は、どんどん進んでいます。中でも、私の改革リストのトップアジェンダは、コーポレートガバナンスの改革である。繰り返し、そう申し上げてきました。
24日からの国会に、会社法改正を提案します。これで、社外取締役が増えます。来月中には、機関投資家に、コーポレート・ガバナンスへのより深い参画を容易にするため、スチュワードシップ・コードを策定します。
金融ビッグバンとは、「要は資本の国際的移動を自由化する、外国人株主が日本の株式市場にどんどん参加できるようにするというのがポイント」と室伏さん。
MCの堀潤は「米国の投資家のための改革に聞こえる」と率直な感想を示すと、室伏さんも同意。
2015年の「労働経済白書」でも「企業の利益処分の変化が賃金が上がらない原因」とあるそうで、室伏さんは「利益処分とは、まさに配当にまわしてしまって従業員にまわしていないということ」と解説。

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労働分配率低下は配当を増やすため。

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発信力があり信者も多い中野には、消費税よりもグローバル投資家最優先について論陣を張ってもらいたい。

参考

大蔵省設置法第三条

大蔵省は、左に掲げる事項に関する国の行政事務及び事業を一体的に遂行する責任を負う行政機関とする。
一 国の財務
二 通貨
三 金融
四 証券取引
五 造幣事業
六 印刷事業

財務省設置法第三条

財務省は、健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ることを任務とする。

財務省が財政健全化を止め(られ)ないのは、「政治的な敗北を意味する」以前に、それが法で定められた任務だからである。

1990年代の行政改革・構造改革によって財務省は健全財政至上主義、大企業は株主利益至上主義に方向付けられたことが、「日本が長期停滞から抜け出せず、没落の一途をたどっている」根本原因である。消費増税はその大きな構図の一ピースに過ぎない。

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