Joylin

思考の海を泳ぐだけのnote。 考えてること、思い出したことを書いたり。短い小説も書い…

Joylin

思考の海を泳ぐだけのnote。 考えてること、思い出したことを書いたり。短い小説も書いてます。 日頃書いてるブログはこちら▶︎『星見る囚人』(https://www.prisoner-lookinstars.net)

マガジン

  • こわいおもいで

    一部創作のホラー短編集です。 供養のためにときどき書いてます。

  • DIOと呼ばれた女

    恋愛観がひどく歪んだ女の話。 それなりに大人な場面もあるのでご注意を。

最近の記事

呼ばれるひと

幽霊なんていない。 多くの人がそう言う。そんなものは気のせいだ、錯覚だ、幻想だ、と。 私もそう思っていた。 あんなことに遭うまでは。 大学時代、私は1歳年上のハルという女性と特に仲が良かった。 彼女は金髪のバンギャで、耳や顔にいくつもピアスを開けている上にパンクなメイク。すらっとした長身から伸びる細い四肢と目の下の隈がどこか狂気を感じさせて、ぱっと見ただけだとかなり近寄りがたい印象だったと思う。 そんな彼女と出会ったのは、私が大学1年生だったころの夏。バイト帰りに夜の繁

    • 鍵っ子だった頃の話

      大学進学を機に一人暮らしを始めるまで、私は団地に住んでいた。親は遅くまで働きに出ていて、学校から帰って一人で留守番をする…いわゆる「鍵っ子」だった。特段珍しい存在でもなく、幼い頃は特に危機感すらなかった。 地元は絵に描いたような田舎だ。畑、海、山、空き地、廃屋…錆と土と潮の匂いのする、ほとんど村と言っていいところ。息苦しいほど時がゆっくりと流れているような、そんな空気すらある。そういう空気も手伝って、危機感というものを感じにくかったのかもしれない。 かつては全国的なニュースに

      • 『JOKER』感想/スクリーンで「自分」を観た

        正直に言えば、観る前から話の内容はわかっていた。そして想像通りの展開だった。 ただひとつ予想外だったのは、見終わったあとに感じたのが「安心」であったことだ。 あの映画で描かれていたのは、「一歩隣りを歩く私自身の姿」だった。 幼少期の虐待、ネグレクト、精神障害、貧困、自制心と堕落との誘惑の間をふらふらと歩くアーサーは、まさに私そのものだ。死刑台への階段を登るかの如き背中に、そして道化の顔をして踊る体のうねりに、在りし日の自分が重なって見えた。 これまでの人生で、あの日あ

        • 男の子にも女の子にもなれなかった頃の話

          低身長、童顔、黒髪。 幼い見た目がずっとコンプレックスだ。 26歳という、いい大人な歳になった今でも「大人っぽくなりたいなあ」と思っている。けれど、かつてはこの感覚にかなり苦しんだ。 私は「男の子になりたい女の子」だった。 小さい頃から、私は母の着せ替え人形だった。母がかわいいと思う服だけしか持たされず、買い物に行っても全て母が選んでいた。(当時、自分で好きな服が買えるほどのお金と強い意志はなかった) 母か好むのは、「ザ・女の子」な感じの服。ピンクのカー

        呼ばれるひと

        マガジン

        • こわいおもいで
          6本
        • DIOと呼ばれた女
          4本

        記事

          『トンネル』―帰りしな

          「…さっきのじーさん、何やってん……」 止まった車のなかで、サトシがつぶやく。みんな思っていることだったが、誰も応えられるはずもない。放心状態だった。 しばらく沈黙が続いた。やがて、ハルが涙声でつぶやく。 「あのトンネル…なんかわからへんけど…やばい気配がいっぱいしてた…トンネル入ったときから、ずっと見られてた……車のなかに入ろうとしてて…」 それ以上は言葉にならないのか、ハルは押し黙って涙をこぼした。私はハルを抱きしめつつ、ユウとユミのほうを向く。 「トンネル出る

          『トンネル』―帰りしな

          『トンネル』―行きし

          この季節になるといつも思い出す。 私が大学3年生だったころ、バイトのみんなで行った肝試しのことを。 当時のバイト先で、男女六人で仲が良かった。 私、バンギャのハル、かわいい系のユミ、インテリのケン、野球好きのユウ、お調子者のサトシの六人で過ごすことが多かった。春には花見に行き、夏にはビアガーデン、秋はフットサル、冬はスノボに行くのが恒例。 それ以外にも、仕事終わりにはしょっちゅう飲みに行って、大学生らしいグループだった。 そんななか、ちょうど今くらいの初夏。バイト終わりに

          『トンネル』―行きし

          忘れえぬ傷2 少女から悪魔へ

          つづき。 そして家を出た家になるべくいたくなくて、遠くの高校へ進んだ。 高校生になってから、母は彼氏と別れた。お金のことで揉めている様子だったから、きっとそれが原因だろう。関係が切れて、私は一安心だった。 その代わり、私に対する母の拘束は驚くほど強くなった。 深夜に帰宅しようが外泊しようが何も言っていなかったのに、急にそれをひどく咎めるようになった。携帯でGPS追跡されるのはしょっちゅうで、門限を1秒でも過ぎようものなら3、4時間は罵倒し殴る蹴る…。 夜は母の隣に布

          忘れえぬ傷2 少女から悪魔へ

          忘れえぬ傷1 こどものころ

          傷を癒やすには、傷があること・痛みを感じること自体を自分で認めなければいけない。 長い自分語りになる。 それでも読んでくれるという変わり者のあなたに、愛をこめて。 お嬢から父無し子になった子ども時代田舎で一番大きな工場の次期社長である父と、武家の血を継ぐ豪農の娘である母との間に、私は生まれた。 小さなころは、それこそ蝶よ花よと育てられ、絵に描いたような幸せ家族だった。 しかし、父と母は別れを選んだ。 私の親権をめぐって言い争う(ときには手を挙げ、物が飛び交っていた)

          忘れえぬ傷1 こどものころ

          食べるのが苦手だった頃の話

          小さい頃、特に肉を食べた日には必ず決まって同じ夢をみていた。 小さい頃、私は「食べる」という行為自体が苦手だった。 動物も植物も自然に存在しているうちはあんなに愛らしいのに、それを管理し、殺し、そして食べるということが、ひどく恐ろしくておぞましいことのように思えて仕方なかった。 特にそれを強く感じるようになったのは、小学生で行った養鶏場見学で屠殺のことを初めて知ってからだ。 食べるために育て殺す、という行いに幼い私は恐れおののいた。 命が終わる瞬間のにわとりの瞳が、私の心

          食べるのが苦手だった頃の話

          文学ゼミ_4

          真夜中の文学ゼミ第4回目 「そうだったのか平安時代~娯楽編~」です。 かなりお久しぶりで、すみません…(^^; ちょっとだけガサゴソ音入ってしまってるので、音量は小さめがおすすめです。 今回は、平安のアウトドア・アクティブな娯楽とインドアな娯楽についてお話ししております。現代となんだか似てておもしろいですね。 和歌と物語のくだりは、話してる私が楽しくなっちゃてます笑 次回は「平安式恋愛のお作法」についてお話しする予定です。 お楽しみに!

          文学ゼミ_4

          文学ゼミ_4

          二度と行けない神社

          暑い夏の日だった。 私が9歳だったあの夏、人生で一番不思議な出来事に出会った。 誰にも信じてもらえない話だけれど、間違いなく本当にあった出来事。 あの夏、私は神様に出逢った。 * * * * * * 夏休みの自由を持て余していた9歳の私は、当時祖母の家に住んでいた。祖母の家は山のすぐ近くで、田舎だったこともあって遊び場と言えば山か海しかない。でも、私は山も海も大好きでよく遊びに行っていた。 子どもも少なく、ひとりで山や海に遊びに行くことも珍しいことではなかった。近くの

          二度と行けない神社

          『閉め忘れ』

          しつけに厳しかった母から言いつけられていたことのひとつに、「部屋の戸を閉めて寝ること」というのがあった。 よくわからないルールだったが、そういうものなのだろうと律儀に従っていた。私としても、狭い家のなかで戸を一枚隔てるだけでも、自分の空間が守られるような気がして、都合がよかった。 ある日、母が夜勤に出ることになり、私はひとりで夜を過ごすことになった。小学2、3年生のころだったと思う。当時からどことなく大人びてませた感じだった私は、特に不安を感じることもなく、ひとりで過ごすこ

          『閉め忘れ』

          『カーナビ』

          私が3歳か4歳だったころ、曾祖母が亡くなった。 遺影で初めて顔を見た(たぶん覚えていないだけで、曾祖母に会ったことくらいはあっただろう)曾祖母の死を理解できていなかった私は、通夜の早々に眠ってしまい、母は眠る私を車に乗せ帰宅することにした。 ここからは、後になって母から聞いた話だ。 曾祖母の家は自宅から遠い内陸部にあり、行くにも帰るにも山をいくつか越えなくてはならない。 方向音痴な母は、カーナビに自宅の住所を入力して音声案内に頼ることにした。 『案内を、開始します』 耳

          『カーナビ』

          DIOと呼ばれた女(4)

          最初から読む 仕事の間、リョータのことが頭から離れなかった。 _あなたに会いたい…_ そう言ったさざ波のような声音が、リサを見つめる星空のような瞳が、幾度も現れては消えた。あんなふうに声をかけられた回数なんて、もう覚えていないほど経験してきたのに、どうして…どうして彼だけが、こんなにも…。 「最上、もう出れるかー?」 「!!」 不意に背後から声をかけられ、リサは思わず肩をビクっとさせてしまった。振り返ると、鼻歌でも歌いだしそうなシンが立っている。荷物も持って、そわ

          DIOと呼ばれた女(4)

          DIOと呼ばれた女(3)

          最初から読む 前回の「DIOと呼ばれた女」はこちら 「最上(もがみ)ちゃん、今月も契約件数1位じゃん。これで4か月連続だっけ?」 「ええ、まあ…」 「さっすが、俺が見込んだだけのことはあるよな!ははは!」 がしっと肩を掴んでくるこの上機嫌な上司—藤原シン―の扱いに、リサは手を焼いていた。リサに好意があって女として見ているのは明らかなのに、彼はそんな気などないふりをずっと続けていて、どっちつかずな態度を続けている。面倒だ…。いっそのこと迫られたほうが対処のしようもある

          DIOと呼ばれた女(3)

          DIOと呼ばれた女(2)

          1話はこちら 物心つく頃には、何も言わなくても目の前の人間がどんな言葉を欲しているかわかるようになっていた。 リサが3歳のときに両親は離婚し、以降母子家庭で育った。母親は奔放なタイプで、何度も彼氏をつくっては別れ、リサに泣きつくのがお決まりのパターンだった。その経験が、否応なくリサを年齢以上に大人びさせていった。 小学生の頃には、同級生はもちろん教師までも、ほとんどリサの思う通りに動かせるようになった。特に、好意を持たせること、心酔させることに関しては意図してできるよう

          DIOと呼ばれた女(2)