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“いま”だから出来る、デジタルの力を使ったものづくりビジネスの最前線 - 前編

こんにちは。Printio(プリンティオ)です。
このnoteでは、9月29日にFabCafe Nagoyaさんで開催されたトークショーSerial Production Meetup vol.03 – 既存の製造業をデジタルモノづくりにシフトさせるにはのイベントレポートを綴ります。

イベントのテーマは「アディティブ・マニュファクチャリング」。オンデマンドプリントにも通ずる「製版無し」のものづくりのお話です。

前編ではアディティブ・マニュファクチャリングを知るために、論文の紹介を混ぜながら、綴ってまいります。後編では、実際にゲスト同士のセッションの内容やクロストークの内容に入ってまいりますので、前編・後編共に、おたのしみくださいませ。

Serial Production Meetup」は、2020年9月にオープンした「FabCafe Nagoya」のオープニング関連イベントとして開催されているイベントのうちのひとつ。プリンテッド・エレクトロニクス技術で世界をリードするエレファンテック株式会社と、材料や材料に紐づく技術のイノベーションを探求するイノベーションプラットフォーム「MTRL」が共同で開催する、Additive Manufacturing を切り口としてFABとものづくりのこれからを考察するイベントシリーズです。

第3回のゲストとして、エレファンテック株式会社 共同創業者 / 副社長の杉本 雅明さんと株式会社ロフトワーク / MTRL プロデューサーの小原 和也 (弁慶)さんと共に、Printioの代表であり株式会社OpenFactory代表取締役である堀江 賢司が登壇しました。

専門用語の飛び交うイベントでしたが、この記事では、なるべく簡単に、「ものづくり」初心者の担当のわたしが、同じように「ものづくり」にあまり近くないみなさまに向けて書きますので、知っている人にとっては当たり前のことも多いかもしれませんが、ご了承くださいませ。
もっと知りたい方はこちらから、元のトークイベントの動画をご覧くださいませ。

Additive Manufacturing(アディティブ・マニュファクチャリング)とは?

樹脂や金属を材料として使える3Dプリンターの登場などで加速しているのが「Additive Manufacturing(アディティブ・マニュファクチャリング」 によるものづくり。
しかし、そもそもアディティブ・マニュファクチャリングとはなんでしょう?

「アディティブ」は「付加」を意味する英単語。「マニュファクチャリング」は「製造工程」を意味する英単語。つまり、「Additive Manufacturing(アディティブ・マニュファクチャリング)」 は何も無い状態から“もの”を付加的に作っていく製造方法のこと

たとえば、飛行機の部品の中には、1個1千万するものもあります。そこまで高価になってしまう理由は、大量生産するわけではないにも関わらず、大量生産に向いている製造方法である「型」をつくって、そこに「素材を流し込んで部品をつくる」、という形の“ものづくり”をしているから。
しかし、デジタルとテクノロジーの力により、1個からつくれる“ものづくり”が少しずつ可能になってきています。それこそが「Additive Manufacturing(アディティブ・マニュファクチャリング」です。

これは、「版(型)がない」という意味で、オンデマンドプリントにも通じる”ものづくり”の在り方です。

デジタルモノづくりの“いま”

PART1
『Additive Manufacturing の最新潮流について考える
:MTRL 小原和也(弁慶)さん より』

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ものづくり(製造業)は、現在
1.すぐ使われなくなってしまう(製品ライフサイクルの短縮)
2.自動でつくれない(生産ラインの自動化)
3.情報と設備をつなげていない(製造拠点のネットワーク化)
4.環境負荷がかかってしまう(環境負荷の低い生産の実現)

など、大きな問題をたくさん抱えており、変革が迫られています。

そんな大きな変革をもたらすことができる、製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現としてのデジタルによる製造「デジタルマニュファクチュアリング」。

「デジタルマニュファクチュアリング」は、簡単に言えば、製品の設計とものづくりの仕方を同時にデジタルを駆使しながら定義して、ものづくりを行うこと、つまりは、「デジタルものづくり」のこと。(なので、「アディティブ・マニュファクチャリング」も「オンデマンドプリント」も「デジタルマニュファクチュアリング」のひとつですね。無駄を抑えた効率的な製造にもなるので、環境にもよいSDGsな“ものづくり”とも言えます。)

しかし、“デジタルものづくり”によって、少量生産が可能になるからといって、そんな簡単にシフトチェンジが出来るものではありません。
従来の方法で製造しているところから、一気に“ものづくり”の在り方が変わってしまうわけですから、そういう訳にはいかないものです。

だからこそ、ハイエンドモデルや限定生産品から少しずつ始めることが多いのが、デジタルマニュファクチュアリング(デジタルものづくり)。

たとえば、車の部品で、「スペアパーツ」での導入もそのひとつ。欠品が出ることがある、でも、普段からたくさん使うわけではない部品を「データ」として持っておき、必要になったらデータを引っ張ってきて製造する。そんなことがデジタルマニュファクチュアリングでは可能になります。
それから、ファッションをサステナブルな方向へと導く「メイド・トゥ・オーダー(商品注文を受けてからものづくりを始める、オーダーメイド品)」の考え方もデジタルマニュファクチュアリングで実現可能です。
海外だと「JCRT」が大々的にこの考え方による服づくりを打ち出しています。JCRTは、ファッション業界のオスカー賞とも言われているCFDAに選出されたデザイナー2人によって設立され、WEB上での商品受注、ものづくり(印刷、カット、縫製)、そして、発送まですべてを同じ屋根の下から行うオンデマンド製造のファッションブランド

それでも、やっぱり「オンデマンド製造」というのは、週に数枚のニッチなビジネスなんじゃないの?という懸念が、大量生産・大量消費に慣れてしまったわたしたちには付いてまわってしまうものです。
ものづくりの現場もそれは同じです。

しかし、そんななか、製造業におけるデジタル化のビッグニュースとしてあるのが、「BMW」による3Dプリント製造拠点のオープン(2020年6月)。3Dプリント製造で年間10万点以上3Dプリント部品を製造し、実装するぞ、というニュース。このニュースのすごいところは、「ハイエンドモデル」でも「限定生産品」としてでもなく、“ボリュームゾーン”にすでに切り込んでいるところ

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近しいニュースは国内でもあります。オリジナルグッズを作れて、売って、買えるサービス「SUZURI」は、2020年の夏のセールの8日間でTシャツを11万枚以上売り上げました。

このことは、本格的に「ボリュームゾーン」にデジタルマニュファクチュアリングの市場が届いてきているという事を意味します。
そんな“いま”だからこそ、“デジタルものづくり”をビジネスとして成り立たせ、デジタルものづくりへのシフトチェンジに切り込めるのではないでしょうか?

PART2
『セッション1:エレファンテック株式会社 杉本雅明さん』

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“いま”だからこそ、デジタルマニュファクチュアリング、という話が出ていますが、実は、2015年時点で最終用途部品の生産の世界市場の51%(約27億米ドル)をも3Dプリンター製造の製品で実装されているという2017年の論文もあるのです、という紹介から始まった本セッション。

杉本さんは、設計と製造のための3D印刷の基礎、アプリケーション、およびビジネスへの影響に関することを学べるオンラインコース「MITXPRO」に現在参加されているそうで、そこで感じているのは、日本のデジタルものづくりへの遅れだそう。

セッションの内容に入る前に、せっかくご紹介いただいたこの論文にも簡単に触れてみます。

論文「Industrial and Consumer Uses of Additive Manufacturing: A Discussion of Capabilities, Trajectories, and Challenges 」

2017年にイエール大学で発表されたこちらの論文によると、

アディティブ・マニュファクチャリングの構想・方法は、20〜30年前に発明され、実証されているとのこと。ただし、2016年のタイミングで既に過去28年間の平均複合年間成長率に匹敵する17%の成長をアディティブ・マニュファクチャリング産業は遂げていて、指数関数的な伸び方をしているのは間違いないそうです。

そして、アディティブ・マニュファクチャリングの使用が急速に増加しているが、これは、ソフトウェア開発が進んだことや、ハードウェアが改良されたこと、および基礎となる知的財産の期限切れによるものなのだとか。

アディティブ・マニュファクチャリングは複雑な機能を追加しても、部品の製造コストは本質的に増加しないからこそ、既に大きな資本を持つところは大掛かりに着手しています。アディティブ・マニュファクチャリングの魅力である5点にしぼって、それぞれの具体例を交えて紹介するならば、以下の通りです。

1.設計の最適化ができる(複雑な内部形状を持つ部品も直接内部からつくることができる)
たとえば、ゼネラル・エレクトリック(GE)はSLMと電子ビーム溶解(EBM)を使用して、強化されたジェットエンジンコンポーネントの開発を公表しています。シーメンス(Siemens)は高効率ガスバーナーの連続生産を確立しました。アメリカ合衆国エネルギー省の管轄下でテネシー大学とバテル記念研究所が運営する科学技術に関する国立研究所であるオークリッジ国立研究所(ORNL)では、バインダージェットを使用して高性能希土類磁石を製造しているそうです。これらは全て、アディティブ・マニュファクチャリングによって可能になった“ものづくり”です。

2.マスカスタマイゼーションも可能(ひとりひとりに合わせた製品化)
医療機器は、アディティブ・マニュファクチャリングにぴったり。患者のスキャンデータから数百万個の個別の歯科用レプリカを作成したり、フィット感と音質が改善されたカスタム補聴器の大量生産を可能にしたりしています。その結果、すべての主要な補聴器メーカーは、アディティブ・マニュファクチャリングに対応したソフトウェアのリリース後500日以内に既存ソフトウェアから、アディティブ・マニュファクチャリングのソフトウェアに切り替えたそうです。

3.プロトタイプが簡単に作れる
ペプシコ(PepsiCo)は、ポテトチップスづくりにおいて、3Dプリンターを使用して、プロトタイプを作成し、触感、美的品質、および全体的なデザインを判断しました。このフィードバックにより、従来のプロトタイプのポテトチップスづくりよりも、迅速で正確なテストが可能になり、新製品の発売にかかる時間が短縮されました。

4.製造の生産性をあげられる(ツールパフォーマンスの迅速な最適化が可能)
短期間のシート成形および射出成形用のポリマー工具、複雑な冷却経路を備えた金属製造工具の製造に広く使用されています。(ここの具体的な企業の例は記述がありませんでした。)

5.サプライチェーンの統合(つくって販売するを一気におこなうことが可能になる)
アメリカ合衆国の貨物運送会社ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)、アマゾン(Amazon)、メルセデスベンツ(Mercedes-Benz)などの主要なロジスティクス企業、小売業者、製造業者は、特にサービスパーツ向けにアディティブ・マニュファクチャリングの仮想倉庫への取り組みを公表しています。

なるほど、アディティブ・マニュファクチャリングの市場拡大の裏に技術革新と知的財産の期限切れ、巨大資本の動きがあるのですね。

そして、後編へ

少しずつ、アディティブ・マニュファクチャリングについて知れたところで、いよいよ後編。エレファンテック杉本さんとOpenFactory堀江のセッションやクロストーク部分に入ってまいります。
印刷のあれこれ、デジタル時代の職人についてそして、未来についてのお話になります。

アディティブ・マニュファクチャリングによるGOODな未来、たのしみですね。後編もお楽しみに!


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みなさまも一緒に"GOOD"であることを一緒に考えていただけますと幸いです。

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