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ある夫婦の夏休み 2024年8月

今年もあっという間に八月になってしまいました。

毎年恒例にしている夏休みの山旅。今回は夫婦ふたりで、久しぶりに上高地から涸沢まで、初秋の北アルプスを楽しんできました。上高地には毎年来ていたのですが、去年は諸事情ありかなわなかったので、二年ぶりです。

北アルプス登山に行くときは、いつも信州松本を前線基地にしています。入山前日に松本に移動。まずは前夜祭です。定番にしているお肉料理屋さんで、まずは乾杯。
つきだしは豚肉のリエット。小麦の香り香ばしいバゲットとの相性はばっちり。たまらない美味しさです。
地元名物、信州サーモンの燻製。キャロットラペを添えて。健康な脂がのった滋味豊かな信州サーモンを、素材の味をしっかり残すために軽めにスモーク。それに、ほんのりと甘いにんじんのラペがとってもあいます。お酒が進んでしまい、困っちゃいます。
タコのタッブーレ。パセリ、タマネギやミントなどの香味野菜を細かく刻んでブルグルと呼ばれる粒状のパスタに混ぜこみ、そのうえに、マリネしたタコのスライスとグリルトマトを添えた一品。中東料理にヒントを得た、エギゾチックな一皿。タコをかみしめたときに鼻腔をかけぬける、主たる獲物とする甲殻類由来の豊かな芳香に、トマトのグルタミン酸がかもしだすうまみとハーブのさっぱりとした清涼感が合わさり、次にくるメインディッシュの、ボールドなグリルステーキの前のおしのぎとしてぴったり。
そして、いよいよメイン。ニュージーランド産グラスフェッド牛ヒレのステーキ。1時間近くかけて、じっくりとオーブンのなかで火を通して完璧なミディアムレアに仕上げられています。レアを勘違いしているお店がたまにありますが、肉料理のレアは、生という意味ではなく、ちゃんと火がとおっているのです。60℃とか70℃とか、低温でじっくりと仕上げるので、熟練した技術が必要になります。
昨今はアメリカンビーフや日本の和牛も含めて、飼料に穀物を使用するグレインフェッド(grain-fed)牛が主流ですが、味わいとコクが深まる一方、脂肪分が多くなるため脂の多い肉が苦手なひとには少々厳しい。
ニュージーランドやオーストラリアでは、牛の本来の食性である牧草のみを飼料とするグラスフェッド(grass-fed)牛が主流。グラスフェッド牛はグレインフェッド牛のような脂臭さが少なく、筋肉質かつ爽やかな風味になります。くどくないので、200gとか300gとかの量でもペロリとたいらげられてしまいます。
肉の硬さは(柔らかさ)はサシのはいりかたで決まるのではなく、牛がどれぐらいその筋肉を使うか(使わないか)で決まります。ヒレは牛がもっとも使わない筋肉なので、サシがいっさいはいらない赤身の肉ながら、その柔らかさは絶品。グラスフェッド牛の爽やかな風味も合わさって、極上の味わいです。
大満足のお肉のあとは、これまたとっておきのデザート。熱々できたてのフォンダン・オ・ショコラに冷たいバニラアイスクリームを添えて。
奥さんは大好物の桃のデザート。桃をまるごと贅沢に赤ワインで煮こんだスペシャルコンポートを、バニラ風味のクリームで包んだ一品。
美味しかった!
翌日は朝3時半に起床。上高地の玄関口である沢渡さわんどバスターミナルに車で移動し、朝6時始発のバスで、上高地バスターミナルへと向かいます。
おなじみのナショナルパークゲートで写真をパチリ。楽しみです。
早朝の上高地バスターミナルを出発。上高地の中心地である河童橋に向かいます。バスの中では、周囲は霧に包まれてなにも見えなかったのですが、出発後霧ははれて、天気は良好になりました。気温は13.5℃。ふもとの猛暑がウソのようです。
いよいよ穂高の勇姿が見えてきました。
河童橋が見えてきました。梓川の川面かわもには朝もやがたちこめています。
クサボタン。道中あちこちで見かけました。くるくるっと丸まったフォルムがかわいいお花です。
上高地河童橋に到着。いつものことながら、絶景です。
河童橋のたもとから撮影。天気予報と相談しながら、朝が弱い奥さんを励まし、がんばって早く来た甲斐がありました。
河童橋の上から撮影。うーんなんてすばらしい。
同じく河童橋の上から、広角レンズで撮影。
橋の上から下流側に振り返れば、焼岳の勇姿。
2024年7月の豪雨で、河童橋〜明神間の梓川左岸の遊歩道は氾濫による被害を受け、現在通行禁止になっています。河童橋を渡って、梓川右岸の遊歩道をとおります。
朝もやの中を歩きます。
岳沢湿原。このどこまでも透明なせせらぎが、上高地の一番のごちそうですね。奇跡のようです。
ノアザミ。いっぱい咲いていました。
早朝、朝もやの中ながれるせせらぎ。水が豊かな景色って、ほんとうに素晴らしい。
ソバナ。上高地ではよく観察できます。大好きな花のひとつ。
明神橋をわたる途中、うしろをふりかえればダイナミックな明神岳の姿が。
お猿さんの群れと遭遇。上高地の猿は、人間を怖がりません。
お母さんのお腹にぶらさがった小猿と目が合いました。
サラシナショウマ。こちらも上高地ではよく観察できます。個体数は少ないのですが、高尾山でも咲いています。
これはクサボタンの実。可憐な造形で、森では目立ちます。
遠景には大天井おてんしょうの稜線。天気に恵まれました。
徳沢に到着。ハルニレの森の奥に見えるのは、徳沢ロッヂ。
松本市の公営施設ですが、近年大改装されて、予約のとれない人気の山小屋になりました。
ノコンギク。この時期上高地でもっとも多く観察できる花です。
ヤチトリカブト。トリカブトの名は、舞楽の楽人(伶人)が、装束として着用する冠を鳥兜といい、花の形がその冠に似ているから、というのが由来なんだとか(*1)。
キツリフネも、この時期上高地ではもっとも多く観察できる花。
高尾山は紫色のツリフネソウが主ですが、上高地ではこの黄色いキツリフネが主。
ヤマハハコ。南北アルプスを含めて、日本の高山帯でもっとも多く見かける種です。高尾山にも咲いていると聞いたことがあるのですが、見たことはありません。
イワオトギリ。北アルプスの全域で観察できます。
センジュガンピ。ナデシコの仲間で、その姿可憐な花です。
順調にあゆみを進めて、横尾に到着。
横尾大橋をわたります。
これはミソガワソウ。槍ヶ岳へと向かう槍沢沿いにもたくさん咲いています。
本谷橋手前。屏風岩の裏側の勇姿がダイナミックです。
アキノキリンソウ。こちらもこの時期上高地でもっとも多くみかける花のひとつです。
シラネセンキュウ。こちらも個体数は多い。
ガマズミの実が真っ赤に染まっていました。
きれいなコケ。スギゴケの仲間でしょうか?
本谷橋から本格的なのぼりがはじまります。
ナナカマドの実も真っ赤に染まっています。
はい!今日の目的地、涸沢ヒュッテに到着。奥さんお疲れさん!
ちょっと雲が出てきてしまいましたが、そうこれこれ!という涸沢カールの絶景を拝むことができました。
翌朝。楽しみにしていた涸沢のモルゲンロートをみようと早起き。
ちょっと雲が多いですが、大丈夫かな?その分、谷側の空は神秘的な色彩になっています。
気温は10℃。登山用のダウンジャケットを着てちょうどいいぐらいです。
雲が多かったのでちょっと心配でしたが、見られました、モルゲンロート!
時間にして10分ちょっとと短かったのですが、奥さん大満足です。よかった。
お日様はのぼり、明るくなりました。眼前には涸沢カールの絶景が。
モーニングコーヒーを沸かし、ふたりでそれぞれカップを片手に、こころ満ちるまでゆっくりとこの絶景を眺めました。
この朝は涸沢カールの稜線もくっきり。いつまでもここにいたい衝動にかられますが、もちろんそんなわけにはいきません。うしろ髪ひかれる思いで、涸沢をあとにします。
かわいいイワツメクサ。南北アルプスの稜線でよくみかけます。
ヨツバヒヨドリが開花していました。秋の花です。
あっ、ミヤマシャジンです!高尾山に、これに似たツリガネニンジンという花が咲きますが、ミヤマシャジンはその二倍も三倍も大きな花をつけます。
ミゾソバは梓川の河原のあちこちで見つかります。高尾山でもたくさん咲いていてる花。開花するとお星様のようになり、かわいいフォルムです。
コウシンヤマハッカ。こちらも個体数は極めて多い。
ゲンノショウコ。高尾山でも観察できますが…。
こちらもゲンノショウコですが、紫色の個体。大まかに、東日本のゲンノショウコは白色、西日本のは紫色なのだそうです。双方見られる上高地は、その境ということでしょうか。少なくとも、高尾山で紫色の個体は見たことありません。
キオン。南北アルプスでよく見かけます。
視線の先に、木を器用に上下に歩き回る小鳥が見えたので、とりあえずカメラのシャッターを切りました。
鳥類は全く詳しくないので、スマホに落として拡大し、帰り際に環境省上高地ビジターセンターに立ち寄ってガイドスタッフの方にお尋ねしたところ、「ああ、これはゴジュウカラですね」と即答。さすがです。
鳥類で唯一、下向きに木の幹を歩くことができる脚力の持ち主、ということも教えてもらいました。
ビジターセンターのガイドスタッフの方々は、上高地のことならなんでも知っているのではないかと思ってしまうぐらいのエキスパート。お花の同定や動植物の解説、そして登山道の安全情報も含めて、いつもお世話になっています。
花や鳥との出会いなど、アルプスの自然を楽しみながら本日の目的地、徳澤園に到着。
まずは腹ごしらえ。徳澤園の名物、手作りカレーを大盛りで(奥にあるのは奥さんの普通盛り)。本格ガラムマサラを使ったルーに豚のバラ肉が豪快にかたまりでゴロゴロはいっていて、登山で腹ペコの山屋のおなかを満たすのにぴったり。うまい!
山小屋とは思えぬおしゃれなしつらえ。
奥さんとふたりで槍穂高方面に来るときの定宿にしています。快適このうえないことはいうまでもありませんが、きれいなお風呂にはいってさっぱりできるのがとにかくありがたい。
ここはご飯もおいしいくて、貴重な余暇を楽しむのにぴったりです。
今日もいっぱい歩きました。おやすみなさい。
おはようございます。今日も天気にめぐまれて、明神から前穂の稜線もばっちり。ご機嫌で徳沢を出発。
きれいな森を流れる清らかなせせらぎ。気持ちのいい朝です。
緑の額縁の向こうには、焼岳の勇姿。
美しい高原の森。林床にしっかり日光が届いて、下草も盛んに育って健康そのもの。
ほんとうにきれいです。うっとりしちゃいます。
岳沢湿原に戻ってきました。往路は早朝でしたが、復路はお昼前ぐらいだったので太陽の位置がちがって、ぜんぜん違うところに来たみたい。
アカバナ。湿地でいっぱい咲いていました。
ゴマナ。個体数はとても多い。
河童橋に戻ってきました。今日も穂高がきれいに見えました。
今回はずっと天気に恵まれて、すばらしい山旅になりました。お天道さんに感謝です。
下山後は、こちらも定宿にしている山奥の某温泉宿へ直行。ここからは、何もしない、ゆったりとした贅沢な時間。
部屋にはいると、「おかえりなさい」とともに、ウェルカムシャンパンを豪快に一本ふるまってくれました。
あとはもうすべて、宿のみなさまにゆだねます。
今回もすばらしい旅になりました。お疲れ様!

*1
参考資料:神戸学院大学薬学部 薬草園だより Vol.2015 - 2016 秋冬号(第7刊)
閲覧日:2024年8月24日

https://kobegakuin-yakugaku.jp/app/wp-content/themes/kobegakuin-yakugaku/assets/img/faculty/yakusouen/no07.pdf


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