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キーワードは、ほどよい温度感。デリケートな話題を社会に届けるために意識したい視点。

こんにちは。今回も、エヌエヌ生命 「経営者の妻のための情報サイト つぐのわ」が実施した「“夫が社長”妻のつぶやき川柳」の事例を振り返ります。
“経営者の妻”との接点づくりのために川柳コンテストの企画を立ち上げた背景についてお聞きした前編に続き、後編では“経営者の妻の事業承継”という語られづらい社会課題を語られやすくするために意識していたポイントについて語っていただきました。

<前編記事はこちらから>

<対談メンバー紹介>

■小橋 秀司さん
エヌエヌ生命保険株式会社(カスタマーエクスペリエンス部長)
2004年アイエヌジー生命(現エヌエヌ生命)に入社。営業や IT、プロジェクトマネジメント等の業務領域を経て、2018年に“顧客体験(CX)”特化のチームを立ち上げる。その後、2020年にカスタマーエクスペリエンス部を設立。お客さまへのインタビューやテストを繰り返し、真に必要とされる顧客体験の開発・強化を手がける。多くのインタビューを通じ、生命保険会社として「保険金だけに留まらないサポート」を提供する必要性を痛感。特に、先代の他界により「突然社長になった」後継者(特に先代配偶者)のサポートに強い想いを持つ。

■林 佳寿子さん
エヌエヌ生命保険株式会社(カスタマーエクスペリエンス部アシスタントマネージャー)

2011年アイエヌジー生命(現エヌエヌ生命)新卒入社。福岡、東京の営業部で代理店サポートを主業務とするMRとして活動。2019年よりカスタマーエクスペリエンス業務担当としてお客さま向けサービス開発に従事。「女性社長のココトモひろば」、「経営者の妻のための情報サイト つぐのわ」のサービス開発に、立ち上げから携わる。

■持冨 弘士郎さん
株式会社プラップジャパン(コミュニケーションサービス統括本部 戦略企画部)
2010年プラップジャパン新卒入社。2017年より戦略プランニング専門の部署に籍を移し、PR視点のクリエイティブ開発やプロジェクト立案など、幅広いコミュニケーション施策を企画・ディレクションしている。プロボノワークとしてSCD/MSAという難病の認知向上を目的とした活動「#酔っぱらいではありませんプロジェクト」を運営中。受賞歴にPRアワードグランプリ SILVER、PR AWARDS ASIA SILVER、Golden World Awards FINALIST など。

「“夫が社長”妻のつぶやき川柳」特設サイト

――サイト上では入賞作品の紹介と、その句を元にした漫画が添えられています。漫画があることで経営者の妻ってこんな日常を過ごしているんだと端的にイメージできましたし、いい意味で親近感がわきました。

(1,937点から選ばれた最優秀賞句)

持冨:経営者の妻と聞くと、セレブで華やかなイメージが先行しがちで、実際の姿がほとんど知られていないんですよね。本企画は、そんな身近な経営者の妻の存在を社会に知ってもらうことが目的でした。その目的と照らし合わせると、コンテストを実施して優秀な川柳を表彰するだけではなく、川柳が生まれた背景や妻の思いをストーリーとして伝える必要があると考えて、漫画コンテンツの制作をご提案したんです。

林:漫画の妻の風貌は華やかすぎず、かといって地味ではない絶妙なタッチで、経営者の妻のリアルな姿を描いていただけました。

持冨:入賞作品はどれも、経営者の妻たちの日々の奮闘が伝わるような句でした。夫である経営者と一緒に汗をかいている光景や、自宅の電話宛に顧客の電話がかかってきてあたふたする場面など、日常の何気ない瞬間が切り取られていて。
経営者の妻に対する世間の偏ったパーセプションを正す役割を担えているかなと感じています。

林:当事者自身のパーセプションを変えるきっかけにもなれたらと思います。経営者の妻の方々がこの漫画を読んで、「この気持ちわかる」とか「自分たちもスポットライトが当たる存在なんだ」と思っていただけたら嬉しいです。

小橋:そうですね。漫画は入賞者ご本人のエピソードをそのまま活用させていただいたので、リアリティと共感性あるコンテンツになりました。ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。

持冨:リアリティある漫画に仕立てられた要因としては、川柳の制作意図も一緒に募集したことが大きいです。
応募のハードルをできる限り下げようと、当初は川柳だけを募集する予定だったんです。ただ句を選定する側が誤った解釈をしないためにも、制作意図を尋ねる必要があると思い直して。川柳とともに制作意図を任意回答で募ったところ、句への思いをしたためてくださる方がたくさんいました。

林:川柳はきれいな形でまとめられている一方、制作意図には言いたいことを直球で書いている方も多かったです。意図を読むなかでも、驚きや納得がありましたし、句に表われていない気持ちまでお聞きできた気がします。

持冨:そうですね。制作意図には、ともするとデプスインタビューでも引き出せないようなリアルな声が詰まっていて、今後の施策検討の大きなヒントになると考えています。受賞作品の選定と、漫画化にあたってのエピソード収集を目的に制作意図を募集したわけですが、広報的な資産にもつながりました。

――川柳コンテストとあわせて、ラジオ番組とのタイアップも実施されています。

小橋:何らかの形で相乗効果を狙える施策を打ちたいと考えていました。ラジオ番組とのタイアップは、継続して情報発信する手法のひとつとして、プラップさんからご提案いただいた形です。
タイアップ先の選定にあたって、重視したのは温度感でした。“妻の事業承継”という話題の特性上、崩して語られるのはよろしくないし、だからといって堅く語られすぎるとリスナーからは振り向いてもらえない。そう考え、ニッポン放送「ナイツ ザ・ラジオショー」とタイアップさせていただきました。ナイツさんがパーソナリティーの番組であれば、ぬるすぎず、やけどしない適切な温度で語っていただけると考えたんです。余談ですが、林が同番組のヘビーリスナーで、「ターゲットに届けられると私自身確信を持っています」と熱弁されたことも理由の一つです(笑)。

林:そうなんです(笑)。くだけた口調ながらも上品で、時には真面目にトークを展開されているこの番組であれば、私たちが伝えたいことを届けられるチャンスがあると常々感じていたので、絶好の機会でした。「つぐのわプレゼンツ 伝説のBOSSリクエスト!」というコーナーを毎週月曜日に設けていただき、全13回に渡って展開しました。
コーナーの冒頭、「つぐのわ」について紹介するくだりで、事業を承継することや、家族に万が一のことが起きたときのことを、ナイツさんや平野ノラさんがちょっとおもしろおかしく話してくださるんですよね。まずは“継ぐ”ということだけでもリスナーの頭の片隅に入ってほしいと考えていた中で、お三方にはほどよい塩梅でトークをしていただけました。

持冨:ともすると事業承継の話って、悲観的な文脈で語られたり、重くなってしまいそうなテーマなので、もっとカジュアルに話せる内容にするという意味でも目的と合致した施策になりましたよね。

林:まさにそうですね。事業承継をある種の感動ストーリーとして訴求するやり方も理解できますが、その訴求だけでは話題の広がりに限界があるので。

小橋:我々が伝えたい妻の事業承継の話って、誰かの死が伴うデリケートな問題なので、どうやって広げていくのがよいものかと、当初は堅く考えがちだったんですよね。
ただ今回プラップさんとディスカッションをしたり、経営者の妻の声を直接聞いたりして感じたのは、真面目なことを柔らかく語ることでこそ、ユーザーに伝わりやすくなるということでした。活動を振り返ってみて、事業承継をストレートに発信するだけではやはり不十分だったと感じています。

――デリケートな話題や社会課題に関する事業のPRを模索している企業や団体にとってもヒントとなりそうですね。

小橋:我々のような金融業界に限らず、センシティブな話題を扱う業界に通じる課題感として、ステークホルダーに対して堅い言い回しを採用する必要があったり、定められた枠組の中でしか表現できないもどかしさはあるのではないかと思います。少しでもそんな方々のヒントになれていたら嬉しいですね。
実は我々も川柳を活用した企画を1年ほど前に検討したものの、実施に至らなかったことがありました。ユーザーに受け入れられやすい施策や表現方法を検討しても、実現につなげるのが難しいという悩みは僕自身も痛いほどわかります。

持冨:そうだったんですね。一度頓挫した経緯がありながらも、今回川柳コンテストを実現できた理由はどこにあったんでしょうか。

小橋:誰かから怒られることは思ったよりも少ないから、まずはやってみようと思う覚悟でしょうか。というのは半分冗談で(笑)、複数のアプローチを検証するプロセスを経たからだと思います。

林:前編でお話したように経営者の妻へのデプスインタビューを強化したことにも大きな意味がありましたよね。

小橋:本当にそうですね。あのステップがなければ、川柳という企画に確証を持つことができませんでした。
マーケティングの中でも特にPRは、すべての成果を数値として計測できるわけではなく、ロジカルに説明することが難しい領域です。投資した分の額を成果としてコミットすることが求められる事業会社の立場からすると、PR企画を遂行するにはタフさが必要で。さらに今回の企画は、“事業承継に悩んでいる妻”ではなく、“事業承継で悩む可能性がある妻とその周囲”を対象としていたので、すぐに直接的な成果が出るものではありません。ゆくゆくの成果を見込むための先行投資だということを関係者間で認識統一する必要もありました。
だからこそ、事業承継の問題をストレートに発信するだけではユーザーに刺さらないことをきちんと検証するプロセスが重要だったんです。

持冨:PRは特効薬ではなく、漢方薬のようにじわじわ効いてくる手法でもあるので、おっしゃる通り成果の判断基準が悩ましい領域でもあります。そのうえでクライアントさんと協議しながら適切な目標設定や効果検証をするようにしています。

――“検証のプロセスを設ける”以外に、企画を前に進める秘訣や意識していたことがあればお聞かせください。

小橋:小さな成功体験を積み上げていくことかなと考えています。たとえば、プレスリリースへの漫画の掲載は、当社として初めての試みだったんです。これに挑戦できたのも、デプスインタビューを通じて、ユーザーに伝わりやすいコンテンツを検証したことによるものですが、なにより経営者の妻たちと対話をしたことで僕たち自身が手ごたえを感じられたんですよね。
川柳コンテストやラジオ番組のタイアップも同様に、施策実行後には想像以上の反響がありました。クイックウィンを積み重ねることで、自分たちが向かっている方向性が間違っていないと証明できるし、自信にもつながる。小さな成功体験を地道に積み重ねながら、活動を徐々に広げられるといいのかなと思います。

林:今回デプスインタビューをすることで、私個人としても「つぐのわを通して、お役に立てたんだ」と感じられたんです。こんな成功体験を少しずつ積むことが、業務をする上で自信になっていますし、今後も年1回は必ずユーザーさんとじっくり話そうと決意するきっかけにもなりました。

持冨:成功体験を自覚することが次の成功体験を生むと言えますね。

小橋:今回の活動は我々にとっては初めてチャレンジするような施策ばかりでしたが、ユーザーに届ける手段の幅を広げられたことは、今後他の施策展開をするうえでのラーニングにもなったと感じています。我々だけだとなかなか走りきれない活動でしたし、一緒に走り切ってくださったプラップさんには本当に感謝しています。

持冨:ありがとうございます。こちらこそとてもいい経験をさせていただきました。PR会社への期待値として、パブリシティに限定されたリクエストをいただくことがどうしてもあるなかで、小橋さんも林さんも「情報を届ける手段は色々あるよね」とフラットな前提で相談してくださいました。「コンテンツの開発もあれば、タイアップもあれば、パブリシティもあるよね」と、課題解決のための最適な手段を選んでいただくことで、よい結果につなげることができました。僕たち自身の成功体験にもなっています。

――最後に、「つぐのわ」の今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか。

小橋:「つぐのわ」をスケールさせていくことは中長期的な戦略上も優先度の高い事項として明確に決定しています。そのうえで“経営者の妻の事業承継”を知ってもらう活動は、単発で終わらせるものではなく、じわじわと活動を継続するものと捉えています。
詳細は今後詰めていくところですが、今の段階でひとつ言えるのは、単に「つぐのわ」のサービスや機能を伝えるよりも、「つぐのわ」が提供している価値そのものを知ってもらう活動が必要だと。どうすればより多くの人に認知され、ユーザーを広げることができるのか考えていきたいところです。

持冨:経営者の妻との接点をさらに拡大していく活動ですね。

小橋:はい。たとえば「つぐのわ」から、月に1回のメールが届くことで「そういえば事業承継について、考えてみようかな」と定期的に思ってもらえるだけで十分だと思っています。
その接点をきっかけに、「つぐのわ」に共感してくださる方を徐々に増やしていきたいですね。

持冨:デプスインタビューや川柳に込められた制作意図など、経営者の妻に関する広報上の資産をたくさん得ることができました。次のステップは、これらをどうやって共感される策に料理して、社会に広げていくか考えることだと思っています。
色々な手段をテーブルに並べながら、次の打ち手をご一緒に検討できると嬉しいです。

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配偶者の逝去に伴う突然の事業承継という社会課題を知られやすくするために行われた本企画。自社が伝えたい話題を一直線に発信するのではなく、ターゲットのインサイトや関心を読み解いて、接点を創出するプロセスはまさにPRらしい施策といえます。
特徴的だったのは、ユーザーのインタビューやテストを繰り返し、顧客の体験価値を追求する姿勢。真に必要とされる顧客体験を考え続けることで、事業承継というデリケートな話題を語るための適切な温度感やテンションを理解することができるのだと思いました。
小橋さん、林さん、持冨さん、貴重なお話をありがとうございました。

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