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銀盤の戦士たちから教わったこと

フィギュアスケート、中でもシングル競技のファンになって、もう20年近く経つ。
最初は幼少期にTV画面で偶然見かけた、ロシアの男子選手2人の宇宙人大戦争がきっかけだった。
その偶然から沼にハマり、今となっては心の必須アミノ酸。
今週末も、東日本フィギュアスケート選手権の配信にずっとかじりついていた。全日本への切符を手に入れたみなさん、おめでとうございます。

そんな愛すべき競技から、私が学ばせてもらったことを語りたい。

転んだらすぐに立ち上がること

フィギュアスケートに、転倒はつきものだ。
特に今は高難度ジャンプに挑戦する選手が多い。
難しいことに挑戦すれば、ミスする確率はあがる。
転倒して氷に打ち付けられれば、当然のことながら痛い。
痛くないわけがない。
でも選手はその痛みを堪えて立ち上がり、すぐに演技に戻らねばならぬ。
早く復帰しないと音楽からどんどん遅れ、PCSにも影響する。
演技の中断とみなされてしまえば減点対象だ。
転倒のタイミングによっては、すぐ復帰しないと規定の演技時間をオーバーしてしまうおそれだってある。(←タイムオーバーも減点なのだ。)

個人的には、転倒からの復帰の早さNo.1としてキーガン・メッシング選手を候補にあげたい。
転倒も予定構成なのではと思うレベルで、すぐ復帰する。
もういっそGOEあげたい。

ミスはリカバリすること

前段で述べたとおり、難しいことに挑戦すればミスは出る。
でも、ミスをすれば点数は伸び悩む。
競技である以上、点数もやはり大事。
ミスをリカバリし、失点を抑えねばならぬ。
特に世界のトップレベルで戦う選手は、このリカバリが非常にうまい。

今週末の東日本フィギュアスケート選手権から、事例をあげよう。
シニア女子の樋口新葉選手が、FSで神がかったリカバリーを見せた。
前半、3Lz3Tを予定していたところが3Lzになってしまった。
3Tをどこかに付けないと、ジャンプの得点が伸び悩んでしまう。
でも次の3Loも抜け2Lo、2ndジャンプまで持っていくのは厳しそう。
そこで樋口新葉選手は、演技後半のジャンプ構成を大胆に変更した。
たぶん予定構成は2A3T、3F2T2Lo、3Lzだったはず。
実際に跳んだのは、2A3T2T、3F3T、3Lz2T。
今回は無事に降りたが、この構成なら万が一ミスしても、次のジャンプで挽回の余地がある。2A3Tで3rdがつかなくても、3Fから3連にするとか。
世界のワカバ=ヒグチ、なんてクレバーなんだ。

そしてコンビネーションジャンプをすべて後半にしたので、後半ボーナス1.1倍が加算される。
さて、基礎点の数値は下記の通り。
3Lz3Tの基礎点10.10
3F3Tの基礎点9.50→後半ボーナス1.1倍加算で基礎点10.45。
基礎点だけ見れば、後半3F3Tのほうが高い。
もちろんクリーンに降りねば基礎点からマイナスになるけど、リカバリーで後半にジャンプを跳ぶことで、理論上はむしろ点が伸びることもあるのだ。

人間最後は一人、でも孤独ではないこと

ペア、アイスダンス、シンクロはともかく、シングル競技の場合、リンクに立つのは自分ひとり。始まってしまえば、演技が終わるまでリンクは自分だけの世界だ。
どんなにミスしても、どんなに辛くても、演技が終わる時間まで誰も助けにきてくれない。
自分ひとりで、最後までがんばるしかない。
心細いときには果てしなく広く感じるリンクに、自分ひとり。心折れそう。

ここで思い出すのが、ソチオリンピックFSの浅田真央さんの逸話。
SPまさかの16位スタートと世界が衝撃を受けた。
佐藤信夫コーチが彼女にかけたことばとして、下記のものが伝えられている(※)。

「何かあれば、先生が止められてでも、リンクに助けに行くから!」

実際のところ、他人がリンクに助けに行くことなんてできない。
選手は最後まで、自分で何とかするしかない。
でも、手を差し伸べることはできずとも、なんとか力になろうとする人はリンクサイドに、会場中に、画面の向こうにいる。
リンクの上でたったひとり、でもけっして孤独ではない。

※実は佐藤コーチは昔話をしただけという説もある。でも当時、浅田真央選手のインタビューを聞く限り、選手はそう受け取り、自分が力を振り絞る糧にしたということだろう。

人生とは、フィギュアスケートだ!

・転んだらすぐ立ち上がること
・ミスはリカバリすること
・人間最後は一人、でも孤独ではないこと

ここまで挙げてきたすべて、人生にも共通することだ。
生きていれば、途中で挫折することは数え切れない。
躓いて、ボロボロで、自分の人生を投げ出したくなることもある。
そんなときに、ぜひフィギュアスケートを見てほしい。
SPなら2分40秒、FSなら4分。(2020年現在)
そのわずかな時間、60m×30mのリンクの上。
さあ、「人生」が凝縮された時間と空間を堪能しよう。

挫折したって、立ち上がればいい。何度でも、何度でも。
ミスしてしまったら、それを取り返せばいい。
孤独感に苛まれたら、世界の広さを思い出せばいい。

そして明日からも、歯を食いしばって生きよう。


#挑戦している君へ
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