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【変化】変わり続ける状況。

何とあの子が店に入ってきたのである。
私が勤めていたリサイクルショップは相手方の両親には
すこぶる不評だった。
まるで麻薬でも売買している店かのような嫌いようだったから、
もちろんその子もこんな店には入ったことはなかった。

しかしその時に限ってバスの時間まで結構あったらしく、
暇つぶしと興味本位で入ってみたとのことだった。
入った瞬間、カウンターに私がいるもんだからびっくりしただろう。

そこからまたメールや電話が始まった。
花火の彼女とは別れる気だった。

長年の片思いなのか積年の恨みなのか今となってはわからないが、
私はその6年ぶりにあった子と付き合い始めた。
まぁ要するに二股状態になった。

しかしこれが人間の面白いところで、付き合えたはいいが
なんかピンとこない。

正直、「長年思い続けてやっと付き合えるようになった。で?何?」
という思いがよぎるのだ。

格別な幸せも感じることはない。
あるのは前からいる彼女への後ろめたさと罪悪感、
そして期待はずれのような感覚。
私は思い出を美化しすぎていたのかもしれない。
そういう長い間思い続けるという行為に酔っていたのかもしれない。

私から別れを切り出した。
まぁ前からいる彼女に二股状態がバレたというのもあるが、
一番の原因は長年思い続けた方の女の子にあった。

すごく頭のいい子だった。
私の高校時代には考えもしなかった大学まで
合格圏内に入っているぐらいで、なおかつ箱入り娘で、
品もよくいわゆるお嬢様だった。
そんな女の子と私のようなクソまみれの
人生を送っている人間が合うはずもない。

出会った頃は秘密の関係だったから合う時間も
少なくごまかすこともできていたのだが、
ある程度自由がきくようになったら前より長い時間を過ごしたり
デートをしなければならない。
そういう時、育ちの違いが如実に表れるのだ。

私は単純に住む世界の違いを感じた。
この子はとてもいい子だが、
私と生活を共有するような子ではないと思った。
というわけでその子と別れて、前の彼女一本になったが、
私の二股の件もあり冷めきった仲はさらに冷めていく。

私生活は本当にクソまみれのままだったが、仕事はうまくいっていた。
POPや看板、チラシの作成や店舗管理などはお手の物になっていた。
2号店の店長になった。

これは書いておきたい。
私が思う人生の不思議の一つである。

その2号店は住宅街の一角のテナントだった。
住宅街だけあって客層はかなり違った。

客のほとんどは子供だった。
まぁ子供向けに作ったような店舗だから当たり前といえば当たり前である。

学校帰りの子供が立ち寄って、いろんな話をする。
毎日毎日来る子もいた。
夏休みや連休の時はオープン前から待っていて、
ずっとお店で過ごす子もいた。
そういう関わり方をしていると、見えてくるものがある。

子供同士の関係、誰と誰が仲がいいとか誰某は嫌われているとか、
いつも長い時間いるこの子は友達がいないこと、
閉店が8時だったが、閉店までいるもんだから子供をそんな時間に
「さぁ、帰れ」と放り出すわけにもいかないので家まで送ったりした時、
家の中が真っ暗で共働きで親が帰ってくるまでひとりぼっちであること。

私はそんないろんな子供が出入りする2号店が大好きだった。

今でもそうだが、私は大人と人間関係を築くのが苦手だ。
本音と建前とか社会で正しいとされていることが正しいと思えなかったり、
大人の含んだものの言い方が合わないのだ。
その点子供は正直だ。
嫌なものは嫌、おもしろいものはおもしろい。
はっきりと意思表示できる子供の方が接しやすいしわかりやすい。

私はあることに気づいた。

その2号店が、私が子供の頃に失った大切な場所に似ていた。
あのおもちゃ屋である。

あの時と違い、私は「カウンター側の人間」として、
失ったはずの場所を取り戻していた。

私はこれが不思議でたまらないのだ。
取り戻そうとしたわけでも、願ったわけでもない。
それなのに「迎える側」として、大切だった場所を取り戻している。
まるで計ったかのように。

その2号店で、私は何か捉えどころのない大きなうねりを感じた。

2号店で店長をしながら、本店での勤務も続いていた。
仕事は順風満帆だった。
今までで一番私自身の持ち前のパフォーマンスがいい状態で
発揮されまくりだった。

そしてその本店に2人の男が入社する。
HさんとOさん。
この2人はただの新入社員ではなく同業他社からヘッドハントされて
きた2人だった。

この2人は私の人生の中で私が心の底から尊敬し、
心の底から頭を下げることができる2人になるのだった。

彼らは私の「仕事の師」である。
2人一組とまでは言わないが、バランスのとれた2人だった。
Hさんは小柄でいつも笑顔で優しそうな人だった。
見るからに細かい作業が得意そうだった。
Oさんは大柄で頼り甲斐のある兄貴のような人だった。
けっこう大雑把というか大らかなイメージだった。

2人ともイメージと真逆だった。
Hさんは考え方がかなり大雑把でやることも大胆だった。
社長と喧嘩するのもだいたいHさんだった。

Oさんは逆に細かい作業が素晴らしかった。
レイアウト変更の際、プロさながらの図面を書いたり、
什器を作成する時は緻密な設計図を書いたりしていた。

私は2人から仕事する時に必要な武器をたくさん与えてもらった。
実際はリサイクルショップだったが、
どこの職場へ行っても通用するような武器だった。


私は能力値がどんどんアップしていた。
もちろん仕事でも結果を出していたし、
調子に乗ったと言えば調子に乗ったのだろう。
そのリサイクルショップをやめることにした。

やめる理由としては、なんか自分でやっていけるんじゃないかという
完全に調子に乗った決断だった。
ウルフや他の連中と何かできればいいなと思っていた。

そして事故からずっとダラダラと実家に居座っていた。
居座り続けるとまたあの地獄が始まるのだ。
母親のヒステリーがまた始まった。
そしてまた私は以前と同じように家から脱出するのである。

またもやホームレスになった。
以前いた文化センターに戻ろうかとも思ったがさすがになんとかならないかと策を巡らせたところ、心当たりを見つけた。

とある後輩がいた。
こいつとはある縁で知り合い唯一の友達と言える存在だった。
こいつとは長いこと腐れ縁が続いた。

彼はこの時、県外の専門学校に通っていた。
私は彼の実家に行ったことがあったし、家庭環境の話も聞いていた。
かなり特殊な家庭だったのでもしかしたらなんとかしてくれるかもしれないと思い、県外の専門学校に通っている彼に連絡した。

なんと彼の実家の一階倉庫を借りれることになった。
なんとかホームレスへの逆戻りを避けたが、
状況はさほど変わらない。

リサイクルショップを辞め、何か自分で仕事をしたかったが、
できるはずもなくまたハローワークの備品になった。

結局とある薬品会社に就職したりしたが1週間と持たず辞めてしまった。
今度はある居酒屋に就職したがこれまた悲惨な結果となる。

この居酒屋はフランチャイズ展開されている店だったが、
なんと面接で衝撃の事実を聞かされた。


「このお店は一旦閉店します。そしてリニューアルします。」

この話をしたのは自称コンサルタントのG氏。
私は仕事さえできれば、いや生活費さえなんとかなれば
よかったからOKした。
そしてこの自称コンサルタントのG氏が
とんでもない騒動を引き起こすのだ。

この居酒屋の事件を私は「G氏コンサル逮捕事件」と呼んでいる。
事の成り行きを全てノートに記録している。
自称コンサルのG氏が行ったコンサルの内容や
FCで苦しんだ事業体の行く末がリアルに記録されている。

書きたいのは山々だが、これは私の話なのでG氏の話はやめておく。


後輩の実家の一階を間借りしていた私だが、この居酒屋で店長になって割と高給取りになっていたので難なく家を借りることができた。

家を借り、冷めきった彼女との関係もズルズル続いてはいた。
しかしこの居酒屋もG氏の騒動のせいで倒産となり、
また無職になりかけたがここはもう慣れたものですぐ別の仕事を見つけた。

百貨店の中にあるカフェだった。
私は例のごとく、この会社でかなり浮いた存在となった。
誰とも仲良くなれなかった。
私自身が打ち解けようとしていなかったのかもしれない。
誰とも仲良くなれなかったが、
さすがに同じ部署の人間とは喋らないといけない。
そこそこ喋るようになった頃、私に心境の変化が訪れる。
同じ部署で働いていた子がなぜか気になり出した。
他では全く喋らなかったがその子と2人の時は、いろんなことを喋った。

この子は若いのにいろんな苦労をしている子だった。
その割にあっけらかんとして、はっきりとした性格だった。
悪いことは悪い、間違っていることは間違っている、
自分の意思をしっかり持ち、
他人を尊重し、分け隔てなく接することができる強い子だった。
実際にその嫌われていた中で唯一普通に接してくれた人だ。
私はその子にどんどん惹かれていった。

恋の始まりは少女漫画のように劇的なシュチュエーションであることは
現実ではほとんどない。どうしてそうなったのかはわからない。
ただ、私はその子の強さに救われた。

私はズルズル続いていた冷めきった彼女との関係を断ち切り、
その子と付き合い始めた。
そして幸せなことに現在も続いている。

別に惚気るつもりも自慢でもないが敢えて書いておく。
この子は本当に強い子だ。
このクソみたいな男でもちゃんと面倒を見てくれる。
まともな生活ができていないにもかかわらず、私のチンカスほどの可能性を
信じてついてきてくれている。
他のカップルのように豪華な食事にも連れていけない、
誕生日や記念日もろくにプレゼントも渡せない。
それでも小さなことに幸せを感じてくれて、些細なことでも喜んでくれる。
私が弱音を吐いたりすると、尻を叩いてくれる。
私が言う社会全体に対してのグチやひどい言葉も聞いてくれる。

たぶんこれから先、私に対して好意を持ってくれる女性は
また幾人か現れるかもしれない。
しかし、ガス代を滞納してガスが止まったり、電気代が払えなくて慌てたり、全く仕事がない状態で生活に困ったりする状態でも
ついてきてくれる女性はいないだろう。
私を本気で理解しようとする女性もいないだろう。
夢のようなことを追いかけているおっさんを応援する
もの好きもいないだろう。

私はこの子を幸せにはできないかもしれない。
人から羨ましがられるような生活はさせてあげられないかもしれない。
だけど、不幸の数は減らすことができる。

私はどんな職につこうと、「芸人」だ。

いろんなことで笑わせることしかできない。
でも、彼女は私にこれしかできないことなんてわかってて
たぶん彼女は笑って生きていくことを選んだんだと思う。

彼女は私がくだらないことを言ったすると呆れながら笑ってくれる。
私にとってはそれだけが救いだ。
すごくきつかったり、バイトで疲れていたり、凹んだりして
しゃべりたくない時もある。
でもそれじゃあ彼女がおもしろくないだろうから、頑張ろうって思う。

恥ずかしいのでこの辺にして、話を戻そう。

さて、この百貨店の中のカフェで働いている時ある事件が起こる。

ある別れが待ち受けていた。

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