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ものづくりにおけるリーダーシップの話(前編)

ビジネスではリーダーシップが欠かせません。今回は中でも「ものづくり」に焦点をあてたリーダーシップについて解説します。前編では「リーダーに必要な知識とスタイル」を後編では「ものづくりに適したリーダーシップ」について述べます。

ものづくりにおけるリーダシップの必要性

品質や信頼性は人の手で築かれます。そのため、関わる人がその能力を確実に発揮し、組織全体として期待される成果を出すことが必要です。100 人の内 99 人が正確に作業を行っていても残りの 1 名が確実な作業を実施しないことで、品質や信頼性を下げる可能性があります。

また昨今のビジネス環境は、働き方改革やDXなど大きく変化し、当然ながら品質や信頼性を築く活動も、この大きな環境変化に合わせた活動が要求されます。大きな変化に対応するためには、リーダーや有能な一部のチームメンバーといった「個の力」に頼るのでは限界で、チーム全体が効果的なコラボレーションを行って成果を出す必要があります。つまり個人を活かしてチーム全体の能力を最大限に引き出すリーダーシップが必要です。



リーダーに必要な知識

リーダーは「人」を動かしチーム運営を行うものです。次に挙げる「人間の行動理論」を知っておく必要があります。
1.人の発達段階
2.モチベーション
3.認知心理学の人の行動
4.社会心理学の個人の行動

1.人の発達段階

人は仕事そのものを実行する能力と姿勢(やる気)の2つで発達段階を評価することができます。新人のようにスキルは低いがやる気は大きい段階から、スキルもやる気も高い熟練者の段階まであります。また、発達段階は同じ個人でも変化することを認識しておく必要があります。能力が最高レベルであっても仕事の状況によってはやる気が失せる場合があります。


2.モチベーション

人が行動するには動機付け(モチベーション)が必要です。動機付けは2種類あります。

【2.1.外発的動機付け】
報酬や罰のことです。マネジメントやリーダーの意図に従った「コントロール」を行うために用います。しかしこの刺激は持続性がありません。そのため「報酬に見合う活動しか行わない」、「報酬が無ければ活動しない」、「罰を受けるようなリスクはとらない」といった、長期的には消極的な動機付けとなる可能性があります。場合によっては結果を得るために、不正行為を促す可能性もあります。

【2.2.内発的動機付け】
一方、内発的動機付けは、自己内部からの動機付けです。人には生来、能力を発揮したいという「有能感」、自分でやりたいという「自律性」、人々と関連を持ちたいという「関係性」という3つの心理的欲求が備わっています。この要求が満たされるとき、動機付けられ、生産的になり幸福を感じます。


3.認知心理学の人の行動

認知心理学で挙げられる人の行動性向の中で、特に品質や信頼性に関する活動に関係するものを2つ挙げます。

【3.1.プロスペクト理論】
人は絶対的な見方ではなく、変化に対して反応します。これは参照点依存性として定義され、判断は「ある基準(参照点)」からの「利潤と損失(変化)」で測られます。参照点からの変化は、特に損失に対して反応されやすくなります(損失回避性)。また、現在獲得している状態を維持もしくは増やそうとし、損失を回避しようとする傾向もあります。

【3.2.確証バイアス】
事前に自身の中で確立してある仮説や信念を確認するような証拠ばかり探し求める傾向です。人は仮説をテストする際に、仮説に反する証拠を探そうとはせず、仮説を支持する証拠だけを選択的に集め、その他の情報を無視する傾向があります。


4.社会心理学の個人の行動

リーダーは社会心理学で研究されている「集団の中での個人の行動」について知っておく必要があります。

【4.1.個人の行動に対する集団の影響】
人はそれぞれ固有の性格を持ち、それぞれの意思に応じた行動をとると思われています。しかし、実際は他者や外部の情報によって簡単に影響されます。そのため外部の影響を軽視し、内的要因を誇張しないように注意しなければいけません。ある個人に問題があった場合でも、その根本には所属する集団の文化に問題が潜んでいる可能性があります。

【4.2.集団心理と責任回避、責任転嫁】
ある問題が発生した時に自分以外にも対応できる人が存在する場合『自分がしなくても誰かがやるだろう』と考えがちです。多くの人がいる状況では全員が無関心となる可能性があります。また、分業によって一連の作業の一部にのみ携わる場合、自らを責任の主体として認識しにくくなります。チーム間で作業を分担している場合は、個人の責任意識を考慮する必要があります。

【4.3.認知不協和理論】
人は思いや行動に不一致、矛盾があると、心の中に不協和が生まれます。また複数の情報間に相互矛盾がある場合、これを緩和しようとする心理的動きが現れます。このとき変えやすいほうを変えようとします。例えば、自分は明らかに合っていると思っていても、多数が違う答えを出すと自分に自信が無くなります。集団の規範に合致するように態度が変化し、個人の意思に反する行動がなされます。メンバーが納得しないまま活動をしている場合がありますが、その根本には個人だけの問題ではなくチームや組織との間で認知不協和が起こっている可能性があります。



リーダーシップのスタイル

リーダーシップのスタイルは次の4つに分けられます。
・状況対応型リーダーシップ
・カリスマ型リーダーシップ
・ファシリテーション型リーダーシップ
・イノベーション型リーダーシップ

A.状況対応型リーダーシップ

上述した「人の発達段階」に合わせてリーダーシップ・スタイルを適合させる方式です。メンバーの実行能力に合わせた「指示的行動」とメンバーの姿勢の状態(やる気)に合わせた「援助的行動」の与え方をメンバーの発達段階に応じて変えます。例えばメンバーの実行能力が低いうちは指示的行動を多くします。やる気が高いときはモチベーションを上げる援助的行動は少なくします。このように発達段階に伴い、指示型(指示多,援助多)→コーチ型(指示多,援助少)→援助型(指示少,援助多)→委任型(指示少,援助少)とリーダーシップのスタイルを変えます。

B.カリスマ型リーダーシップ

ビジョンを示し、並外れた行動をとって結果を出し、部下からカリスマとして認められることで、リーダーシップを発揮します。人々の心を引き付ける強い魅力により、メンバーが感情的に従うことで先導しリーダーシップを発揮します。但し、メンバーはリーダーの指示に従うことが基本となるため、リーダーに依存して自立性を失う可能性も高くなります。

C.ファシリテーション型リーダーシップ

メンバーの自立性を重視し、多くのメンバーの意見・情報を引き出します。リーダーは地位や権威を用いたコントロールは行わず、中立的なファシリテーターとして行動を行います。質問や傾聴といったいわゆるファシリテーション技術を用いて、メンバー主体で行動させます。

D.イノベーション型リーダーシップ

イノベーション型リーダーシップは次に示す「コラボレーション」、「発見方の学習」、「統合的な決定」を行い、メンバーが集団で意欲的にイノベーションに取り組める環境を築くことに重きを置きます。イノベーションは一人の天才からは生まれません。個人の専門や経験が交換され、組み合わされて生まれます。そこで意欲的にイノベーションに取り組める環境づくり・組織づくりに注力します。

【D1.コラボレーション】
リーダーが個人と個人の努力をコラボレーションによってつなげ、イノベーションを生むことを促進させます。

【D2.発見型の学習】
イノベーションを生むには様々なアイデアや試行錯誤が必要です。このため、期間が長期化することや失敗が繰り返されることがありますが、リーダーはこれを支える行動をとります。

【D3.統合的な決定の促進】
新しいものを生み出すイノベーションにおいては、チーム内で意見の不一致や選択肢の対立や問題が発生しまし。このときに、リーダーは偏った決定や妥協した決定を行うのではなく、対立の差異や問題を受け入れて、統合した案を模索する行動をとります。


参考文献

坂本直史、チームで築く品質と信頼性のためのリーダーシップの考察、日本信頼性学会誌、2019 年 41 巻 1 号 p. 25-32



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