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ものづくりにおけるリーダーシップの話(後編)

前編では「リーダーに必要な知識とスタイル」を後編では「ものづくりに適したリーダーシップ」について述べます。



ものづくりに適したリーダーシップ

前編で述べた「人の行動に関する一般理論」と合わせると、品質や信頼性に関わるリーダーシップの要件は次のようになります。

【要件1】
メンバー全員を均質化することはできないが、チーム全体で最終的なアウトプットの品質や信頼性に関する活動に対する協力的な運営を促進

【要件2】
リーダーの指示がなくても個人が自発的に自立して活動することができる動機付けの実施

【要件3】
改善や新しいことに取り組む姿勢を奨励

【要件4】
チームとして個人が活かされ、個人の価値が意識できるようにする。これにより自分の作業が全体に影響することを意識、責任ある行動と貢献ができるような運営を実施

以上を前提とすると、先に紹介したリーダーシップの中では「イノベーション型」が最も適当と思われます。「状況対応型」は、リーダーと個人という関係においては個人を成長させる観点で適当です。「カリスマ型」では個人の自立が促進できない可能性があります。「ファシリテーション型もリーダー」がいない場での活動の自立性やチームとしての協力について促進できない可能性があります。しかし、実際には完璧な1つのスタイルがあるわけではなく、必要なものを組み合わせることとなります。



リーダーシップとコミュニケーション能力

リーダーシップは、チームに良いコラボレーションや自立的活動をもたらします。これはリーダーの効果的なコミュニケーションによって実現されます。

【1.否定されない運営】

イノベーションには、様々なアイディアを出し、議論し、異議を唱えることが必要です。すべてのメンバーが意見を出すためには、「結果に影響を与えられる」、「意見が否定されない」という安心感が必要です。社会心理学で挙げられるように、自分が参加しなくてはいけないという当事者意識を持たせる運営が必要です。


【2.リーダーの主動欲求の抑制】

メンバーが主体となって活動するためには、リーダーが自分で仕切る欲求を抑制することが必要です。「早く次に進みたい」、「スケジュールから遅れてきたので、この辺で妥協しよう」等の問題は発生しないようリーダーが努力し、もし発生した場合には自分がコントロールするのではなく、むしろ必要な状況と考えるべきです。


【3.やりなれたことを放棄する意識】

品質や信頼性を大きく改善する活動は、今までの活動とは非連続なものであるにも関わらず、メンバーのやり慣れた方法で対応しようとしがちです。また、異なるバックグラウンドを持ったメンバーで構成されるチームから出される意見は多様となり、複数のチーム間で意見を出すとチーム内では気がつかなかった視点からの見方がもたらされます。出された意見が現在の状況から変化が大きいと、チームには認知心理学の変化を回避する心理が働き、否定的になる可能性があります。しかし、リーダーは常に偏見を持たず新しい見方、意見を目的に照らして判断しなくてはいけません。人の行動性向を理解したコミュニケーションのコントロールを意識して運営を行う必要があります。


【4.対面でのコミュニケーションの実施】

リーダーはメンバーを動かすためにコミュニケーションをとりますが、その根底にはメンバーの感情に働きかけて行動を起こさせることにあります。最も基本的な感情である「基本的情動」は、喜び、怒り、驚き、悲痛、恐れ、嫌悪の6つです。人間が生得的に持っているものであり、民族の違いを越えて普遍的なものとされています。また人間の感情は言葉だけではなく表情にも反応するものであり、コミュニケーションは対面で行われることが人間本来の姿です。仕事においてはメール等で顔が見えないコミュニケーションも多々ありますが、人を動かすためには対面によるコミュニケーションを効果的に取り入れることが重要です。


【5.経験】

品質や信頼性に関する活動において関連する人達の経験を良いものにするためのふるまいが必要です。単に成功体験をさせるということではなく、メンバー自身がどれだけのことを自分で行ったのかを認識させることが重要です。活動結果が成功でも、自分の活動の価値が認識できないのでは、成功体験にはなりません。チーム全体で良好なコミュニケーションに基づく「関係性」においての成功体験は、良い経験となります。また「チームで協力して価値を創造した」ということを自覚させるふるまいがリーダーシップとして重要です。



参考文献

坂本直史、チームで築く品質と信頼性のためのリーダーシップの考察、日本信頼性学会誌、2019 年 41 巻 1 号 p. 25-32

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