【小説】銀杏の葉(閣下の章34)
彼なりの快進撃を続けていた矢先のこと。
発熱した。過去、十七歳くらいの時にもあった原因不明の高熱である。立てないくらいの状態で何とか、医院に出向き、数週間養生した。とにかく大変だった。胃腸にも来た。
アリオールは、秋に控えた模擬演習のことが心配だった。終わったら監査もある。どうなることかと、できる範囲のことを少しずつ進めてはいたが……。
しかし、熱が引いて症状が治まると、嘘のようにすっきりと冴えていた。美しい秋晴れ。立ち向かおうと思った。
練習に練習を重ねて、演習の日。
何年も前、同じように会場に向かい、演武を披露した。ところが、緊張して固くなっていたせいなのか、思ったようにいかず、相手の攻撃をしのぐだけで精一杯。組んでいた同僚には散々叱られたものだ。
けれども、同じ轍は踏まない。いや、敢えて踏襲しよう。流派が同じなら、戦いようはある。
自分は、遥か東方、ロシアから来た嫌な奴。それでいい。
数日前、一人所在なく運動場の隅に突っ立っていたMに、声を掛け励ました。Mはこの春、昇進と共に異動することになっていた。
「君と一緒に帰るのも、最後かもしれんなあ」
そう言いながら付いて歩き、それでも寮にまでは訪れなかった。小さなひつじ雲が沢山、色の薄い空に浮かんでいた。
思い返しながら、黄色い葉が舞う道を進んだ。
三角形の底辺が、二又に分かれたような形をした、この葉をつける木はいちょうというらしい。輸入したものだそうだが、彼は好きだ。純で、
実直な感じがするとでもいうか。シンボルとも思えた。
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