アンジュルム『夢見た 15年』のMVが配信されたので少し深く語ってみる
アンジュルムのリーダー和田彩花が今年の6月で卒業する。スマイレージ結成当時から10年の月日が流れた。思えばその間、様々な沸湯を飲まされ這いつくばって耐えてきた臥薪嘗胆を地でゆくハロプロ人生だった。
次々と抜けていくメンバーと加入してくる若いメンバーたち。和田彩花は口ではモーニング娘。のように「私達は卒業と加入を繰り返していくグループだ」と事ある毎に言っていたが、果たして本心だった事があるのだろうか?「変わらぬままそこにいる真理」とはなんなのだろう。
半跏思惟像になりたい
和田彩花は仏像が趣味だ。なかでも中宮寺の半跏思惟像が一番好きだと公言している。半跏思惟像は弥勒菩薩である。弥勒菩薩は、仏としての悟りを開く一段下にいる方だ。自ら修行の途中でありながら、人々に救いの手を差し伸べている存在だ。弥勒とは「慈しみ」を語源としている。「オタクは推しに似る」というが、和田彩花はまさにそれを体現しているように感じてならない。
自ら苦悩し葛藤しながらも、後進を慈しみ育てていた弥勒菩薩のような存在である和田彩花が卒業してハロプロから姿を消す。今までもBerryz工房や℃-ute、高橋愛や道重さゆみなど数多レジェンドと言われる存在が旅立って行った。嗣永桃子の引退の時に「遂に一時代が幕を閉じた」と言われたが、和田彩花の卒業こそが本当の意味での時代の終わりだと感じてならない。
だが、それは暗い話ではなく和田彩花という存在が一段高みに向かう為に必要不可欠なファクターであり、同時に彼女が真に理想とする姿に近づく為の通過儀礼なんだと思う。祝祭の日が近づいているのだ。
和田彩花は15年前の夢を見るか
その門出に華を添える曲として出来たのが『夢見た 15年』だ。アンジュルムを、スマイレージを知っていれば誰もがピンとくるタイトルは、スマイレージのメジャーデビュー曲として『夢見る 15歳』からきている。
ただしこれはただのアンサーソングではない。『夢見る 15歳』は、ご存知つんく♂作詞作曲の名曲だが、今回の作詞はスマイレージとして和田彩花と共にデビューし、今は作詞家として頑張っている盟友(と書いて腐れ縁)福田花音が初めてアンジュルムに提供する事が出来た作品なのだ。そんな彼女が和田彩花の15年間を想い綴った渾身の作品なのだ。
ここに否定的な意見をチラホラ見かけたが、ナンセンスとしか言いようがない。つんく♂の曲が良かった?それこそが規定概念やしきたりに縛られた過去を生きている人間である証であり、それをブチ壊して前に進んでいく存在こそがアンジュルムなんじゃないのか?
「あの頃は良かったとか昔に囚われる人生なんて」
完全に言われる前に自分から言ってやる感満載の出だしである。いかにも福田花音らしいマウントの取り方だ。それが微笑ましくて、僕なんか一行目で泣きそうになる。
福田花音の餞別と本気のヲタ殺し
ここから馬鹿みたいにスクショした画像と共に『夢見た 15年』の解説。
Bメロラストに登場する「カルチャーショック起こすほどに」はスマイレージのキラーチューン『有頂天LOVE』のサビ歌詞からの引用だ。
いまだにハロプロ内外から支持される名曲中の名曲であり、4人のスマイレージとして最後のシングルとなった曲。そこから「時代を変えよう」という強い意志を込めた言葉でサビへ入っていく。
「いつの間に脱いでいた短いスカートも」とは、【日本一スカートの短いアイドル】というキャッチフレーズだったスマイレージからアンジュルムへと改名した事を意味していて、それをアンジュルムへ変わったタイミングで加入した三期メンバーと和田彩花で歌うという構成。もうそれ自体がエモい。
「バッサリ切ったショートカットも」はスマイレージでも好きな曲上位に名を連ねる名曲『ショートカット』から。そして四期の上國料萌衣が歌いながら当時の印象的な振り付けをするメタ展開。
「もう夢見ているだけの15歳じゃないし」六期と共に歌うフレーズはスマイレージデビュー曲『夢見る 15歳』からだが、敢えてこの曲を使って「もう夢見ているだけの存在ではない」と過去との決別を込めているように感じる。
また、この曲のMV構成は和田彩花があくまで主体ではあるが、それと同等くらい印象的な場所で加入したばかりの新メンバー太田遥香と伊勢鈴蘭をフィーチャーしている。ここでも「期待も全部背負って」という歌詞と共に2人のソロカットが挿入される。
この曲が単なる餞別ではなく、同時に「未来へのタスキを繋いでいく」という思いが籠っているのが伝わってくる。そして、そう思って見ていると自然と泣いている自分に気付くはずだ。
一番好きなシーン。
もはや涙でステージは見えない
最大にして最強(最凶)の泣かせポイントが、最後に残っていた。間奏のダンスである。和田彩花が二期から順番にそれぞれのデビュー曲の振りを踊っていく。
二期と『タチアガール』
二期はスマイレージオリジナルメンバーとは違う苦渋や辛酸を舐めてきている。ドン底からスタートした彼女たちがいるから今のアンジュルムは素敵な優しさに満ちたグループになったんだと確信している。ケガで中西香菜がダンスショット不参加なのは唯一の残念な事。
三期と『大器晩成』
彼女たちが加入した事と、この曲のおかげでスマイレージはアンジュルムとしてスムーズに移行出来た。正月のハロコンで初披露した時の衝撃は忘れられない。まさに「今を見ろ!」とブン殴られた。
四期と『次々続々』
単独加入してきた上國料萌衣だが、唯一無二の逸材だと全ハロヲタが認めたのはこの曲が披露された「ひなフェス」だった。なんでモーニング娘。オーディションに落ちたのか理解できないくらいの【神の子】だと今でも思っている。
五期と『上手く言えない』
同じく単独加入してきた笠原桃奈。田村芽実と福田花音が相次いで卒業し、短い間に早くも転換期を迎えたアンジュルムに未来を感じさせてくれる存在として輝いている。最近、本当に和田彩花に似てきた。親子のようである。
六期と『マナーモード』
兼任という大変な事務所都合に巻き込まれた船木結と地方アイドルから這い上がってきた苦労人の川村文乃。様々な事情を抱えた二人だが、いまやアンジュルムには欠かす事の出来ないピースだ。僕なんか次期リーダーは大抜擢で川村文乃でも良いと思っているくらいだ。
そして新メンバー七期とはハイタッチして「これからを宜しくね」と挨拶すると、最後に全員で『夢見る 15歳』のサビの振りをする。
泣く。ナイアガラの滝のように目から涙が溢れ出す。短い間奏の中にスマイレージからアンジュルムに繋がる歴史が詰まっているのだ。あざとすぎて腹が立つのだが、そんな策略に抗えない自分が悔しいという気持ちは微塵もない。むしろ甘んじて自らの涙を受け止めようと思う。
だが
最後にまだあった。もはや涙は残っていないと狼狽えるヲタクにオーバーキルのような最大級の打撃が脳天に打ち下ろされる。
和田彩花がスマイレージのインディーズデビュー曲『ぁまのじゃく』から引用した「ぁまのじゃくな私だけど」という歌詞をソロで切なく歌う。
やばい。やばい、やばい。
するとスッと室田瑞希が立ち上がる。アンジュルムになってから落ちサビの女王として美味しい所を毎回任されてきた彼女が今回も満を持して来た。
からのクリスタルボイス上國料萌衣が畳みかけて搾りカスの涙腺を攻撃。
MVで見ても泣くのだが、この前のリリイベの初回は初披露という事もあってか二人して号泣するというハプニングが起こり、そこから感情が全体に伝播して単なるリリイベが武道館の卒業公演のような空間になるという出来事があった。
本当に武道館の当日はどうなってしまうのだろう?
彼女たちが泣いて歌えなくなれば僕らも泣いてしまうだろうし、彼女たちが気丈に歌い切ればそれはそれで感動して滂沱のごとく泣くだろう。もはや泣く未来しか見えない。
小手先のギミックだなんだという批判もあるかもしれない。でも、この曲は福田花音が心を込めて和田彩花に贈った手紙なのだ。素直な気持ちをストレートに歌詞にしたからこそ、沢山の思いが僕らにも届く。
こんな素敵な同期からの餞別は見た事がない。心から、まろありがとう。
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