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令和に華麗なる復活を遂げたNetflix版『呪怨:呪いの家』

シーズン1全6話を一気に観た。最高に厭な気分が持続する3時間だった。

なるべくネタバレはなしで感想というか興奮を共有したいと思うが、まず今回のNetflix版は今までの粗製乱造されてしまった『呪怨』とは一線を画している。唯一近いとするならば最初のビデオ版『呪怨』だろうが、それは必然なのかもしれないので後ほど言及したい。

一番近い雰囲気の作品といえば『残穢』だと思う。

『残穢』のように実際にあった恐怖体験や事件を辿りながら怪異の謎を解き明かしていく中で、次第に怪異に憑り込まれていくドキュメンタリータッチなシナリオ構成は大好物だ。

『呪怨:呪いの家』シーズン1は1988年から1997年までの出来事である。

M君こと宮崎勤による連続幼女殺人事件、未成年の事件としても最悪のひとつである綾瀬女子高生監禁殺人コンクリート詰め事件が起きている世の中の片隅で、“とある家”にかかわる人々が次々と陰惨な事件を起こしていく。そして、それら実際にあった事件が奇妙に“とある家”での出来事とリンクしていく1話目から最高に厭な気分でいっぱいだった。

そう、『呪怨:呪いの家』にビックリ箱は存在しない。突然、俊雄くんが「にゃーお」と鳴いて白ブリーフで出ても来ないし、あの伽椰子も出てこない。いや、もしかしたらシーズン2以降で伽椰子は関係してくるのかもしれないが、今のところは僕らの知っているバケモノ伽椰子は存在しない。

在るのは「何度も陰惨な事件を繰り返しながらも取り壊されずに建ち続ける一軒の家」だ。劇中でもそのことには言及される。

軽いネタバレだけど、劇中でも宮崎勤が登場する。彼は1話で捕まり牢獄の中だが、荒川良々の演じる心霊研究家・小田島が「呪いの家」の場所について面会に行く。ここの緊迫したやり取りなんかは同じNetflixオリジナルドラマ『マインドハンター』のようだった。

『マインドハンター』もアメリカで起きた凶悪事件の犯人と面会を重ねながら犯罪心理捜査の礎を作った人物の実際にあったエピソードをもとに作られている。有名凶悪殺人鬼との緊迫したやり取りは小田島と宮崎勤の面会も同じくらい、いや生々しく記憶にある凶悪犯であるだけに『呪怨』の宮崎勤の方が強烈だ。

ちなみに宮崎勤役は柄本時生。見た目は全然違うんだけど、狂気の雰囲気は完璧だ。超絶厭な気持ちになる。もうね、1話目の冒頭に出てくるシーンなんて最悪の極み。

それにしても今回の『呪怨』で追体験する昭和から平成初期は、なんと混沌としていたのだろうか。恐ろしい事件や災害が山盛り世界中で起こっていたんだと思うとゾッとする。

酒鬼薔薇聖斗事件も出てくるのだが、もしかしたら「人間の狂気のキッカケとは何か?」「なぜ人間は突然、凶行へと駆り立てられるのか?」を暗に仄めかしているんだろうか。

いや、もっと言うと彼らもまた、どこかで「呪いの家」に触れたことで犯行に及んだのかもしれない。現に1話で宮崎勤は小田島が出演していたオカルト番組で流された「呪いの家」に関係する怪奇現象を好んで聴いていた。

5話から6話にかけて様々なことが起こる。小田島の閉ざされていた記憶が開いていくのに呼応するように、それが起爆装置だったかのように怪異が広がる。完全にラストはクリフハンガーとなっていた。はたしてシーズン2ではどうなってしまうんだろう。

Netflixオリジナルの『全裸監督』を視聴した時も思ったことだが、日本だって予算出して本気出せば世界に通用するドラマが作れることを『呪怨:呪いの家』でも示してくれた。

素晴らしい狂気の世界を堪能して、興奮する気持ちとグッタリと疲労困憊している頭で3時間あっという間だった。そして外ではシトシトと雨が降っている。なんとも厭なシチュエーションだ。黒沢清監督の『CURE』を観たあとや小説版の『リング』を読み終わったあとのような言いようのない不安な感情でいっぱいである。

そして全6話を視聴後に映画秘宝8月号を取り出した。

『呪怨:呪いの家』の特集が組まれている今号は、とてもとても読みごたえがある。中でも脚本の高橋洋さんのインタビューは今後の考察にも関係する重要なファクターが満載で、この短時間では全てを網羅できない。

高橋さんは自身が監督した『霊的ボリシェヴィキ』などでも一貫してリアルの中に存在する霊的な異物を描いている。インタビューでは、やはり当時の様々な猟奇事件や凶悪事件で垣間見られた現実と非現実の奇妙なリンク、実話のなかにこそ感じる「リアル」な感覚を表現したいようだった。なので昭和から平成の事件史と照らし合わせながら観返したら、要所要所でなぞられているのが分かると思う。そして、その「リアル」がズルリと顔を出す空気感が作品の奥行きを出しているのだろう。

そんな高橋洋さんの肌感覚を若い三宅監督がスタイリッシュに映像化してくれたことで、高橋さんの独特な霊的イメージが増幅されて解き放たれたように感じる。

というのが理解できるので映画秘宝は必読アイテムだと思う。

シーズン1は1997年までで終わっている。当初から「『呪怨』は実際にあった出来事を参考に作られた」というのを謳い文句にしている。

そしてビデオ版『呪怨』がリリースされたのが1999年だ。

シーズン1で起こった出来事の数々が、2年後に小田島の書いた本をもとにして映像化されビデオ版『呪怨』がリリースされるんじゃないだろうか。

「『呪怨』は実際にあった出来事を参考に作られた」

もしかしたら僕らは意図せず世紀末に生まれた最恐のビデオ作品『呪怨』の誕生までを『呪怨:呪いの家』シーズン1を観ながら追体験していたのかもしれない。


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