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アンジュルムにハマったミュージシャン堂島孝平による「すべての『べき』を肯定する」生き方

「四十にして惑わず」とは孔子の有名な言葉だ。40歳になって道理も明らかになり自分の生き方に迷いがなくなることを意味するのが一般的な解釈ではあるが、そこに異論を唱えたのが大槻ケンヂである。

「孔子は何もわかっていない。40歳にしてわかったことは、40代は大いに悩むという厳然たる事実である」と自著『いつか春の日のどっかの町へ』でボヤいている。

40歳のことを「不惑」と言うが、この「不惑」には別の説があるらしい。

「不惑」ではなく「不或」だったという説。「不或」とは「区切らず」という意味で、実は孔子は「40歳にして区切らず」と説いていたんじゃないかということらしい。人生経験も積んで迷いも無くなり自信もついてくるかもしれないが、そういう安定にしがみつかず新しいことにチャレンジしていかないといけない。

そういう教えだったんじゃないかという。

なるほど、現代ではそっちの説の方がしっくりくる気がする。

サブカル系な人種が40歳を過ぎると急に惑いまくる問題というのは吉田豪の『サブカルスーパースター鬱伝』でも大槻ケンヂを筆頭に各所のサブカルスターへのインタビューでつまびらかにしている。

そしてこのコロナ禍で40歳を過ぎたミュージシャン堂島孝平も惑っていた。

思うような活動ができなくなり、人生とは?自分とは?と答えの見えない禅問答を繰り返して陰陰滅滅となっていた時、ふと現れたのがアンジュルムだった。「心が弱っている時に人はアイドルにハマる」と唱えたのは誰だろうか。昔からよく聞く話だが、堂島孝平も分かりやすくアンジュルムにハマった。

その顛末は『豪の部屋』に出演した時に延々と語っている。

とにかく40歳にして惑いまくった堂島孝平はアンジュルムという新しい扉を開くことで人生が豊かになったことを憚らずに叫んだ。そして、その想いはアンジュルムへと届き、ミュージシャンの本分である楽曲提供という形で感謝を返すことになった。

人生って素晴らしい。

では、そんな堂島孝平によって作られた『愛すべきべき Human Life』とはどういう曲なのか。堂島孝平はアンジュルムを「Yesからはじまるアンジュルム」と表現する。そこで「肯定」をキーワードに『愛すべきべき Human Life』の意味を紐解いてみようと思う。

すべての『べき』は正解である

まず、そもそもで「肯定」と言いながら『愛すべきべき Human Life』というのに違和感を覚える人もいるんじゃないだろうか。「~すべき」というのは、けっこう人へ押し付けをする時に使われる言葉でネガティブなイメージもあったりする。

いきなり「愛すべきべき」とか言われても身構えてしまいそうだが、この場合の「べき」は意味のある「べき」なんじゃないだろうか。

日本アンガーマネジメント協会という団体がある。そこで提唱されているのが「すべての『べき』は正解である」というものだ。怒りやイライラを感じた時に相手の「べき」に耳を傾けてみる。自分の「べき」と同じように相手の「べき」も知り、認めることがアンガーマネジメントに繋がるという理論だ。

まさに「肯定」である。自己肯定感という言葉もよく聞くようになったが、同様に他者を肯定することも大切である。「愛すべきべき」というように「べき」を2回続けているところに注目すると、堂島孝平も「自分の『べき』と同様に相手の『べき』を愛することが人生だ」とまず提唱しているんじゃないだろうか。

更に続く「お先はまっキラだ」という歌詞。「お先は真っ暗だ」というのが一般的ではあるが、この曲はとにかくポジティブに考えようという精神に溢れている。そこに「なるべく多くのYes自問していきたい」という歌詞が続くが、ここも堂島孝平がアンジュルムを好きになって思った気持ちが凝縮されてると思う。

すべてを「Yes」とするのは案外難しい。だからこそ「なるべく多く」「自問していきたい」と自分に言い聞かせているのだろう。

しかしこの深い「なるべく多くのYES自問していきたい」というくだりにMVでは為永幸音ちゃんの顔芸が全開で映っているというのが素晴らしい。この顔を見ちゃうと「そうだね!Yesだね!」と全肯定せざるを得ない。

そして「And you?(あなたはどう?)」という問いかけ。それは同時に「And you?(アンジュ)=それが『Yesからはじまる』アンジュルムだよ」と堂島孝平の心が叫んでいるのだろう。

「温もりだけ忘れんな Noである時も」というのも素晴らしいスタンスだなと思う。意見が違っても全否定するのではなく「なるほど、そういう考え方もあるのか」と深呼吸。

そして最後は「ねえねえ!」と笑顔で聞いてくる。これも「私はこう思うよ。でもあなたはどう思ってる?教えて?」と相手を受け入れることからスタートする姿勢を「ねえねえ!」という一言で表現しているんじゃないだろうか。

2番に溢れる多幸感の意味

2番の歌詞からがまた素晴らしいのと、ここからMVでも橋迫軍団が大暴れしてくるのが最高の流れ。未来への希望に溢れる多幸感。

はっさこ先輩からはじまり為ちゃんの顔芸で終わるの最高。 And you?

2番は歌詞のそこかしこにアンジュルムを詰め込んでいるようにも見える。この「有能ムーブ」というのは、よくサブリーダー川村文乃ちゃんのことをヲタクが「有能」と表現するムーブがあることを言っているんじゃないだろうか。

そして「有能ムーブもそれぞれ」と歌うのがリーダーである竹内朱莉さんというのも深い。偉大なる初代リーダー和田彩花さんの跡を継いだ2代目の苦労がこの一言に溢れている。更にそんなリーダーを応援しているのが、今や古参となった3期の佐々木莉佳子ちゃんと4期の上國料萌衣ちゃんというのがMV的にもエモいシーン。

「この交差点曲がったら 誰と巡り合うかな」という歌詞、これはアンジュルムのメンバーが卒業する時に歌われる定番曲『交差点』のことだろう。出会いと別れを繰り返しながら進化していくアンジュルム。その未来を担う橋迫軍団が「誰と巡り合うかな」と笑顔で問いかけてくるエモさったらないですわ。ここも大好きなシーンのひとつ。

「なるべく大きなLove」といえば『46億年LOVE』の「大きなラブでしょ」という歌詞。『46億年LOVE』が話題になって以降メンバーもヲタクも「BIG LOVE」という言葉をよく使うようになった気がする。船木結の卒業前に放送された特番のタイトルも『船木結のアンジュルムBIG LOVE』だった。

もはやアンジュルムといえば「BIG LOVE」くらい愛用されている言葉だ。

「共感より共存だ」とは『泣けないぜ…共感詐欺』において「安すぎるシンパシー それじゃ救われないし」と安易な共感に溢れた世の中へのアンチテーゼを歌ったアンジュルムに、更に一歩進んで「共感できなくても共存はできるよね」という前向きな提案を堂島孝平がしているように見える。

そして新メンバー平山遊季ちゃんの似顔絵を描き「完璧じゃん」とドヤる為永幸音ちゃんに安易に「いいね」と共感せず、でも否定ではなく笑って受け入れるアンジュルムメンバーというシーンが素晴らしくアンジュルム。

「次世代だってリアルタイム みんな同時代」というのも良い言葉。確かに世代は違うかもしれないけど、時代は同じよね。そして時代を作ったリーダー竹内朱莉さん(虫とか爬虫類苦手)の顔に容赦なくカエルのオモチャを近づける悪ガキ橋迫鈴ちゃん(爬虫類好き)と川名凜ちゃん(カエル好き)の構図が最高だとは思いませんか? ねえねえ!

「単純 単純」と言いながら単純に可愛いふたりが「やってる」映像を見て単純に「かわいい!かわいい!んがゔぁぎぃぃ!」とパブロフの犬化してしまう単純なヲタク続出なカット。

最年少にして才女である松本わかなちゃんが勉強しているのを邪魔するダメな年上たちこと橋迫軍団。とにかく『愛すべきべき Human Life』のMVには橋迫軍団が溢れている。最高である。幸せである。

なにげにこの「人生は大航海」というのも深い。「大航海」と「大後悔」をかけているんじゃないだろうか。人生は後悔の連続だけど、「後悔」を「航海」って思えば荒波も飛び越えて宇宙まで飛んでいけるぜ!って気持ちにもなりそうだ。

最後の「And you?」はリーダーから順に集まりながら「And you?」と言っていくが、音源でも増えていくメンバーの声がシッカリと聴こえる調整をしてくれていて、そういう細かい拘りもアップフロントらしくて好きだ。そして、たった独りになってしまった「いにしえのスマイレージを知る」リーダーのもとに9人の新世代が集う構成のエモさ。

本当に2番の歌詞と映像には今のアンジュルムの全てが詰まっている。苦労人であるリーダーを支える令和の新世代。竹内朱莉という人が踏ん張ってリーダーとしての責務を全うしてくれているからこそ、今のアンジュルムは全員が伸び伸びと自己表現できる環境になっている。

和田彩花は偉大だった。そしてまた、竹内朱莉も偉大なるリーダーである。

いつかは訪れるであろう、リーダーがフレームから居なくなったアンジュルムを暗示するようなカットが最後に出てくる。残されたメンバーは誰もが笑顔に溢れている。そして背中しか見えないリーダーは、この時どんな顔をしているんだろうか。

それを考えると胸が少しキュンと切なくなる。

竹内朱莉さんを尊敬している橋迫軍団リーダー橋迫鈴ちゃんだけが表情が見えない。もしかしたら、それも何かを暗示しているんじゃないだろうか。竹内朱莉さんがリーダーとなって最初の仕事が橋迫鈴ちゃんにアンジュルムの新メンバーとなることを告げることだった。

この頃からガラッと様変わりしたアンジュルムだけど、それでも繋がる想いはリーダーが卒業しても変わらず続くだろうか。それとも、また新しいリーダーのもとで新たな形へと進化していくのだろうか。

どうなるかは誰にも分からないけど、それも全部ひっくるめて愛すべきアンジュルム人生なんだろう。

そして早くコンサートで「And you?(アンジュ!)」と叫びたい。


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