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卒業祝い

 先輩とふたりで回転寿司に来ている。

 先輩は卒業式がなくなってしまって、かなり残念そうだ。袴は着るらしいけれどサークルの人たちと自主的に集まるだけみたいだ。先輩はサークルをふたつ掛け持ちしているので、分身したいと言っていた。そりゃそうだ。

 テーブル席に座る。赤い座席に先輩の黄色いセーターが映える。クリクリの真っ黒な瞳と真っ黒のセミロングの髪がとても綺麗だと思った。白くて八重歯の出た矯正していない歯並びがチャームポイントで、先輩を単体で撮った写真は、いつまででも見ていられる。

 レールの上には乾いたえび、シーサラダと書かれた軍艦しか回ってこない。先輩は茶碗蒸しを頼んで、美味しそうに食べた。私はモッツァレラチーズの載った生ハムのにぎりを、きつくなったズボンのボタンを外しながら食べた。デザートにりんごと紅茶のパフェなるものを注文してみた。

 席を立つ前に、先輩に花束を渡した。黄色とオレンジの本当に小さな花束。私は「卒業式がなくなったから、ここでお祝いさせてください」と先輩に言った。先輩は、多分、すごく喜んでくれた。先輩は「私の方がたくさん食べたし、プレゼントも貰ったから、多く払う」と言って、先輩と私は2:1の金額を支払った。ここで私は、食い下がる。それは不平等です、と。茶番だ。結局、毎回先輩が多く支払ってくれる。

 社会人になった先輩がいったいどのくらい忙しくなるのか、見当がつかない。だから、これ以降、私の方からご飯に誘うことは出来ないと思った。「次は先輩から誘ってください」と図々しくお願いをした。私は、先輩との関係をここで終わらせたくない。でも、次があるかどうかは先輩次第なのだ。私にはもうなんの権限もない。社会人と学生では、きっと全然違う。もう二度と会えないかもしれないし、もしかしたら夏頃に誘ってもらえるかも知れない。先輩に手を振り続けた。私は前方不注意で薄汚れたおじさんにぶつかった。先輩、さようなら、お元気で。どうか、また誘ってください。好きです。

#卒業 #大学生 #小説 #先輩 #グルメ #寿司


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