台風が来ると思い出す話①

※最後の方でLGBTについて若干触れています。

台風が来ると思い出すことなんだけど、今でも何が正解だったのか分からないことがあるので聞いて欲しい。


高校1年生の時楽しいことが大好きで大人数のグループに入ってた私は、1人だけ文化部に入っていたこともあってか、自然とハブられるようになった。

今思い返すと、隣と後ろの座席にイケメンが座っていたことが気に食わないとか、初対面の時から「ねえ、コンタクトにしないのー?それか眼鏡変えたら?」と執拗に言ってくる女の子がいたから、その子が私のことを嫌いだったんだろうなと思う。

それに、私も高校生の頃はあんまり周りのことを見ていないきらいがあったから、ハブられても仕方ない何かがあったのかもしれない。

グループを抜けよう、と思ったのだが、それは罪悪感があるのか、はたまた苛めていると思われるのが嫌だったのか、お昼だけはみんなで食べるのが暗黙の了解だった。それにも関わらず、グループ内で好きな子が被ったなんてしょうもない理由で1月、グループは解体された。遂にお昼ご飯まで1人になった。

とりあえず、教室内の色んなグループを回った。部活の友達は、「こっちの教室きなよ、お昼一緒に食べようよ」と誘ってくれたけど、校舎が違うこともあって断った。

ほとんどみんな怪訝そうな顔をしたし、中には「私に普通の友達みたいなこと期待してるなら一緒にはいられない」と言われたこともあった。
ライブも一緒に行ってくれた1人が好きな子で、まさかそんなこと言われるなんて思ってもみなかった。


そんな中、「え、〇〇ちゃん1人なの!?一緒にご飯食べよっ!!」と声をかけてくれたのがシロちゃんだった。

シロちゃんはクラス内でも笑顔が可愛くて優しい女の子だった。後から知ったけど解体されたグループの中の友達がシロちゃんにお願いしてくれたらしい。
(「でもそれとかなちゃんと仲良くしたいと思ったのは別の話だよ」とシロちゃんは笑ってくれた)教室にいないなあと思っていたのだが、食堂にマヤちゃんといたらしい。教室で心細いのが食堂ではマシになるかと思って来た私にとっては思わぬ救世主だった。


マヤちゃんは、色んな意味でシロちゃんとは正反対の女の子だった。小柄でさらさらロングが似合うモテモテのシロちゃんと違って、モデルばりの身長とくるくるとした天然パーマが特徴のマヤちゃんは低いハスキーな声が特徴で、前いたグループの中にはマヤちゃんのことを不名誉なあだ名で呼んでバカにしてる子もいた。だけど、そんなことをマヤちゃんは気にもしてないみたいだった。

それがカッコいいなと密かに憧れていた。


私とシロちゃんがお喋りだったこともあって、マヤちゃんはあまり自分のことを話さなかったしただにこにこ私達の話を聞いてくれていた。


だから、そんなマヤちゃんに「2人だけで遊びに行きたい」と誘われた時は心底驚いた。シロちゃんがインフルエンザで休んでいたときのことだった。

私で良かったらぜひ!と返すととんとん拍子に話が進み、カラオケに行くことになった。


何かおかしい、と思ったのは視線だった。最初はマヤちゃんってきちんと相手の目を見るんだなすごいな、と思っていたのだがカラオケ中液晶を見る気配がまるで無かったので
「何かあった?」
と聞くと
「実は友達とカラオケ来るの初めてで」
と笑った。

なんでも、マヤちゃんは音痴なのがコンプレックスだったらしい。でも、私となら楽しめるかと思って誘ってくれたとのことだった。
正直本人の言う通りマヤちゃんは音痴だったけど、私はマヤちゃんと色んな曲を一緒に歌えるのが楽しかったし、マヤちゃんの思い出になったなら良かったと思った。


カラオケに行って以降、マヤちゃんは少しずつ私への態度を変えてきた。

まず、スキンシップがすごくなった。
手をするっと重ねてきて、休み時間は私の背中にもたれかかってきたりハグしてきたりすることが多くなった。

正直最初は驚いたけど、前のグループでは無かったことだし、気を許してもらえてる感じがしてすごく嬉しかった。
そんな私達を見て「2人ともいつの間にそんなに仲良くなったのー?」とシロちゃんは笑った。

そんなこんなでシロちゃんのグループに入れてもらってから2ヶ月、あっという間に3月になった。

文理選択の話になった時、シロちゃんが「ごめんね、2人には言ってなかったんだけど、私理系だから来年はクラス別なんだ」と言われた。

私には文系の友達が他クラスにたくさんいたのでその辺の心配はしていなかったこともあって、そうなんだ残念〜、くらいのテンションで話を聞いてたけど、マヤちゃんは違った。

唇をわなわなと震わせて大きな目に涙をいっぱい溜めて、泣きそうなはずなのに怒っているようにも見えて、マヤちゃんの体格もあってか、恐怖を覚えてしまう凄みがあった。


その次の日にマヤちゃんは放課後、誰もいない倉庫に私を呼び出した。マヤちゃんにはいこれ、と渡されたのはブランド物の財布と、手縫いの刺繍の入ったハンカチだった。私のイニシャルとマヤちゃんのイニシャルが入っていた。その袋の中に何か固いものが入っていて、開けると『ずっと2人で一緒にいようね』とでかでか書かれたカードが入っていた。


驚くよりも先に、恐怖が来た。
というのも、こういうことは初めてじゃなかったからだ。中学校の時も私に貢物を渡してきて金銭を握らせてくる子がいて、揉めに揉めたのだ。中学の先輩に「かなちゃんは女の子に好かれるフェロモンがあるから気をつけないとダメだよ」と真顔で言われたこともある。女の子に告白されたことは1度じゃなかった。

咄嗟に青ざめながら「いらない」と消えそうな声で呟いた。ハッとして顔をあげると、悲痛を顔に塗りたくったようなマヤちゃんの瞳から、涙がこぼれ落ちた。
「かなちゃんも私を捨てるの?」

しまった、と思った。
マヤちゃんは不安なんだと思った。中学生の頃自分もいじめられたことがあるのだ、と教えてくれたことを思い出す。本当は嫌なことを陰で言われるのも嫌だとも教えてもらった。

マヤちゃんのそれと、私が今までに経験したことは全くの別物なんだと思った。少しでも怖がってしまったことを申し訳なく思った。結局、刺繍のハンカチとカードだけ受け取った。

クラス替え、やっぱりシロちゃんは他クラスで私とマヤちゃんが同じクラスだった。

続きます

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