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TEMUで購入された玩具、95%がEUの安全規則に違反?

突然個人的な話をしますが、私がFacebookを開く時は、ほぼ毎回と言っていいほど真っ先に表示される広告の1つが、TEMU
少し前まではSHEINでしたが、そういえば最近SHEINはめっきり鳴りを潜め、もっぱらTEMUの独壇場といったところです。

私のFacebookでは!ですからね、念のため。

驚異的な成長を世界へ見せつけるTEMU

さて、そんなTEMU、2022年に超新星のごとく現れ、同年9月にアメリカでサービスを開始すると、瞬く間にカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、イギリス…と、EC市場を拡大していきます。2023年7月には日本にも上陸しました。
その後も世界各地で拡大の勢いは止まらず、現在はラテンアメリカや南アフリカを含む49か国でEC展開しています。

運営会社である中国の電子商取引会社PDD Holdingsは、現在はアイルランド・ダブリンに本社を移転しています。

TEMUは、アメリカ最大のスポーツイベント スーパーボウルで広告を出したことで、驚異的なアプリダウンロード数を叩きだすなど、マーケティング力も凄まじいですが、TEMUの最大の売りはなんと言っても、商品の安さです。

海外進出・海外ビジネス支援プラットフォーム「Digima~出島~」によれば、TEMUの圧倒的な低価格は、4つの独自戦略のシナジー効果にあると分析しています。
そのうちの1つ「戦略① 中間業者を極力排した独自の生産・物流システム」から一部抜粋します。

中国発越境ECプラットフォームであるTemuの強みは、その中国の生産工場と直接取引を行い、高品質かつ低価格の商品を調達できることにあります。

また、その物流ネットワークにも独自の強みがあります。

中国で生産した商品は、厳格なテストを経て、中国から国際的な物流ネットワークを介して各国に輸送されます。その際にTemuが設置した各国・地域ごとの独自の物流センターを通して、世界各国に商品を運び込み、物流の中間業者を極力介さないでエンドユーザーである消費者までその商品を届けられる物流システムを構築しているのです。

Digima~出島~「中国発の越境EC「Temu(ティームー)」は驚異的な低価格をいかにして実現したのか?」

TEMUでは、中国製商品は国内で厳格なテストを経た後、国外の購入者へ発送していると謳っているようですが…。

さて今日はToy Industries of Europe(TIE、欧州玩具産業協会)で公開された、ちょっとショッキングな報告をご紹介します。

TIEは1991年にベルギー・ブリュッセルに設立された欧州玩具産業のための業界団体で、TIEの会員は、EUの玩具市場・業界を代表する9つの国別協会と、18の玩具メーカーで構成されています。欧州における玩具業界の主要な問題や課題に関する情報を提供し、玩具業界に影響を与える法制の整備に関する情報やアドバイスを提供しています。



新しいオンライン プラットフォームから購入されたおもちゃの95%がEUの安全規則に違反

Toy Industries of Europe(TIE)は、オンラインマーケットプレイスTEMUから19個の玩具を購入したが、そのどれもがEUで合法的に販売されているものではなく、18個は子どもにとって安全上のリスクがあることが判明した。この点で、EUは、子どもたちを保護し、評判の良い玩具会社が公正な競争を行えるようにするため、的を絞った法律を必要としている。玩具安全規則の改正は、これに取り組む好機となる。

2023年末、TIEメンバーからの懸念の高まりを受けて、私たちはTEMU.comから19個の玩具を購入した。それらをEU公認の独立安全試験機関に送り、EUの玩具安全規則に照らした試験を依頼した。その結果は驚くべきものだった:

  • いずれの玩具もEU法に準拠していない。つまり、EU域内では販売すべきではないということだ。

  • 19点中18点が玩具安全基準EN 71-1およびEN 71-3に適合しておらず、子どもにとって重大な危険をもたらす。玩具で遊ぶことは危険につながる。危険には、切断、詰まらせ、締め付け、窒息、穿刺、化学的危険などが含まれる。
    例えば、赤ちゃん用のレインボー・リボンのガラガラには、切断の恐れのある金属ベルの鋭いエッジ、窒息の恐れのある小さな部品、詰まらせる恐れのある硬い突起物など、いくつかの安全上のリスクがある。また、あるスライムキットからのホウ素の検出量は、玩具の法定規制値の11倍であった。

  • 19の玩具のうち18は、EU市場監視規則で義務付けられているEUの住所が記載されていなかった

TIEが実際にTEMUから購入した玩具の一部(TIE)

TIEがTEMUに調査結果を報告したところ、TEMUは対策を講じ、その玩具はもはやTEMUのプラットフォームで見つけることはできないと回答した。彼らの対応は心強いものだが、是正措置だけでは十分ではない。プラットフォーム上で確認された安全でない玩具の数だけ、EU全域の消費者の手に渡っているのだ。

この調査結果は、4つの異なるオンライン・マーケットプレイスから玩具を購入したTIEの2020年の調査結果や、多くの同様の調査結果と完全に一致している。問題は、玩具の安全性に責任を持てない第三者販売者にある(今回は19点中19点)。
EUの法的枠組みはこの状況をカバーしていない。デジタルサービス法(Digital Services Act)のような最近の法改正は、EU域内の販売者に対する取締り強化にはつながるが、EU域外の販売者の抜け穴には対処できていない。最も弱い立場の消費者が危険にさらされ、他の製品よりも規則が厳しい玩具については、新しい玩具安全規則がこの法の抜け穴を塞ぐことができる。EUの消費者は、ECプラットフォームからの積極的なアプローチを必要としており、ECプラットフォームは、無責任な業者を自社のプラットフォームに参入させるべきではない。

欧州玩具産業協会のキャサリン・ヴァン・リース事務局長は、EUは偽造品や安全でない玩具の販売に対するより良い規則を策定し、施行する必要があると述べている。そのため、ECプラットフォームは、EUの消費者の信頼を悪用すべきではない。TEMUのようなオンラインプラットフォームやマーケットプレイスは、違法で安全でない玩具を販売する業者を排除し、許可しない責任を負う必要がある。

TIEは以下の変更を求めている。

  • 提案されている玩具安全規制は、デジタルサービス法やその他の規則にもかかわらず、EU域外に拠点を置く販売者のために残っている規制の抜け穴を塞ぐべきである。購入された19の玩具の中には、玩具の安全性に責任を負うEUに拠点を置く経済事業者が存在しない。EUを拠点とする経済事業者がいない場合、オンライン市場は玩具の安全性に責任があるとみなされるべきである。

  • 市場の監視当局は、この種の輸入品の取締りに重点を置くべきであり、効果的に機能するためのリソースを提供すべきである。これはしばしばチェックを逃れるタイプの小包であるため、価値の低い小口貨物をチェックすることを意味する。

  • 各国当局は、危険な製品の販売を継続的に可能にするウェブサイトをブロックするために、既存の規則をどのように活用できるかを早急に検討すべきである。

  • 取引業者のトレーサビリティ(KYBC)に関連するDSA条項の適切な実施により、オンライン・プラットフォームは当該取引業者から提供された情報が正確であることを検証する。

TEMUはオンラインショッピングアプリであり、その人気はここ2年で著しく高まっている。中国の親会社であるPDDホールディングスは市場規模を公表していないが、TEMUはEUで急成長している。スペインでは最も人気のあるマーケットプレイスアプリであり、ポーランドでは最もダウンロードされたアプリ(ゲームを除く)である。このアプリによって、顧客はEU圏外、特に中国の販売者から購入することができる。

Notes to Editors:
購入した玩具の全リストとそのコンプライアンスおよび安全性の問題はこちらを参照。

Source:95% of toys bought from new online platform break EU safety rules(TIE)

EUの基準適合マーク CEマーク

玩具の安全性という今回の話題で、CEマークがふと頭をよぎりました。
CEマークもまたヨーロッパへ商品を販売する際には避けては通れないものですので、話が少し脱線しますがどうぞお付き合いください。

玩具に限らず、EUの多くの商品には「CE」マークがついています。

CEマーク(European Commission)

CEマークは、EUの法律で定められた安全性能基準を満たす(すべてのEU加盟国の基準を満たす)製品に付けられる基準適合マークです。
EU加盟国と欧州自由貿易連合(EFTA)、いわゆる欧州経済領域(EEA)を一つの市場とし、EEA諸国間の貿易障壁をなくすために設けられたわけですが、EEA内で販売される製品が安全性、健康、環境保護の高度な要件を満たしていると評価されていることを示すマークでもあります。
このマークがついていることによって、輸入業者・販売業者はその商品をEEA内で制限なく市場取引することができますし、消費者はEEA全体で同じレベルの健康、安全、環境保護を享受できるというわけです。

ヨーロッパへ商品を販売したい場合は、たとえ日本からの販売だとしても、商品によってはCEマーキングをしなければなりません。
詳しくは「CE marking」(European Commission)をご参照ください。

また、CEマーキングはEC玩具指令 「88/378/EEC」と「2009/48/EC」のルールに基づいているので、マーキングの際はこちらもよく確認する必要があります。

EC玩具指令?

また厄介な単語が出てきました。
そう、この厄介さがヨーロッパなんですよ…。

EC玩具指令 88/378/EEC、2009/48/EC

EUにはEC指令(European Communities Directive)というものがあります。
Wikipediaによると、

EU加盟国に対してある目的を達成することを求めるものの、その方法までは定めていないような法の形態。

Wikipedia

…とのことですが、要はルールです。

EC指令には、自動車EMC指令、医用機器指令、電気・電子機器廃棄物 (WEEE)指令などなど様々な指令がありますが、その中に玩具指令 「88/378/EEC」・「2009/48/ECがあります。(それぞれリンクを貼っておきましたので、詳しい内容についてはリンク先をご覧ください。)

玩具指令 「88/378/EEC」・「2009/48/EC」にはEU内で流通する玩具の安全性について細かくルールが定められています。その中でCEマーキングの義務についても明示されています。
さらに、該当する商品に適用される全ての指令の要求事項を満たして初めてCEマーキングができるという仕組みになっているようです。

玩具に限らず、CEマーキングが必要な製品については、EC指令も同時に見ておく必要があります。

おわりに

いかがでしたか?
ヨーロッパへ越境ECビジネスを展開するのは、正直厄介です。
それぞれの国のルール以外に、EUのルールも注視しておかなければなりませんからね。
また、ヨーロッパでは今回のTIEのように第三者機関が常に監視の目を光らせていますので、油断はできません。

だけど、日本の商品に人気があるのも事実。
ヨーロッパ越境ECを検討されている方は、ぜひ今回の記事を参考に自社の製品の安全性をもう一度よく確認されることをおススメします。

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