こんな朝も、どんな朝も、愛すべき朝だ。

ピピピピピッ。ピピピピピッ。

アラームの音が、私の目を覚まそうと鳴り続けている。

自分で設定しておいて、こちらは未だ夢を見ている途中なんだけどな。と迷惑そうに目を開けると、大抵の場合はもうその夢の内容がぼやけていることが何とも寂しい。でも、いい夢だったような気がする。たぶん。

目を覚ましても、また瞼を閉じればすぐにでも夢の世界へ戻ることは容易い。でも、夢の続きは何故だかいつも見られない。というところに、とてつもなく現実味を感じる。

いい加減にしなさいよーと言わんばかりに、スヌーズが鳴っている。はーいはいと投げやりにその音を止めて、やっとの思いで体を起こして、んんーっと上半身を伸ばす。低血圧の私には、この一連の流れが毎朝試練の如く感じられる。

お休みまであと◯日。毎朝カウントしてる。お休みの日はもっとすんなり、アラームなしで起きられるのにな。不思議だ。

カーテンと窓を開けて、昇りかけの朝日を視界に入れる。そして１日のはじまりを感じる。ほんのりグレーがかった水色とオレンジ色のグラデーションに塗られた空がそこにある。

眠くても、眠くても、それでも毎朝、空は綺麗だなと飽きずに思う。

きっと私は、空に飽きないように造られている。雲のデザインが好みだっただけで、今日はいい日になる気がするなーなんて思ったりもする。なんて都合が良くて、単純なんだろう。

寝相の悪さの証拠隠滅をする為にベッドメイキングをして、洗面所に向かう。そろそろ鬱陶しくなってきた前髪を切るかどうか、先週からずっと決められないままだ。こんな風に先延ばしにしていることは、数え切れない。

きっと、今日も同じような１日。私はまた週末を目がけて平日を生きる。こんなのでいいのかな、、なんて、何回思ったか分からない。

仕事が嫌いなわけではない。働くことは好き。目の前の仕事には全力で取り組む。でもやはり、ストレスが付き物だ。少し前までは、ストレスの分量＝自分が頑張っている証だと勘違いしていたけれど。そのストレスに耐えたご褒美が、週末なんだと言い聞かせていた。

でも、２日の週末の為に、５日の平日を生きるの？おかしくない？平日は平日の為に生きなくちゃ。もっと、精一杯。と思っても、結局楽しみなのは週末なのだ。プレッシャーのないあの朝が、恋しくてたまらない。

なんか、なぁ。時々思う。

毎日を、もっと、ちゃんと、一生懸命、生きるんだと思ってた。毎日、キラキラしてるんだと思ってた。

大人になれば、わさび入りのお寿司が食べられるようになると思っていた。

居酒屋に行けば、「とりあえず、生で。」と注文するのが大人だと思っていた。

今の年齢だと、もっと分かりやすく″与える側″になっていると思っていた。

大人になれば、もっと揺るがないものだと思っていた。

毎朝、１日のはじまりに胸を躍らせる大人になりたいと思っていた。

そう、思っていた。けれど、

未だに私は、わさび抜きのお寿司しか食べられない。生ビールはいつまで経っても苦いまま。従って、憧れのそのセリフを口にしたこともない。まだまだ、与えられてばかりだ。ちょっとしたことにゆらゆら揺らいで、夜にぐるぐる考え込んでしまう。それでもちょっとしたことに感動して、救われて、生きている。そして、毎朝眠い。

昨夜考えていたそんなことを思い出しながら、スキンケアと歯磨きを終える。気付くと、１件のメッセージが届いていた。

「今日もお互い、楽しもうね！」

昨夜からのLINEの続きで返ってきた友人からのメッセージだった。私たちは時々、その日１日を楽しもうねと朝にメッセージを送り合う。そんなメッセージを送るのは、自分に言い聞かせる為でもあったりする。

そうだ。私の毎日はあまり変わり映えのしない毎日かもしれない。大きな変化も刺激もない。でもそんな毎日にも、１日を楽しむヒントはたくさん転がっているはず。そんな毎日を、誰かと一緒に楽しむことだって出来るはずだ。

ティファニーで朝食を食べる朝じゃなくていい。公園でクロワッサンを食べる朝じゃなくていい。海辺で朝日を浴びながらお散歩する朝じゃなくていい。

どんな朝だっていい。何だっていい。今日もまた、不安な夜を乗り越えて迎えた朝だ。だから、こんな朝だって、どんな朝だって、愛すべき朝だ。

そんな朝から、始める１日。大丈夫、きっと愛せる。今は信じられなくても。今日も、ちゃんと朝がやって来た。

今日は、職場からの帰り道に新しく出来ていたパン屋さんに寄って帰ろう。そして明日の朝ごはんを買おう。そうすれば、スヌーズ通知になんか頼らなくても、起きられるかもしれない。

ほら、もう明日の朝が楽しみになった。なんて単純なんだろう。

私は友人から受け取ったメッセージに返信する。

「うん、楽しもうね。いってらっしゃい＾＾」

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今の私から、２年前の私の朝へ送るつもりで書きました。あなたにも、届くといいな。

＊公園でクロワッサンを食べる朝はこちらです。