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夏におすすめ!「妖怪がサッカーしたら、どうなる!?」保育士さんのひらめきから生まれたサッカー×妖怪絵本

今年もついに、暑い夏がやってきましたね!! 

夏といえば、おばけ、妖怪、怪談……などを連想する方も多いのでは? そんなこの季節にぴったりの絵本がこの度発売となりました。その名も『ようかいサッカー』(ポプラ社)です。

「妖怪!? 怖い話はちょっと……」と思われた方、どうぞご安心を。この絵本に登場する妖怪たち、怖くないどころか、とっても可愛くてチャーミングなんです。特に、主人公・ひとつめこぞうの活躍からは目が離せない!

「初めてサッカーに出会う妖怪たち」をテーマに、誰もが熱くなれる楽しい物語を生み出してくださったのは、聞かせ屋。けいたろうさんひろかわさえこさん。今回はおふたりに、絵本『ようかいサッカー』誕生までの道のりについてオンラインインタビューを行いました!
(聞き手:ポプラ社編集部 小堺・長谷川)

文・聞かせ屋。けいたろう(写真:右)
読み聞かせ屋、絵本作家。夜の路上で大人に絵本を読み始めて以来、親子読み聞かせ、絵本講座、保育者研修会で全国を駆け巡る。絵本の文章や翻訳も手がける。絵本に『どうぶつしんちょうそくてい』『たっちだいすき』(共にアリス館)、翻訳作品に『きょうりゅうかくれんぼ』(KADOKAWA)など。保育士。二児の父。
 
絵・ひろかわさえこ(写真:左)
絵本作家。ユーモアあふれるあたたかい作風で絵本、紙芝居、童話の挿絵と幅広く活躍している。作品に、「ちいさなやさいえほん」シリーズ、『ぞろりぞろりとやさいがね』(共に偕成社)、「ぷくちゃんえほん」シリーズ(アリス館)、『せかいでいちばんおおきなネコ』(作・風木一人/絵本塾出版)など。日本児童出版美術家連盟会員。


はじまりは公園でのサッカー

――ついに『ようかいサッカー』が完成しましたね! まずは、このお話が生まれたきっかけについて、教えてください。

聞かせ屋。けいたろう(以下、聞かせ屋):僕は保育士もしているのですが、きっかけはその勤務中でした。公園で年長さんとサッカーをしていて、左側をちょっと見たら、すべり台があって。そこに登った子どもたちを見て、「ろくろ首だったら、あの高さからヘディングするんだろうな」と思ったのがアイディアのはじまりです。

保育士として子どもたちと触れ合う中で、お話を思い付いたそう。

聞かせ屋:ろくろ首を思い浮かべたら、「ここの公園で夜、妖怪たちが集まってサッカーしてるかもしれないな」っていう発想に至ったわけです。ヘディングした先にばけねこがいて、人間に変化してシュートしたらおもしろいな……とか(笑)。そんな風に考えついたのが、このお話ですね。

『ようかいサッカー』あらすじ
夕方、人間たちのサッカーをこっそりと見ていたひとつめこぞう。「ぼくも やってみたいなぁ」夜な夜な、仲間の妖怪たちに声をかけ、いよいよみんな大集合。ぱーぷー! 豆腐小僧の笛で、ゲームがはじまります。カッパに化け猫、雪女、いったんもめんにろくろ首……でるぞ、でるぞ! 妖怪たちのびっくりプレー! どうなる? ようかいサッカー!?

――読み聞かせ屋として日々ご活躍される中、保育士のお仕事もされているんですよね。

聞かせ屋:そうなんです。週に1、2回勤務していて、その保育園では毎日のように公園に遊びに行くんですよ。

お話を思いついたのは勤務中だったので、忘れないようにするのが大変でした(笑)。そのときはバーッとメモだけ取って、後日自宅で「よし、今なら書ける!」と、思いついたことを書いていきました。すると、色々な妖怪たちが、どんどん動き出したんです。

当時の原稿には、旧タイトル「おばけサッカー」の文字が。
「2020年9月、保育中に思いつく」とメモが残っています。

絵は絶対に、ひろかわさんがいい!

――そして絵描きさんは、「何年待っても、絶対ひろかわさんにお願いしたい!」と、強くご指名いただきました。

聞かせ屋:当初はタイトルが「おばけサッカー」だったんですが、おばけとは言えども、怖いお話にはしたくなかったんです。そんなとき、ひろかわさんの『おばけおばけの かぞえうた』(アリス館)『おばけのゆきがっせん』(おおたか蓮/脚本 童心社)に登場するおばけたちを見たら、ちょっと怖さもありつつ、かわいくて、親しみやすくて。「友達になれそう!」って思いました。

あと、『ぞろりぞろりとやさいがね』(偕成社)は夜が舞台のお話なんですが、暗すぎず明るすぎず、すごく素敵に夜を描かれる絵描きさんだと感じました。この2点を踏まえると、もう、ひろかわさんしかいないな、と。ひろかわさんが描くおばけたちにサッカーしてほしいと思いましたね。

『ようかいサッカー』も夜を舞台にした作品。
コバルトブルーの背景が美しく描かれています。

――ひろかわさんは「妖怪」×「サッカー」という本作品の依頼を受けて、いかがでしたか?

ひろかわさえこ(以下、ひろかわ):最初お話をいただいたのが、個展の会場だったので、慌ただしくて考える時間もなく(笑)。サッカーを観るのはすごく好きですし、妖怪だったらちゃんとしたプレーをするわけでもなかろう……と、割と軽い気持ちで受けてしまいました。

ただ、サッカーを「観る」と「描く」は大違いだと、後ですごく思い知りましたね。

――妖怪たちのサッカーとは言えども、絵についてはこちらから何度も何度もリクエストをしてしまいました。

ひろかわ「いや~、細かい!」って、正直思いました(笑)。ちょっとついていけないかもしれない……と。

聞かせ屋:僕たち、超細かかったですよね(笑)。でも、めちゃくちゃついてきてくださったじゃないですか!

楽しさだけじゃない、物語をめざして

――ひろかわさんを交えて打ち合わせする中で、絵本のストーリーにも変化が現れましたよね。

聞かせ屋:今思えば、最初は「ただただサッカーの試合をする妖怪たちを見て楽しむ」っていう絵本でした。試合には実況もついてましたし、お祭りみたいでしたね。

そんな中、原稿を読んだひろかわさんが「もっと物語がほしい」とおっしゃったのが印象的で。物語がないというご指摘は、自分の中でものすごく響いて、「ああ、確かに」と。

ひろかわ
:絵本って、ただわーっと「面白い」「楽しい」で終わるのも、それはそれでありだと思うんだけれども、やっぱりどこかに一本筋が通っていると、お話がピシッと締まるように思うんです。

絵描きの立場からご提案するのはどうかと迷いましたが、けいたろうさんとは長いお付き合いなので、「一生懸命考えてくれるはず」という信頼がありました。

――そして、ただ楽しいだけのお話ではなく、物語性も追求していったと。

聞かせ屋:「物語がある」って、子どもたちが絵本の中の誰かに共感できること、登場人物を通じて絵本を味わえることなんだと思いました。

そこで、主人公のひとつめこぞうが一人で登場するシーンを冒頭に加えました。ボールとの出会い、サッカーとの出会い、そして練習を経て仲間を集めて、サッカーの試合をする。そこまで描くことで、やっと物語になったと感じました。

はじめてサッカーボールを蹴るひとつめこぞう。
友達の妖怪に声をかけて、サッカーに誘います。

ひろかわ:子どもが読んだときに、という視点は大切ですよね。自分自身を重ねられる登場人物がいると、全然深さが変わってくる。ぱっと読み飛ばして終わる絵本じゃなくなるんですよね。

聞かせ屋:今では絵本を読んだ方から、「ひとつめこぞうの成長物語みたいに感じた」という感想もいただきました。ひろかわさんにご意見もらえて、本当によかった!

「水木の壁」を超えろ! 絵の苦労話

――こうしてお話が固まってきたところで、いよいよ絵の制作がはじまりました。特に苦労されたのは、どんなところでしたか?

妖怪の仲間たちが登場するシーンは、しかけページが大きく開きます。

ひろかわ:これは一人で何時間も話せそうですね(笑)。画面の中のコートの割合、ゴールの大きさなど、まず「サッカー」を描くことが難しかったです。

あと、私は以前から妖怪が好きなんですが、いざ描こうとすると一つの壁があることに気づいたんです。ご存じだと思いますが……大作家の水木しげるさん。

――まさしく、「水木の壁」でしたね。

ひろかわ:水木さんが考えたディテールの妖怪が広く浸透しているので、それより更に古い絵草子(えぞうし)も参考にしました。たとえば、からかさおばけ。人間の足で描かれることが多いですが、古い文献では鳥の足で描かれていたんですよ。こういった資料を参考にして、壁を超えていきました。

足にご注目!

ひろかわ:あと大変だったのは、がいこつ。少し省略はしてますが、骨と骨の繋がり方がとか、横からはどう見えるんだろうとか、科学図鑑を見ながら一生懸命調べて描きました。のっぺらぼうとかは、簡単なんですけどね(笑)。

――大変なご苦労をおかけしてしまいました。赤チームと青チームを対立させる構図も、素晴らしかったです。

両チーム全員集合シーンは圧巻の景色。

聞かせ屋:ひろかわさんが妖怪たちに赤と青の天冠(てんかん)をつけてくださって、敵と味方がすごくわかりやすくなりました。それぞれのチームが攻めている方向も明確になり、絵にすごく助けられたなと思ってます。

ひろかわ:妖怪が怖くならないよう、ある意味気持ち悪くならないように、キャラクターとしての描き方も気を付けています。ボールを扱うのが普通の人たちではないので……最初に思ったより、たくさん苦労させていただきましたね。

躍動感たっぷりに、妖怪たちが駆け出します。

聞かせ屋:ボールを蹴っている時の角度がなんだとか、足のその位置がなんだとか、僕や編集者さんからたくさん注文したじゃないですか。あれ……どうだったんですか?

ひろかわ:あれはね……呪ってました(笑)。何とかそう見えるように、描くしかないんだけれども。

聞かせ屋:あはは(笑)。僕自身サッカー経験者として、色々と意見してしまいました。ただ、サッカーのリアルさと、絵の構図を尊重する部分と、その最終的なバランスはひろかわさんにお任せしたいと思ってました。

――最後までこだわりぬいた結果、妖怪たちのプレーを見事に描いていただきました!

絵の最終調整をするひろかわさん。

ひろかわ:登場人物がすごく多いんで、描きながら混乱したりもしました。ちょうちんおばけの穴の位置だったり、かっぱのきゅうりを描き忘れてしまったり。

聞かせ屋:それくらい盛りだくさんっていうことですよね! サッカーの試合のスピード感、妖怪にドキッと脅かされるシーンもあって、どんどんお話が流れていく。この本を読むとあっという間なんですよね。

現場でくり返し読んで、気づいたリズム

――最後の最後の段階まで文章の修正も行いました。実際に保育園で読んだときの経験が生かされているんですよね。

聞かせ屋:がいこつにボールが当たるシーンがあるんですが、その音一つとっても、「こつーん」じゃなくて「こっつーん」の方が読み上げやすいと思って。保育園の先生に意見を聞いたりもして、色々と最終調整していきました。

――その場面はいつも笑いが起きるそうですね! 更に、絵本は帯のコメントで魅力をアピールすることも多いですが、今回は表紙の良さを最大限に生かそうと、帯はつけない選択をしました。

帯の代わりに、書店店頭でご使用いただけるPOPシートを作成!

ひろかわ:帯を意識して表紙を描く時もあるんですが、今回の場合は「表紙で決まり!」というイメージがありました。これだけ登場人物がいたら、出さない手はないよな、と。

聞かせ屋:サッカーボールがあって、魅力的な妖怪たちがいて、もうこれを見れば全部伝わるなと思って。この完成された表紙を、邪魔したくないって思いました。

――本当に、一目見るだけでお話の面白さが伝わる表紙画だと思います。ほかに見どころや、注目してもらいたい部分はありますか?

聞かせ屋:本のどこかで妖怪全員の名前を紹介したいと思っていたとき、「カードにするのはどうか」とご提案いただいて。サッカー日本代表でもスタメン発表が一番楽しみだったので、ポジションを考えるのも本当に面白かったです。

見返しでは、妖怪全員をサッカーカード風にご紹介!

ひろかわ:私のお気に入りはけうけげんです!(笑)

聞かせ屋:ひろかわさんに「描きたい妖怪ありますか?」と聞いた時に、追加でご提案くださったキャラクターですよね!

ひそかな人気キャラクター。

ひろかわ:「これ、なんだろう?」っていう登場人物がいるのは良いですよね。興味を持つ入口になったりするし。

きゅうびのきつねも、最初は体が真っ白だったんですが、絵草子を参考にして尾や顔に赤の模様を加えて、随分と華やかになりました。

頼れるゴールキーパー、かっこいい!

――どのキャラクターも本当に魅力的です。妖怪たちを通して、サッカーの楽しさの原点にも立ち返ることができますよね。

聞かせ屋:サッカー好きにも、絵本好きにも、妖怪好きにも読んでもらいたい。サッカー絵本ってあまり多くないですし、サッカーが好きなお子さんの「超お気に入りの一冊」になってほしいです。あと、サッカー経験者の親御さんにも喜んでもらえると思います!

ひろかわ:本当にそうですね。わたしも、同じ気持ちです!

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いかかがしたか? note読者の皆様も、妖怪たちが一体どんな試合をしたのか、そろそろ気になってきたのではないでしょうか⚽

この夏はみんなで『ようかいサッカー』を読んで、熱く盛り上がってくださいね!



★【8/20開催決定】ひろかわさえこさん&聞かせ屋。けいたろうさんのトークイベント開催! 『ようかいサッカー』誕生秘話をもっと聞きたい方は、ぜひご参加ください♪

★ご紹介した絵本はこちら