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チェコの暮らしを描いたこの本が、子どもたちが自分の居場所を見つけるきっかけになれば嬉しいーー『カティとつくりかけの家』福井さとこさんインタビュー

10月に発売になった創作童話、『カティとつくりかけの家』(GO!GO!ブックス 4)。

この作品は、都会になじめなかった女の子カティが、父親が大麦畑の中に建てた手づくりの家に引っ越し、美しい自然や個性的な友だちと出会っていくなかで、本来の想像力豊かな自分を取り戻していくお話です。

文章と絵の両方を手掛けた作者、福井さとこさんは、自身のスロバキア留学の経験から、ルームメイトだったチェコ人のカトカという親友をモデルに、この作品を書きました。

今日は、新刊の発売を記念して、作品が生まれる背景や、シルクスクリーンという技法をつかった絵の魅力をたっぷりお伺いします!!

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福井さとこ(作・絵)
絵本作家・版画家。京都嵯峨芸術大学・デザイン科卒業。2014年からスロヴァキアのブラチスラヴァ芸術大学に留学し、版画家ドゥシャン・カーライ氏のもと、版画と絵本の挿絵を学ぶ。2016年に自作絵本『Little fat squirrel(ふとっちょリス)』でスロヴァキアの最も美しい本賞・学生賞を受賞。2017年6月ブラチスラヴァ芸術大学 版学科 大学院を卒業。卒業制作の絵本である『Domáce dobrodružstvo(スロヴァキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん)』で2度目となるスロヴァキアの最も美しい本賞・学生賞、国立図書館賞を受賞。絵本作品に『おるすばんのぼうけん』(JULA出版局)、挿絵を手がけた作品に『マギオ・ムジーク』(仁木英之 作/JULA出版局)がある。

●怒涛の製作を終えて、いよいよ発売

ー福井さん、発売おめでとうございます! 最後は、怒涛の製作(シルクスクリーン版画)でしたね。

ありがとうございます。最後はかなり楽しくなって、絵も好きなものだらけで、もう「寝たくない!」という状況でした。気持ちが乗ってくると、ずっと朝から夜までのめりこんで、寝ているときも夢にまで出てきちゃうんです。それで思いついちゃうと、3時くらいに起きて、またガリガリガリガリ絵を描き始める。はどめがきかなくなるというか。湧き出てくるときは、湧き出るままにやったほうがいいので。逆に、なんもやりたくない日はなんもやらない。(笑)

福井さんカット

絵の製作といっても、下絵は家でできますが、版画なので、刷るときは工房での製作ですよね。

そうなんです。専用の機械を使うので設備のある工房をかりていました。大変だったのは、刷り師の先生だと思います。私は刷りも自分で刷るのですが、朝から夜遅くまで刷り続けるので、毎回、長時間貸し切りにしてくれていました。時にはアイスやコーヒーの差し入れをしてくれたり、支えて頂き、おかげさまで仕上げる事ができました。

シルク刷り台

●主人公カティのモデル

ーもともとこの本は、毎日新聞(関西版)での連載がはじまりでした。そもそもチェコという国の女の子を題材にしようと思われたきっかけは何だったのでしょう。

わたしがスロバキアに留学していた時、学校の作業室で、白衣を着て黙々と版画を刷っている背の高い女の子がいたんです。灰色がかった金色の髪の毛をしたきれいな人で。「なに刷ってんの?」と聞いたら、「家の近くの風景を刷ってる」と。その瞬間に、この子と気が合うなと思いました。その子が、この本の主人公カティのモデル、カトカです。

カトカと出会った場所▲ディエルニャとよばれる作業室。カトカに出会った場所。

わたしが住んでいたところは、絵本作家の降矢ななさんが大家さんをしているアパートで、最初スロバキア人のミルカという友達とルームメイトだったんですけれど、彼女が日本にアートインレジデンスで行くことになったので、カトカに「ルームメイトにならない?」って声をかけて。ちょうどカトカも部屋をかえるタイミングで。

そのころはまだ、チェコ語とスロバキア語の区別もついていなかったので、「この子、方言つよいのかな」くらいにしか思っていなかったんですけど、チェコ人でした。(笑)

ーカトカも、わざわざスロバキアに来て版画を勉強していたんですか?

はい、スロバキアに版画を勉強しに来る人は結構いるんです。例えば、チェコでリトグラフ(石版画)をやる場合、本人は描画だけして、あとは刷り師が刷ってくれるんですが、スロバキアでは全部自分でやるんです。女の子が大きな石版を持ち上げるのはきついけれど、それ目当てで他のヨーロッパから、伝統の版画を学びにやってくるんです。フィンランドやイタリア、セルビアなどからも。

このお話は、福井さんが出会ったカトカをモデルにしていますが、
なぜその友達を書こうと思われたのでしょう。

カトカと出会って一緒に暮らすようになると、週末のたびに彼女はバスで2時間かけてチェコのブルノにある自分の家に帰るんです。お母さんのおいしいごはんを食べに帰り、戻ってくると私にもおすそわけをくれて

ママの手作りクッキー

▲▼カトカのお母さんの手作りクッキーと、風邪によく効くスープ

風に聞くスープ

たまに私もおうちに遊びにいったりして、めちゃくちゃおもしろい子やな、と思って。家族もおもしろいし、チェコのいろんなことを教えてくれて。「カトカ、いつか本にするわ!」と言って、カトカの一部始終をノートに書き留めていました。

カトカとスープ

▲主人公カティのモデルになったカトカ。

日本人目線で見て面白いと思ったことを「どうしてこういうことするの?」とききながら逐一書いていたら、帰国後にちょうど毎日新聞(関西版)の子どもが読むコーナーで連載してみない? というお話をいただいて、そこに載せよう! と。私はスロバキアのブラチスラヴァに住んでいたけれど、カトカが主人公なので、チェコを舞台にした創作物語になりました。

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毎日新聞での反応は?

いろんなところで、いろんな人が見てくれたみたいで、「毎日楽しみにしている」とか、「本で読みたい」などという声もいただきました。
2020年1月に30話の連載をし、3月に東京の本屋さんの「貝の小鳥」さんで版画展をやったところ、「本を買いたい」という方もいらして。でも「本はないし、新聞だけなので白黒でしか絵が見れないのがもったいない」と話していたところ、ポプラ社さんで書籍化が決まって!

ーー新聞連載していたことは、カトカも知っていますか?

カトカは大喜びでした。日本の新聞が面白いようで、縦書きでちょこちょこ字が書いてあるのを見て「なにこれ!」とすっごいうけていました。(笑)

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ーー福井さんのご家族はの反応は。

もちろん大喜びですよ。いつも連載紙は新聞社の方が送ってくださるんですけど、両親は別で契約して買っていました。

●シルクスクリーンという技法

ーー新聞連載では、1つのお話に絵も1つでしたが、書籍化にあたり全ページフルカラーの絵が入っているのがこの本の魅力です。127ページもあるのに、絵と字が半分半分で、「絵童話」のような読みやすい構成です。福井さんには、ものすごい量の版画を仕上げていただきましたが、シルクスクリーンという版画はどういった技法の絵なのでしょうか。

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まず厚いトレーシングペーパーのような透明シートに、筆などで黒一色の絵をかきます。専用のインクもあるけれど、私は書道用の墨や、ガラスに描ける特殊な黒鉛筆を使っています。

黄土色版

その絵は、色ごとの版で描きわけるんです。ライトテーブルを使って重なり具合を見ながら。配色も、当然重ねる色によって仕上がりもかわってくるので……どの色とどの色を重ねたらどうなるか、刷る前からもう頭に入っているんです。

黄土色版 全体


透明シートに絵が描きおわったら、製版作業にうつります。シルクスクリーンの網に乳剤をつけて乾かし、透明シートをはりつけたら、そこに光を当てます。絵のある黒いところは光を通さないので、乳剤が固まらない。光を通したところは乳剤が固まる。そして、網を水で洗い流すと、黒かった部分の乳剤が流れ落ちて、絵の形になるんです。

できあがった版を、バキューム式の台に取り付け、紙をおきます。台の穴から掃除機で吸い込むことで、紙を固定し、版にインクをのせて、スキージー(大きなヘラみたいなもの)で上から押し付けると、1色ずつ絵が刷りとれる、という工程です。

天日干し


ーーへえ! 複雑だけれどおもしろい工程ですね。色の濃淡は、版画で再現できるのでしょうか?

そこは版画家の腕の見せ所で、シルクスクリーンは濃淡がつけられないけれど、透明シートへの描画のタッチと、製版時の絶妙な光の当て時間、色の重ね具合で、濃淡があるように見せられるんです。

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だいたい1枚の絵を20枚以上刷ります。

インクはたくさん作っていて、黄色だけでも20種類くらいあります。作った色には全部名前をつけるんですよ。この本のハーブの絵で使った緑は「夢見る緑」という名前。他にも「星の光ブルー」とか。

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インク


私はシルクの網を7つ持っているので、いろんな色の版づくりを同時に進めていきます。インクは水性と油性があるけれど、油性はくさいのと体に悪いので、私は水性を使っています。いつか私も自分の工房がほしいですね。

3色刷り終わったところ

●ドゥシャン・カーライさんとの出会い

ーーそもそも、どうして版画をやろうと?

もともと絵本や絵が好きで高校の時は油絵をやったり、「すごい製本ができる」と知り嵯峨芸術大学に入りました。
大学の図書室でドゥシャン・カーライ先生の『不思議の国のアリス』に出会って、「これはすごい!」と思って。あまりのクオリティの高さに「よもやこの世の人じゃないだろう」と。

でも、途中からアニメーションの世界にはまり、方向転換したんです。のちに気づいたのですが、版画とアニメーションはどこか似てるんです。アニメーションは何千枚と描くのですが、その完成形は長い間、自分の頭の中にのみあり、動画編集しモニタに映し出したときにはじめて、目の前に現れるのです。版画もまた、版をつくるまでの長い間、頭の中にのみ完成形があり、紙に刷ってはじめて目に見えるんです。それまでの地道な作業をくぐりぬけ、実際目の前に出てきたときの「おーっ!」という大きな感動が似ているなと思うのです。

大学を卒業して、カーライ先生の作品が、滋賀県立近代美術館の「ドゥシャン・カーライの超絶絵本とブラチスラヴァの作家たち展」に飾られているのを見て、「あ、これめっちゃ好きな人や!」と思い出した。そして、まだブラチスラヴァ芸大で教鞭をとっていると知って、「この世の方だったんだ」と思ったんです。でもその時はそのままで当時やっていたアニメーションやウェブデザインの仕事を続けていました。でも、仕事をしながら自分の製作も続けていたので、だんだんと「自分の体がいくつも欲しい」と思うようになって、思い切って仕事のほうを辞めようと考えるようになりました。

その時、東北大震災が起きて、私はWEBの画面で仙台空港が水没するのをリアルタイムで見ていて、たまたまカーライ先生も同じものを見ていて、とても心を痛められていたそうです。のちに絵本作家の降矢ななさんが声をあげたチャリティ展示「手から手へ展」が世界中をまわり、近所の京都漫画ミュージアムで開かれた時、カーライ先生の名前に再び出会い、そこで「わたし、ここに行きたかったのに、何年もなにしてるんだろ」と思って。

それから、降矢ななさんのSNSに「わたくし、こうこう、こういうもので」と思い切って連絡を取ってみたんです。「カーライさんの作品が大好きなんですが、どうやったらブラチスラヴァ芸大を受験できるのでしょうか」と。

そのころは、仕事でやったアニメーションもNHKで放送されていたりと、「へんな子じゃない」とはわかってもらえる程度にはなっていたかなと。(笑)

降矢ななさんから「がんばって受けてみる?」と言ってもらえて、受けることになったんですけれど、アニメといえばチェコで、私はカーライ先生がいるブラチスラヴァという街もチェコにあると思いこんでいて。そうしたら、あんまり聞いたことのない方の国(スロバキア)だったと分かって。でも、カーライ先生はそこにしかいないんだから、いこう!と思って。(笑)

受験に持っていったのは、アニメーションの作品ばかり。先生からは「ここ、なんのクラスか知ってる? 版画だよ」と言われました。(笑)ただ、作品をみて「向いていると思うからやってみる?」と言われて、聴講生として外国人の枠で入れてもらいました。

ブラチスラバ芸大

▲福井さんが通ったブラチスラヴァ芸術大学

●仕事をやめて、いざスロバキアへ!

ーー留学には、ご両親も賛成でしたか?

会社で7年間くらい正社員で働いていたので、親も驚いていましたが、賛成して送り出してくれましたね。母も絵を描き、テキスタイルをやっていたので、色遊びや色彩感覚は母親譲りです。自分は家族のために生きて夢に突き進めなかったのもあり、私が自分のやりたいところに飛び込んでいくなら「いきー!」と
父には発言権がなかったかも。(笑)

ーーお仕事を辞められて、思い切って外国の、そして版画の世界に飛びこんだんですね。

はい、本当に出国の前日まで働いていたので、日本を立った後は「福井が消えた」となっていたと思います。(笑)

学校では、メインのアトリエがあり、その他版画技法(ディエルニャ)、デッサン室(クレズバ)で学びます。私はカーライアトリエ。週に2回カーライ先生直々に学べるのですが、版画の技法の授業に行ってみると、同じ作業室なのにスロバキア人の正規生と、留学生向けの授業がちがって、正規生には、ベートーベンみたいな先生が生徒たちの真ん中に立って、いろんな版画を教えているんです。「先生、わたしにも教えて」と言ったら、「ダメだよ、ここはスロバキア語で話す正規生のみだよ」と。外国人は英語で説明してくれる先生に教えてもらうだけだったんです。

カーライアトリエ直接指導作業室

▲ドゥシャン・カーライ先生のアトリエ

それまで日本では版画を学んだことがなかったので、ここでしっかりとスロバキアの版画技術を身に着けたいと思い、次の年に大学院を受けようと思いました。大学院に入れば、ベートーベン先生・・・アウグストヴィッチ先生に習えるとわかり。授業も全部スロバキア語なので、それまで使っていた英語を封印し、すべてスロバキア語の生活に変えました。ルームメイトのスロバキア人のミルカに、親鳥のように教えてもらい、大学院に入れましたね。

ーーしかし、すごい行動力でしたね。チェコやスロバキアの暮らしと日本の暮らしには、どんな違いがありましたか。

日本は、人の意見を先に聞く文化だと思うんですけど、あっちでは人の話を聞いた後に「いいよ」とか「はい」とか言っていると、「はいじゃなくて、自分の意見を言って!」と何度も言われました。口論も日常茶飯事だけど、それは喧嘩ではなく意見を交わしているだけなんです。「以心伝心」なんて言葉はなくて、自分の意見を言い主張することではじめて信頼される、という文化だったなと思います。

留学時の福井さとこさん

●自分の国だと思えたこと

ーーそういう文化は、福井さんに合っていましたか?

小さいころからずっと「なんかちゃう」と違和感を抱いていて、なじめなくって、人と群れてなにかをするのが苦手だったし、人と同じことをするのができなかったんです。どうやっても自分は変なことをしてしまう人間だと思っていました。スロバキアに行くと、そういうことは全くなく、全然違う価値観で、全部認められて、受け入れられた。「個性がいい!」と。「ここが私の国だったのか」と思うくらい。「あれも、これも、よかったんだ。ほらみー! そうやんかー!」と。今まで少しずつ自分を覆ってしまい見えなくなっていた自分の核が、ベールがはがれるように出てきて、自分自身が見えてきたんです。森をかけめぐったり、野良はりねずみを探したりしながら。

べさととびー

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すると、不思議なもので、ずっと日本が嫌いで苦手だったのに、スロバキアに行くことで、逆にそういう感情も消えました。

ーーまるでこの本のカティのようですね。

そうですね。日本に帰ってからは、日本がより好きになって。見え方が変わりましたね。今までは、まわりは怖い人ばっかりと思っていたのに。

ーーカティといえば、想像力豊かなくいしんぼうの女の子ですが、本に登場するおやつ「カシャ」について教えてください。

これは普段のおやつなんです。もうみんないっつも食べている。お腹が悪いときにも、栄養があって優しいので。買うものではなく、家でつくるもの。

カシャ

チェコ人の考え方で「家のがいちばん!」というのがあって、例えばお店にいって「これありますか?」ときいても、「ない!」と即答されることが多くて。いつもいやいや働いている印象でしたね。友達に言うと「そりゃあたりまえ、仕事は早くおわらせて、おうちに帰りたいから」と返ってきました。友達が日本に来ると「店員さんが、めちゃやさしい!」とびっくりしていました。

カトカのお父さんも、本の物語と同じで、家を何年もかけて手作りでつくっていて、お母さんは薬を使わずハーブやスープで風邪を治す暮らしで、気づいたらギターを片手にみんなが歌いだす。いつも家の中が音楽であふれていて。芸術や文化が生活のなかに溶け込んでいて、みんな心から家が一番だと思っているんです

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ギター演奏

エルダーフラワーかご

ーー豊かな暮らしですね。チェコでは、小学校の後に芸術学校に通うというのも、この作品ではじめて知りました。

芸術学校は、小学校時代にほとんどの子どもたちが通う場所です。クラスには学年が関係なく、いろんな子がいて。先生がそれぞれの分野の専門家で、プロのアーティストなので、子どものころからおもしろい大人に出会える場なんでしょうね。価値観も人それぞれ。生きていくのにいろんな考えがあっていいんだ、というのを身をもって学べるところです。

裏庭に続くテラス

テラスの絵

ーー本には、日本のカッパのような登場人物も出てきます。

本に出てくる「カッパの話」や、「金色の髪のおひめさま」、「カシャのお鍋の話」などは、カトカが小さいころに見て好きだった伝統的なアニメーションや昔ばなしから来ていて、いろいろノートにメモしていたうちのいくつかです。カトカはいろんな話をしてくれました。チェコの昔ばなしやおいしいものの話、自分たちの暮らし……。

その中でも「カッパはチェコにもいるんだ!」と。いろんなお話を読んでいる中で、チェコのカレル・チャペックさんのカッパの話もあったりして、そういうのが頭に残っていて、本にも入れました。チェコのカッパは人間に交じって暮らしていることもあったりして、みんなが大好きな存在です。

ヤン

ーー特に気に入っているシーンや絵があれば教えてください。

「金色の髪のおひめさま」の最後の絵ですね。

チェコの昔ばなしにある、お姫様が魔女に幽閉されて、王子様に助けてもらうお話が元になっていて、これをこの本の登場人物に絡めてオリジナルの話に変えました。お話の最後で、お母さんが、子どもたちとベッドに入って寝ているシーンが好きです。

チェコは分厚い本を読み聞かせする習慣があって。「きょうはここまで」といって、毎日読み聞かせるので、薄い本だと売れないんだそうです。

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●作品に込めた想い

ーーこの本に込めた想いがあれば、聞かせてください。

私自身、ずっと変だと思い込んでいた自分が、目の色も言葉も全く違う人々に心から受け入れられた事が、違和感が晴れる大きなきっかけになったと思います。

また日本に帰ってから、周りは変わらないはずなのに、断然住みやすくなりました。日本の「察してひける思慮深さ」や、「なにかを追求して完成させる集中力と団結力」、「古い文化と新しいものが交差した文学の幅広さや、エンターテイメント性」、それらがスロバキアから帰ってきてすごく魅力的に思えましたし、大嫌いだった「察する」「合わせる」などもできる日本人は、今はかっこよく見えます。

ただ、自分がそれをできなくても良し、人は得意不得意があり、みんな違う良さがあるので、無理して合わせる必要はなく、自分は自分の良いところや好きな事を見られていれば良いと思うのです。

私が感じていた違和感をもつ子どもたちは多いと思うので、
カティをきっかけに何か気づきがあるといいなと思います。

世界にはいろんな文化や価値観があって、今あなたのいるところがすべてではない、ということを知ってほしいです。面白いこと、いっぱいあるよ! と伝えたいです。

ーー新しいところに自分を置くことで、視点が増え、もともと嫌いだったものまで好きに思える、それは大きな発見ですよね。

日本はいろんなことができるし、自分自身満ち足りていたけれど、飛び出してよかったなと思うんです。自分には心の奥にモヤみたいなものがずっとあって、飛び出していなければ、そのままだったなと。

ーーカティは、2巻目も刊行が決まっています。
はい! 2巻目は、チェコの豊かな文化にまつわるエピソードがいっぱい出てきます。チェコは冬が長いので、クリスマスの3人組のお話や、森のコンサートとか、石に絵を描いて森に置き、同じ感性を持つ誰かに拾ってもらうという素敵な習慣のお話も! ぜひ楽しみに待っていてほしいです。

食器棚の絵

ーー福井さん、まだまだ聞きたいことはたくさんありますが、今日はたくさんのエピソードをありがとうございました!

ありがとうございました!

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福井さんの絵 ママが気に入ってかってくれた

▲主人公のモデルとなったカトカの家に飾られている福井さとこさんの版画

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(文・小堺加奈子)