見出し画像

【今日もオロオロ…心配性な編集者が『ばけねこ』ができるまでを語りたい!】

『ばけねこ』担当編集の松本です。
入社してからずっと子どもの本づくりに携わっています。
翻訳ものから始まって、創作もの、企画もの、キャラクターものと色々編集してきました。
もう10年以上編集をしていますが、心配性なため、いつでも内心オロオロと何かを心配しています。

そんな私が7月発売の『ばけねこ』(杉山亮・作/アン マサコ・絵)について書きます。
(記事を書くように言われて、うじうじ悩んで早2か月…)

画像1

▲ 作者の杉山亮さんです。まだ見本ができていないので、束見本に色校を巻いてます。

杉山亮
1954年、東京生まれ。児童文学作家。ストーリーテラー。著書に「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズ(偕成社)、「青空晴之介」シリーズ(仮説社)、「たからものくらべ」(福音館書店)、「怪盗ショコラ」シリーズ(あかね書房)など多数。ストーリーテラーとして、全国各地で「ものがたりライブ」を開くなど精力的に活動している。


『ばけねこ』は、2010年の『のっぺらぼう』から始まった「おばけ話絵本」シリーズの5巻目です。始まりは、こうでした。

杉山さんとは、最近ネットニュースでも話題になった「おはなしめいろ」の絵本を先輩から引き継いで、やりとりさせていただいていました。

画像2

▲ おはなしめいろシリーズ。校正が大変だったなあ…。
https://news.yahoo.co.jp/articles/58f978c3a78dcdba591af819378363d27f0a42e7 (Yahoo! ニュース・2021/05/15掲載)


そして、12年前のある日、時刻は19時ぐらい。
杉山亮さんから電話がかかってきました。

「ちょっと読んでもらいたい企画があるんですよ。おばけ話なんだけど、最近キャラクター化しちゃってるおばけが多いじゃない? そうじゃなくて、おばけ本来の怖さを伝えたいのよ。でも、怖がらせて終わりじゃなくて、ちゃんと本を閉じれば安心して寝られるやつ」


―――怖がらせて終わりじゃなくて、ちゃんと本を閉じれば安心して寝られるやつ。

このフレーズにビビッときました。

なにせ私、怖いのが好きではないのです。
それで、お原稿を拝読して、感動!

「怖いけど、最後ちゃんと安心できる!
このおばけ話なら私でも大丈夫!」 


何より面白かったのです。
テンポよく、ストーリーテラーの杉山さんならではの軽快な文章で、どんどん読み進めてしまう物語でした。


こうしてスタートしたシリーズ。
「のっぺらぼう」「うみぼうず」「かっぱ」「てんぐ」。
4巻目から5巻目の「ばけねこ」に決まるまで、
実はいくつか「おばけ」候補がいました。
ラストに救いがなかったり、心配性な私が落ち着かなかったりで、
杉山さんには何度も改稿を重ねていただきましたが、
その「おばけたち」は封印されました。
いつかこの封印が解かれるかもしれませんが、
とにもかくにも、次は「ばけねこ」でいきましょう! となったのでした。


さあ、画家さんをどうしましょう?

書店さんや図書館、ネットなど…「ばけねこ」を素敵に描いてくださる画家さんを探しますが、なかなか決めきれません。
そんなある日、編集部が湧き立ちました。
当時、制作中だった世界名作童話『ガリバーの大ぼうけん』の担当編集が、いただいてきた原画を見せてくれたのです。

なんだ、なんだ? と覗いた瞬間…ビビッ!

めちゃくちゃうまい!

文字通り息をのむ迫力の絵がありました。
アン マサコさんの絵でした。

アンマサコ
岐阜県岐阜市生まれ。美術作家、絵本作家。多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業後、映像制作会社「白組」に所属し、絵本をもとにした短編映画や立体物を制作(2020年退社)。著書に『そらとぶでんしゃ』「どすこい すしずもう」シリーズ(講談社)、『おたんじょうびケーキ』(ブロンズ新社)など多数。「どすこい すしずもう」はアニメ化もされ、ますます人気となっている。


ビビッときました。

アンさんのお名前も、絵も脳裏に刻まれました。
でも、即決はできませんでした。
だってだって、とってもヨーロピアンな雰囲気だったのです。
他の作品も和というより、洋の佇まい。
「どうだろう…どうだろう…どうしよう…どうしよう…」と何か月も迷っていました。
迷いの多い人生です。

でも、「アンさんに描いてもらえたら…」の想いが募って積もって、ある日、溢れました。
杉山さんにアンさんに依頼してみたいと相談し、上司に相談し、「ガリバー」担当編集にお願いして間をとりもってもらい、ついに思いを伝えたのです。

結果はご覧の通り。
アンさんの方でも昔話を描いてみたいと思っていた…と仰っていただき、ご多忙のなかお引き受けいただけました。

ラフも、ものすごい完成度と迫力の描写なのですが、
それを圧倒的に越える本画がお目見えするのです。
何がすごいって、いろいろすごいのですが、
登場人物の瞳が生きているみたいにキラッと光って見えるんです。

画像4

▲ 潤みというか、光というか、とにかく生を宿した瞳です。

恐ろしいなかにも、ユーモアがあって可笑しいんです。
怖いはずなのに、くすっと笑っちゃうんです。

画像4

▲ 追われる女の子はかわいそうなんだけど、化け猫たちがコミカルでつい楽しくなってしまう。

この凄みをCMYKの4色でどこまで再現できるのか、新たな心配が生まれます。
初校の色味はちょっと浅かったけど、
光陽メディアさんのご尽力でかなり原画に近づいた再校を広げていると、
通りかかる人がみんな足をとめて「すごいね」と見入りました。
「でしょ、でしょ、すごいんですよ」
心配がふきとび、大いに自慢します。

「ばけねこ」の絵本作りには、もうひとつ大事なご縁がありまして、
装丁をJUN KIDOKORO DESIGNさんにお願いできたことです!
憧れのデザイナーさんの一人です。
アンさんから、「これまで城所さんにお願いすることが多かった」とお聞きして、ドキドキしながらご依頼。
私の緊張した硬い依頼メールに対して、なんて気さくなお引き受けのメール!
サンフランシスコの日差しを感じました。(行ったことないですが)

もともと静謐な表紙画でしたが、
デザインによって3度ぐらい温度が下がってヒヤリというか、ゾゾッとしました。
デザインって、すごい! と改めて感じた瞬間でした。

画像5

▲ 表紙原画と完成した本

で、長くなりましたが、どう終わればいいのかしら?

10年以上編集者を続けていますが、ありがたいご縁と、うじうじ思い悩む時間と、告白の勇気と、お引き受けいただけた喜びと、そこから始まる緊張と不安が、いつもあります。
いつもオロオロしていて、心臓に悪いけど、本ができると嬉しくってしょうがない。

『ばけねこ』。
いや~、今回は我ながら、心配しまくりました。
余計なことまで心配しつくしたけれど、
声を大きくしておすすめしたい絵本です。

7月9日発売です。
どうぞよろしくお願いいたします。

(書き手:編集 松本麻依子)

この記事が参加している募集