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短歌五十音

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「短歌五十音」は、中森温泉、初夏みどり、桜庭紀子、ぽっぷこーんじぇるが五十音順に歌人を紹介する記事です。毎月第一〜第四土曜日に更新予定。 画像は桜庭さんよりいただきました。
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2024年2月の記事一覧

短歌五十音(く)葛原妙子『葛原妙子歌集』

短歌五十音(く)葛原妙子『葛原妙子歌集』


底本:葛原妙子『葛原妙子歌集』(川野里子編、書肆侃侃房、二〇二一)

1.外部

戦後、葛原妙子(1907-1985)は外部にいた。まずは時代の問題として、葛原は敗戦という外部、短歌という外部、女性という外部に置かれていた。

日本の敗戦はこれまでの〝日本的なもの〟からの決別を作家に強い、彼らはまったくの〝荒地〟から言葉を紡ごうとした。彼らは〝日本的なもの〟である俳句と短歌に矢を放った(第二芸術

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短歌五十音(き)木下龍也『オールアラウンドユー』

短歌五十音(き)木下龍也『オールアラウンドユー』

いきなり表題歌を引く。
主体が詩の神に「あなたはどこにいるのか」と尋ねると、神は「君の周り全てに」と気だるく答えた。
筆者は特定の宗教を信じてはいないが、この歌集を読んでいる時間は、神様がソファに寝そべりながら部屋の中にいてくれたような気がした。
この歌集はそんな歌集である。

木下龍也は、1988年山口県生まれ。
2013年に第一歌集『つむじ風、ここにあります』(書肆侃侃房)を刊行、それからの活

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短歌五十音(か)河野裕子『河野裕子歌集』

短歌五十音(か)河野裕子『河野裕子歌集』


河野裕子と歌集について

河野裕子さんは短歌結社「塔」の選者をされていました。
今回紹介する歌集は砂子屋書房さんの現代短歌文庫10『河野裕子歌集』です。
河野さんの歌集の『森のやうに獣のやうに』全編、『ひるがほ』全編、『桜森』一部、『はやりを』一部で構成されており、若い頃の河野さんの歌を楽しむことができる一冊でした。

壮大で幻想的な歌

印象に残る歌がたくさんあったのですが、その中でも特に惹か

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短歌五十音(お)岡野大嗣『音楽』

短歌五十音(お)岡野大嗣『音楽』

犬好きに捧げる短歌!『音楽』は、2021年にナナロク社から出版された岡野大嗣の第3歌集。
岡野は、1980年、大阪府生まれ。2014年、短歌研究新人賞次席。2023年度、NHK短歌選者。
本書には、300首を超える短歌が収録されている。

皆さん、『音楽』は、犬をテーマにした歌集です。
タイトルに騙されてはいけません。
確かに音楽をモチーフにした短歌はたくさんあります。
しかし、犬の短歌がよすぎる

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