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星めぐる旅 #4 海に続く穴

前回のお話

 2023年夏。筆者(伊地知奈々子)は山陰の愉快な仲間たちと連れ立ち、隠岐をめぐる旅へと出かけた。隠岐・島後の総社、玉若酢命神社を後にした一行は、隠岐の原始信仰を感じる、海にほど近い祠へと向かった。


隠岐と美保神社

 都万・屋名の松原にほど近い祠、原始信仰を感じる場所を後にして、われわれは次なる祠へと向かう。海岸線沿いに、さらに西に進んだ美保神社。その祠の傍に、海へとつながる穴があると言うのだ。

 実は隠岐には6ヶ所の美保神社がある。今回訪れている島後には、この祠をふくめて5ヶ所。島前・中ノ島にも1ヶ所存在する。美保神社といえば、最も有名なのは本土側の対岸、今回の旅の出発地点だった七類港のある美保関町のものだ。

 美保神社の御祭神は三穂津姫命(ミホツヒメノミコト)と事代主神(コトシロヌシノカミ)=いわゆる「えびすさん」。歌舞音曲と海上安全、商売繁昌(大漁)などを願う人々から信仰を受けている。

 賑やかなイメージの御祭神とは裏腹に、訪れた祠は静寂に満ちていた。

 まず目を引くのは、雄大な巨石風景。こちらは祠の正面にある。岩を眺めていると人面のように見えてくる瞬間があり、アメリカのグランドキャニオンを超越した、パンゲア大陸のメッセージが聞こえてくる気がする。

海に続く穴

くだんの穴は、縦横1mずつぐらいだろうか。かなり低い体制でないと進めない。屈んでよくよく見ると、向こう側に抜ける穴が見える。けっこう、長そうだ。

 この穴は自然洞窟ではなく、手彫りのものと見受けられる。一体、いつ、誰が、何のために?

しばらく穴を覗き込んでいたら、大下さんとヤブちゃんが躊躇なく入り込んで行った。大下さんは、山陰の白兎(はくと。いわゆる因幡、あるいは伯耆の白ウサギ)伝説を追っていることもあり、こういったウサギ穴的空間には目がないのだ。そして、ヤブちゃんは冒険心に満ち溢れている!どんどん、どんどん、進んでいく。

 向こう側に見える光に、吸い込まれるように進む二人。
 白昼でありながら、異界に向かう人を目撃する気分だ。

どんどん進んでいくヤブちゃん

ややあって、ヤブちゃんが先に戻ってきた。
 遠くから声が反響し、異界からこの世界に帰還する、不思議な効果音となる。

 ヤブちゃんによれば、抜けた先は完全に海。穴の中は地面が柔らかく、砂のような感触で、明らかに人工的な穴だという。

異界から帰還したヤブちゃん

続いて、大下さんが帰ってくる。

超いい笑顔。横穴が似合う。

 大下さんは、穴の中からその他3人の写真を撮ってくれていた。

それにしても、この海に続く穴は、いったい何だろう。

 冒頭で紹介した雄大な巨石の横は、実はすぐに海なのだ。手前側の海ではなく、あえて横穴を越えて海に行く行為。ただ漫然と海に行くのではなく、「穴を通って海に行く」と言うプロセス自体が、重要視されたのだろう。すなわち、意図の純化

 穴を通って海に行く。
 その人なりの思い、願い、あるいは悩みに焦点を当てるために、この暗い横穴を通っていく。抜けた先の光、自分の希望するものを明らかにするための装置として、この横穴は機能していたのかもしれない。

 あるいは、こう考えることもできる。
 ただ意味なく通るだけの穴。
 自分を取り巻く肩書きや状況からしばし離れ、ただ目の前の光に集中する、意識をどこまでもシンプルにする装置…。

 美保神社の横穴。
 「神社」と言う名前でありながら、そこにあるのはピュアな人の営みの痕跡を感じずにはいられない。

 海に抜ける横穴を通じ、わたしはますます隠岐が持つ純粋なエナジーに惹かれて行った。(つづく)


隠岐編の記事まとめはこちらから

筆者について

伊地知奈々子
a.k.a POP/木田時輪(ペンネーム)

セラピスト。アーティスト。星をめぐる旅をしています。
主宰しております新神戸・サロンCENOTEのページはこちらです。

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