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新品のスカートが履けない

タグがついたままのスカートが、2着ある。

それなのに今日、またスカートを買った。

裾がアシンメトリーになっていて、
生地は薄くてパリッとしてゆらゆらしていて、
ネイビー以上黒未満のロングスカート。

今日着ていた白より真っ白のTシャツに、よく似合った。
たぶんあの人も「かわいいですね」と気に入る。

お腹を凹ましてようやくファスナーが上がるんだけど、このスカートの日はとにかく背筋が伸びそう。


スカートばかり買うのは単にスカートが好きなのと。
歩くとき、後ろからついてくる裾だけでもあの人に触れられるかもしれないから。

あぁ…
チュールのスカートならあの人の脚に触れられるかな?

階段を少し早めに駆け登れば、あの人を触る風に揺れて、あの人の脚にまとわりつけそうだ。

そんなことを考えならデパートで久しぶりに試着をして、ビックリしたんだった。
気づいた。
自分が脱いだ服が、ヨレヨレだった。
安い服の色落ちと縫製の粗さ。
なんとなく身の丈に合ったものを着なきゃいけないと思ってた、自分。


30過ぎの既婚で、パートの事務勤め。
高い洋服着てる方が不自然だと。
安くてお得な服を着こなす立場なの、と。
言い聞かせてた。



買うかも分からない服に脚と腕を通して身体を預けたとき、わけのわからない自信が溢れた。

試着室の鏡を見ながら髪を後ろにせっせと束ね、おくれ毛を引き出した。前髪の分け目も少し変えて。
程よい丈のカーディガンがちょっと女を透かして。
アシンメトリーのスカートが個性を剥き出してる。少し裾が尖ってる。

そのスカートが広がる様が見たくて、くるりと回った。

この裾の先っぽが、あの人に届くのかな…


少し照れてしまう。



そんなことを妄想するくせ、私はあの人に会うとき、新しいスカートを履かない。


きっと「かわいいですね」「新しいですね」と言うから。

そんなとき私はまた照れて可愛げのない返事をするか下を向いて黙り込んでしまうか、…だから、新しいスカートを履いてあの人には会えない。


そうして今クローゼットに
3着のタグ付きスカートがぶら下がってる。



当たり前に会えると思ってる日がいつか終わるかもしれないのに。
いつか言われるかもしれない「かわいいですね」が欲しくてこわくて、積もってく。


目の前のスカートみたいに、行き場のない想いがだらんとぶら下がる。




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