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咲いててよ百日紅、鳴かないでカラス

もうサルスベリが咲いてるなんて、知らなかった。
聞いてない。
そんなの信じない。


夏がきてしまった。

義両親からとうもろこしが届いた。

浴衣の着付けの看板が出た。

隣の家のベランダから蚊取り線香の香りがした。

スカートの中の足首を蚊に刺された。

とうもろこし、美味しい。


いつの間にか、1年が経った。


去年と何ら変わらない夏が、始まる。


去年の私は春に今の職場を辞めようとしていて。
決まってた転職先。
手帳に赤で書いた最終出勤日。
コロナのお陰かコロナのせいか…私は今の職場に留まった。

そのお陰で今がある。
去年の夏、秋、冬、今年の春と、今がある。

辞める手続きから有休消化の計画までほとんどが終わってた私をそのまま置いてくれる今の会社の懐は、夏の空みたいに高く遠くて届かなくて暑い。その暑さがちょっと合わなくて、私の温度が合う場所を見つけたつもりではあったんだけど。コロナの関係で…、水風船みたいに弾けた。

もしあのまま…と自分の全く違う1年を想像するくらいの未練はある。
でもそんなことよりもう、とにかくこの1年は素晴らしかったから。



夏の終わりの夕方みたいに名残惜しいあの人。
夏と共にいなくなるつもりだと、いつか聞いた。



思い出したくないはずなのに、いつも思い出す。
公園でブランコから伸びる長い影見ながら、もうひと漕ぎもうひと漕ぎって膝を曲げて。
まだまだ大丈夫、まだ遊べるよってジタバタしてしまいたくなる。
困らせたくなる。まだ暗くないよって。


カラス鳴かないで。誰も走らないで。みんな帰らないで。


もうずっと私は、蝉の声で頭痛くてもいいから。
もうずっと私は、カエルの鳴き声で眠れなくてもいいから。


夏の終わり
夏の終わりには
ただあなたに会いたくなるの

って森山直太朗も歌ってたな。
夏の終わりってどうしてこうも儚いの。

ああ、夕立ちがくればいい。
そうしたら諦めがつくかな。
うんん、すべり台の下にもぐろう。
濡れながらブランコ漕ごう。

夕立ちみたいに心に跡を残してく。
びしゃびしゃの、ぐちゃぐちゃな私だけが残る。


今日、少し涼しい夜の帰り道。

サルスベリが咲いてるを知ってしまった。
だからもうさ、サルスベリはずっと咲いててよ。
咲き乱れてるサルスベリに気づいてしまった。

散らないで、お願い。
咲いててよサルスベリ。


・・・・おしまい・・・・


サルスベリは、漢字で百日紅と書くそうです。

100日で、散るんでしょうか。
いや、そんなに咲いてるはずないよ。

えーん、えーん、嫌だ嫌だ嫌だー!!!!


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