見出し画像

論文博士のススメ#1. Introduction

 日本には、2種類の博士がいます。課程博士と論文博士です。2つの取得方法があるともいえます(厳密に言えば、もう1つ、功績を上げた人に授与される名誉博士というものもありますが、ここでは扱いません。)。「日本には」と書いたのは、欧米では課程博士が一般的であるからです。よって、日本は少し例外的であると言えます。

 課程博士と論文博士も、名称を名乗る際には同じ博士であることに変わりはありませんが、それぞれメリットとデメリットがあります。

 このNoteでは、その知られざるメリットとデメリットを定性的かつ定量的に整理したいと思います。

課程博士

 課程博士は博士を取得する一番オーソドックスなアプローチです。大学卒業後に大学院に進学し、研究室で所定の期間、研究に励み、得られた成果を博士論文としてまとめ、学内の審査を経て受理されます。大学院のカリキュラムは、2年間の修士課程(博士前期課程と呼ばれることもある)とその後の3年間の博士課程(博士後期課程と呼ばれることもある)に分かれていますので、修士課程と併せて計5年間の研鑽が必要です(大学や学部によっては、さらに6年間のプログラムの場合もあります)。

 どの大学にも共通して、最終成果物である博士論文の提出と審査は必須ですが、それに加えて指定された授業を履修し卒業に必要な単位を得ること、並びに学術成果が確かなものであることを裏付けるための受理された学術論文が必要になる場合が殆どです。大学や学部によって様々ですが、学術論文の必要数は概ね1報程度である大学が多いです。

 そのほか、課程博士に分類される亜種のアプローチとして、社会人博士課程制度があります。この制度は、課程博士と論文博士の中間に位置する制度で、条件を満たせば2年以内の短期に博士号を取得することができ、履修する単位数が課程博士より少なく、必要になる受理された学術論文数は課程博士より多く、論文博士より少ない場合が多いです。この制度を利用することで、会社に通いながら、博士号を短期に取得することができます。よくあるケースとしては既に1報、受理された学術論文があり、もう1報かけそうな見通しが出てきた段階で、社会人博士課程に入学し、1年半ぐらいでもう1報を受理させて、2年で卒業するというものです。

論文博士

 論文博士は、日本の独自性が高い取得方法で、大学に複数の学術論文に基づく成果をまとめた博士論文を提出し、審査してもらうことによって取得可能です。一般に複数の学術論文は国際誌(あるいは査読付きジャーナル)に受理されたものが3報程度必要であり、課程博士よりも要求される水準は高いと考えられます。授業を履修して単位を取得するといったことは通常必要ありません。審査には審査料が必要ですが、通常1年の学費より高いということは少ないように思います。

 欧米に倣えという考え方から、論文博士を廃止しようとする動きがあり、国立を中心に廃止が進んでいますが、未だ多くの県立大や私大において制度は残っています。私的には論文博士の廃止は、もう少し統計的な解析をした上で慎重に対応すべきだと考えています。なぜなら、課程博士を経た人の生涯の研究成果と、論文博士を経た人の生涯の研究成果は必ずしも課程博士に軍配が上がるとは限らないと思われるからです。

遡及評価の必要性

 研究者としての独り立ちできるかどうかを称号として修めるのが博士号だと思っています。そうした点で、課程博士の方と論文博士の方で、どのような違いがあるでしょうか?個人的には、案外論文博士を修めたケースの方が良い場合が多いのではないかという点を問題提起しようと思います。

①論文数
 先に述べたとおり、博士になるために必要な論文数は、課程博士<論文博士の場合が多いです。従って、博士号を取得した時点での論文数は課程博士よりも論文博士の方が多いと考えられます。もっとも、おそらく博士を取得する平均年齢は課程博士<<論文博士の場合が多いので、同じ年齢になったときの総出版数は分かりません。また、論文を多く執筆している大学の先生の多くは課程博士であろうこと、博士を取得してもアカデミアとしての活動を継続されていない人も多いことなどを考慮する必要があるでしょう。

②考える力・論文を書く能力
 
私の最初の論文は、殆ど指導教員に書いてもらいました(真っ赤に添削されました)。自分で自信をもって論文のクオリティーを判断できるようになるのに、少なくとも3報以上の執筆が必要でした。もし同様のことが他の方にも言えるのであれば、論文を数多く書く経験がなければ、研究を完成させる力が成熟しているとは言えないでしょう。ここで、博士号を取得する際に必要な論文数が課程博士<論文博士であることを思い出してください。つまり、絶対的な経験値の差として、論文を形にするというノウハウにおいては論文博士に軍配が上がるのではないかと私は考えています。

まとめ

 これまで議論してきた、課程博士、課程博士(社会人制度)、論文博士について、基本的な情報をまとめました。

課程博士:必要論文数=平均1、必要年数=平均3年
社会人制度:必要論文数=1~2程度、必要年数=2~3年
論文博士:必要論分数=3報程度、必要年数=論文がそろったらすぐ

論文博士を廃止しようとする動きもあるが、論文博士と課程博士のそれぞれが産業や学術に及ぼしたインパクトをきちんと評価する必要がある。

 次回以降は、課程博士と論文博士の金銭面、生涯年収のシミュレーション、生涯発表論文数など、禁忌とされてきた比較解析していく予定です。お見逃しなく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?