若者よ、大企業を目指せ
『つまらない日本企業ではなくベンチャーや外資に就職しろ』
『起業してフリーランスになれ』
SNSではそのように煽るビジネスアカウントが跋扈している。
古臭い日本の大企業で若くて重要な時間を潰すのではなく、新卒からITベンチャーや外資系企業に飛び込んで経験を積み、そこから起業してフリーランスとして自由に時間を使いながら大金を稼ぐ!といった言説だ。
実家も太く高学歴で刺激のある仕事をしたいと願う優秀な若者ほど、こういった言説につい引っ張られてしまいがちである。しかし筆者は伝えたい。入れるなら絶対に大企業に入った方がいい。
ベンチャー企業とカッコよく横文字で呼んだところで、中身は歴史のない中小企業に過ぎない。無駄にキラキラした都心の一等地にオフィスをかまえていても、中身は町工場とたいして変わらないのだ。それどころか、従業員を50人以上雇っている町工場の方が、10数人の社員で回しているキラキラベンチャー企業よりもまともな労働環境であることの方が多い。
ベンチャー企業はよほどの飛ぶ鳥を落とす勢いのメガベンチャーでもない限りは、この空前の就職売り手市場の時代に若者が新卒カードを切ってまで目指すべき就職先とは言えない。
中小企業(ベンチャー含む)は大企業に比べて様々な面で社員の立場から見て劣っている面が多い。まず第一に所得や福利厚生だ。
中小企業は大企業に比べて稼げない会社がほとんどである。若いうちはそこまで差が出なかったとしても、マネージャーなどの役職に就くものがちらほら出始めるアラフォーの頃になると、昇給率の差や役職ポストの数の差が大きく効いてくる。大企業と中小企業では一番金が必要な中年になってからの給与に大きな差が開いてきてしまうのだ。
最近は中小企業でも若手の給与を高く設定し就活性を集めようとする動きがあるが、20代の給与を見るだけでなく、30代40代50代の社員の給与をしっかり比較すれば、会社の規模が稼ぎに与える影響がよくわかるはずだ。
福利厚生の面でも大企業社員は様々なメリットを享受することができる。なかでも特に大きなメリットが社宅である。筆者の友人も結婚後に既婚者社員向けの社宅に長く住んでいたが、3LDKで家賃はなんと3万円だったそうだ。そのほかにも、家賃手当や扶養手当など、給与とは別に色々な手当てを受け取れる。中小企業では中々こうはいかない。
女性であっても大企業で働くメリットは大きい。特に子育てが始まって以降はリモートワークや時短勤務、看護休暇などのフレキシブルな労働環境や充実した育児支援を受けられるからだ。
また中小企業は大企業に比べて万年人手不足なことが多い。大企業ほどの資金力がないため、余剰人員を雇うことができないからだ。会社によってはやりがい搾取、ブラック労働を強いてくるところも多い。社員の平均勤続年数が極端に短い会社などは特に危険だ。
またブラック労働はないにしても、中小企業では人手不足のために各部署の業務が溶け合っている場合が多く、いざ就職すると自身の他部署の仕事にもに関わっていくことになる。そうして中小企業に長く勤めて適合してしまうと、社内の様々な部署のことを広く浅く知ってはいるが深い部分は何もわからない、”中小企業なんでも屋おじさん”に仕上がってしまう。
この状態になるとその会社の中では便利屋として一定の地位は確保できるが、社内ルールの全く違う他社へ転職するとなると途端にその強みを失ってしまう。中小企業で長く勤めても、その会社専属のスペシャリストにはなれても、どの会社でも重宝されるような知識や技術、業界人脈を持ったエキスパートな人材にはなれないのだ。
その点、大企業であれば中小企業に比べて十分な数の人員がおり、各部署も分業制が敷かれていることから、業務をこなす中でどの会社でもやっていける専門家として成長することができる。もちろん大企業の仕事は楽ではないが、その分給与やスキルの面で十二分な見返りが期待できるのである。
さらに大企業の強みはまだまだある。”寄らば大樹の陰”ということわざがある。頼りにするのなら、大きな勢力のあるものを選ぶのが得策であるという例えだ。筆者もサラリーマンとして長く暮らしてきた中で、会社の看板は大きければ大きいほど良い、と確信している。特に仕事がアイデンティティの一部となる男にとって、自分が属する会社のネームバリューは社会からの評価に直結する。
故野村克也監督は著書の中で『人の価値は他人の評価で決まる』と記していた。自分のことは自分が評価するなどという綺麗ごとが許されるのは学生時代までだ。社会に出れば他人の目で容赦ないジャッジに晒される。
大企業という後ろ盾を持った人間は世間から一目置かれ、その評価が本人に承認や自信、自己肯定感を与え人生を好転させていくのだ。大企業に就職する大きなメリットの一つが社会からの高い評価を得られることなのだ。婚活を始めたとき、結婚相手の両親に挨拶に行ったとき、住宅ローンを借りるとき、様々な場面で大企業勤務という信用、大企業の後光が助けになるだろう。
中年以降に転職や起業をする際にも、大企業の勤務経験は大きなアドバンテージになる。誰しもが知る大企業で10数年勤務していた人なら安心して仕事を任せられそう、と感じて貰えるのだ。誰も知らない横文字ベンチャー企業出身ではこうはいかない。
大企業に就職するメリットは高い所得やどこでも通用するエキスパートに成長できること、社会的に高い信用と承認が得られるだけに留まらない。次にあげられるメリットが……
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