【創作小説】猫に飼われたヒト 第24回 新たな出会い
その日の夕方。
アドはふらふらになりながら大学へ向かった。
教育実習の最終日に控えている、初授業の練習をするためだ。
レックスが教室で学生の席に座って言った。
「では、模擬授業を始めようか」
アドは緊張の面持ちで背筋を正した。
「よろしくお願いします…!」
右手に指導案を持ち、アドは大きく息を吸った。
「…では、授業を始めます!今日は、人間の言葉について学びましょう。私たちの会話に欠かせない言葉は、かつて人間が使っていた言葉をそのまま借りたものですが……」
「…これで授業を終わります!」
アドはレックスにぺこっとお辞儀をした。
「…ありがとう。お疲れ」
「どうでしたか先生!」
「…まず君の感想としてはどうかね?」
アドは首を傾げた。
「ううん…何か説得力に欠ける気がするんですよね…人間は怖くない…そう子供たちに知ってもらいたいのに、何か、今ひとつって感じで…」
「…君はたくさん練習をしたようだね」
「はい!先生に見てもらうと言うことで頑張りました!」
「…君は本番、私のために授業をするのか?」
「あ…いえ、小学校の児童たちです…」
「そうだろう。君の授業は誰のためのものか、もう一度よく考えたほうがいい。今君の模擬授業を撮影した映像をスクリーンで見られるようにするから、何がだめだったか、まず自分で考えなさい」
「は、はい…」
レックスは席から立ち上がり、アドの肩にぽん、と手を置いた。
「何、そう気を落とすな。本番まであと一週間ある。いくらでも改善できるよ。私は研究室にいるから、答えがまとまったら来なさい」
「はい…」
レックスはスクリーン投影の準備をし、部屋を去った。
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レックスの研究室では、レオが大量の本を読み漁っていた。
部屋に戻って来たレックスがその様子をぼんやりと眺める。
(写真や挿絵を…見ているだけだよな…?)
その時、研究室のドアを叩く音がした。
「どうぞ」
扉を開けたのはグッダ。
「レックス。ちょっといいか。次回の教授会議の資料なんだが…」
「資料か。いいよ。私が君の部屋に行く」
そう言ってレックスは部屋を出た。研究室の鍵をかけずに___
アドが自らの授業を振り返る。
「…なんか、お芝居をしてるみたい……教案通りにできてるけど、目の前に子供たちがいる光景が全然わかない。これじゃあだめだ」
早速レックスに伝えに行こうと、アドは部屋を出た。
レックスの研究室の前に立つアド。
「先生!私、答えがわかりました!」
グッダの部屋にいるレックスにまで届くアドの元気な声。
「……アドか…すまんグッダ、ちょっとだけ待っていてくれ…」
「失礼します!」
ガチャ。
グッダが隣の部屋の方向を向いた。
「レックス?今お前の部屋が開いた音がしたが…」
レックスは青ざめた。「鍵を閉め忘れた!」
バタバタと部屋を出るレックスとグッダ。
しかし、アドはレックスの研究室の扉を開けた後だった。
レックスの部屋の前で棒立ちになるアド。目の前にはこちらを不思議そうに見つめる人間、レオの姿。
「……へ?」
レックスとグッダはしどろもどろになった。
「あ、アド…この人間は、研究所の人間で…」
「そ、そうだ。レックスが特別に側に置いて、言葉の教育を施して…」
「本物の人間だーーー!!」
「「え」」
アドは歓喜の声で部屋の中に入り、レオを撫で回した。
レオもびっくりしている。
「先生がお世話をしている人間なんですか?!」
「え、ああ、そうだ。特別にな。今日は勉強のためにここに…」
「すご〜い!髪の毛が長くてサラサラだ!お肌は毛がなくてすべすべ!初めて人間に会えて感激!」
「あ、アド。あんまりはしゃぐと他の猫に聞こえてしまうから…」
「そうだよ。これはレックスの秘密の研究なんだ…」
するとアドは何かを思いついたようにレオの瞳を見据えた。
「はっ!そうだ!先生!」
「な、何だね」
「この子を、私の授業に参加させてくれませんか?!」
「「え?」」
次回に続く
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