【創作小説】猫に飼われたヒト 第25回 無理なお願い
「この子を、私の初授業に参加させてくれませんか?!」
「「え?!」」
アドは悲しそうな、しかし決意のこもった表情で話し始めた。
「私、ずっと授業に何か足りないなって思ってたんです。人間は怖くないよってことを伝えたいのに、いまいち説得力がない…でもこの子を子猫たちに実際に見て貰えば、人間が安全な生き物だって伝わるはずです!」
レックスは真面目な表情で語った。
「…ダメだ。いきなり子猫たちに人間を会わせて、教室が混乱状態になるかもしれない。こんな世の中だ。きっと、親御さんも反対する猫が多いはずだ」
「こんな世の中だからですよ!」
アドは俯いた。
「今日、人間のことで子猫達が言い争っているところを見ました。誰も見たことがないはずなのに、人間は悪いって決めつける子が多数。人間を知らないまま大人になっても、きっと同じことが起こります。私は子猫たちにこそ、人間が本当はどんな生き物なのか、知って欲しいんです」
アドの熱意に圧倒されるレックス。
「君は、どうしてそこまで人間を…」
アドは少し微笑んだ。
「レックス先生の初めての授業で、」
「先生は、『人間は歴史の中で語られると非常に恐ろしい生物だ。だが、人間は心を持っている。人間はその心で、周りの友人や家族、他の生き物たちをも救うことができる生き物だ。それを忘れてはならないよ』と言いました。私はそれを信じているんです」
「アド…」
アドは再び真剣な眼差しをレックスに向けた。
「人間は猫を襲わない。これが真実なのに、フォンスの写真のせいで、人間は猫にとって害のある生き物だと誤解されてる。そんなのって、悲しいじゃないですか。ほら、こんなに大人しいのに……私は、子猫たちに本当のことを知って欲しいんです」
レックスは深く息を吸い、そして小さく吐き出した。
「…現段階で、人間が猫を襲う可能性は非常に低い、というだけだ。襲わない、とまでははっきりとは言い切れない。だが…」
グッダはレックスを見つめた。
「…レックス?」
レックスがアドに向かってはっきりと述べた。
「人間に対する偏った認識は、これからも猫同士の中でも軋轢を生むことだろう。何が正しく、何が間違いなのか、それを教えるのが教師の務めだ」
アドは目を丸くさせた。
「…と言うことは」
レックスが微笑む。
「…実習先の先生に許可を得られれば、こいつを授業に参加させてもいいことにしよう」
アドが歓喜の声をあげ、レックスの両手を取りぴょんぴょんと跳ねる。
「やったあ!先生、ありがとうございます!!」
グッダは険しい顔でレックスを見た。
「おい、レックス…!」
グッダを見上げるレックス。
「大丈夫だ。レオは研究所の人間だと言えばいい。アドの授業は私も観察をしに行くから問題ないさ。それにこいつは愛想が良くて大人しい」
グッダがため息を吐く。
「…持ち上げられた奴がよく言うよ…」
「レオ?この子、レオって言うんですか?性別は?」
「オスだよ」
「レーオくんっ。よろしくね!」
アドがレオの髪を撫でると、レオは満面の笑みを浮かべた。
次回に続く
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