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できるか?農業の有機シフト。米企業のクリエイティブ発想な取り組みにヒントを考える。

有機農業へのシフトは可能か

有機栽培へのシフトが今、世界的な農業課題の一つとなっています。

現在、日本では、全ての農地のうちの有機農地の割合はたったの0.2%。(令和元年農林水産省資料「有機農業をめぐる事情」より)。これを、農水省は2050年に25%まで引き上げようと息巻いています。なかなか大胆な目標ですね。

とういうのも、有機農業へのシフトは簡単なことではありません。慣行栽培(従来型農業)を有機栽培に変えようと思うと、農薬や肥料を変えればいいという話ではなく、栽培方法や収益の考え方を根本的に変えないといけない。農家さんは「栽培技術の再習得」をせねばならず、さらには「土壌の根本的な改変」、「使用する資材の入れ替え」、「商品流通網の確保」、「栽培の苦労に見合う健全な経営体制の確保」など数々の無理難題が農家さんの前に大きく立ちはだかります。

結局、農家さんの努力だけでは変えられない問題を多くはらみ、消費者の意識、企業のビジネスモデル、社会の仕組みが変わっていかないと、このパーセンテージはなかなか大きく増えてはいかないでしょう。

さて、日本と同じように頭を抱えているのがアメリカです。有機農地の割合は、こちらも1%に及んでいません。そんなアメリカで、あるビールメーカーの取り組みが、昨年から今年にかけて、企業のクリエイティブなプロジェクトや広報活動を評価する国際的な祭典「カンヌライオンズ」や「D&AD」で受賞しています。

ビールメーカーと農家の Win-Win型有機シフトプロジェクト

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アメリカのオーガニック・ビールブランド「Michelob ULTRA Pure Gold」を擁するビール会社ABInBevは、農家の、有機農業へのシフトをサポートするプログラム「Contract For Change」を全米で大々的に実施しました。



このプロジェクトによると、慣行農家から有機農家への移行には3年の月日を費やす、とのこと。その期間、農家は継続した収入を維持することは至難の業。有機シフトができた先も、作物を誰かが買ってくれるという保証もない。『やりたくても「そこに投資するほどの経済的リスクを背負えない」というのが多くの農家の持つ悩みだった』と、説明しています。

そこで、このビールメーカーは、農家の有機シフトのために下記の内容を提供するプログラムを行うことを、全米の農家に向けてアナウンスしました。

・有機農家になるまでの3年間、農産物(大麦)を25%増しで買い取る
・有機農家のための技術サポートを行う
・奨励金を支出する

ちなみに、詳細は映像内で語られていませんが、25%増しで買い取るのは大麦のみ。だけれど、有機シフトした後は、大麦以外の野菜もハインツなどの食品ブランドと提携して取引していける模様です。

「仕組み」と「意識」を一緒に変えていく

ポイントは、ビールメーカーがただ自腹を切って農家を援助したわけではなく、このプロジェクトを自社ブランドのPRとして巧みに活用し、「自社の企業価値の向上」を実現させたところにあるでしょう。いわゆるエシカル消費を狙ったブランディングです。

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日本の普通のメーカーがこれをやると、きっと、自社の提携農家に対してプログラムを提供し、自社サイトにCSRとしてニュースを掲載して終わるプロジェクトでしょう(あくまでイメージですが)。

ですが、このプロジェクトは、わざわざ全米の農家に向けてダイレクトメールで募集したり、様々な有機農業団体を巻き込んだり、アイコニックなキャンペーンアイコンをつくったりして、ニュースや記事に取り上げられ、ソーシャルインパクトをつくりあげた。きっちり社会の文脈に乗っかって、消費者に広く知れ渡るようにプロジェクトやコミュニケーションがデザインされていたのが非常に重要なところで、マーケティングやクリエイティブの発想が社会にインパクトを与えた好例だと思います。

「仕組み」を変えたり、つくったりしても消費者やステークホルダーの「意識」がついてこなければ、変化は起こりません。「仕組み」と「意識」を同時に変える。つまり、社会やステークホルダーが相互に利益を得られるような発想やストーリーづくり、少しでも多くの生活者やファンを巻き込みながらの実践が、我々が新しい社会、新しい常識にスイッチしていく上で極めて重要になってくのではと考えさせられる事例でした。

で、なんで今、有機農業?

ところで、なんで農業は有機農業になっていかないといけないのでしょう?「無農薬で、安心安全がカラダにイチバンでしょ!」って、それもそうなのですが、ここにはもっと深くて面白い「人類の歴史」と「地球の未来」の話があって、誰かに伝えたいのでそれはまた別の機会にでもまとめようと思ってます。


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