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ぶっ飛び宇宙人現る!🇰🇭【スーパースターを目指すカンボジアの若者たち】第17話

🇰🇭ロイ


ある日の朝、レナがキッチンに行くと、ニワトリがコケッコーと呟きながら歩いていました。

「・・・・誰なの、このニワトリは・・・」

この日は、無事にダンスバトルを終えたこと、ケンが出張から帰ってきたことを祝って打ち上げです。
ケンの事務所では、何かのイベントを終えたりするタイミングで「打ち上げ」が行われていました。
日本みたいな居酒屋は無いので、事務所の外にテーブルを出して、みんなで料理をして、お酒を買って(カンボジアは18歳から飲酒OK!)、スピーカーで音楽を流して、宴がスタート。

料理長はティーです。
ティーは美しい筋肉をまとった肉体とは裏腹に、お料理などの家事も大好き。
自ら釣ってきてくれた魚を調理したり、自ら市場で買い付けたチキンを振る舞ってくれたり。

・・・ん?チキン?

「もしかして、私が今食べているこのフライドチキンって・・・」

「オレが作ったんだよ、美味しいでしょ。」

「うん、美味しいね・・・・」

キッチンのゴミ箱を見ると、やはり、鶏の羽がむしられた形跡が。
日本の都会にいると忘れがちだけど、私がいつも美味しく食べているチキンは、こうして台所で首をちょん切られ、羽をむしられ、血抜きをして、調理されているんだよね。

レナはチキンを手にしながら思いを巡らせるのでした。

打ち上げの時には、ケンと男子たちがレナに手を合わせてお願いします。

「レナさん、お願いお願い、SAKEを買うお金をください~」
「レナさん、きれい!」
「レナさん、愛してる!」

こういう時だけレナを褒める夫&男子に、ストレスが溜まるレナ。
そんな時は、ヘアンがレナを救ってくれます。

「レナ、いい?奴らのことを見ない、聞かない、話さない。
ほら、レナ最近、ほうれい線とかシワとか目立ってきたから・・・ね、深呼吸よ」

レナが深呼吸をしていると、ケンがバッとレナから財布を奪って

「キン、お前も一緒に来いっ!」

と、走っていきます。それを見たノリが

「ケン、飲み過ぎだよ!もうお酒はダメだよ!」

と嗜めるものの、それを振り切って走り去るケンとキン・・・
レナとノリは、ため息をついて二人の背中を見つめるのでした。
ノリ、あんたって本当に出来た人間ね。

しばらくして、ケンとキンは酒を持ち、アイスをバリバリ食べながら帰ってきました。
そして二人は酔っ払うと、地べたで爆睡。
みんなで二人の顔やら脚やらに、マジックで

「ばか」

と書いて、打ち上げはお開きです。

ところで、先日のフレンドシップ・ダンスバトルに参加した若者の中に、一人、目につく青年がいました。
彼の名前はロイ

なぜ彼が目についたかというと、顔がケンにそっくり!
そして、彼はバク宙など派手なパフォーマンスで、会場を大いにわかせました。

「君、ポラリックスに入る気ある?練習は厳しいけど。」

彼の個性に惹かれたケンがそう声をかけると、ロイはこう言いました。
「うん、オレ、ポラリックスに入りたい!オレ、副業を探していたんだ!」

「副業?」

詳しく話を聞くと、ロイは中国人が経営する観光客向けの施設で働いているとのこと。
その施設では、アンコールワットの歴史を説明する劇を、アクロバットや空中飛行を含むパフォーマンスを用いて披露していました。
もっとお金が欲しくて、副業を探していたそうです。

「うちでもお給料を払えるけど、その施設をやめて、ポラリックスに専念する気はある?」

「えへへ、実は、俺はその中国人の施設から抜けられないんだ。母ちゃんがオーナーの中国人から借金をしていて、でも返済できないから、オレがそこでずっと働いているんだ。小さい時からずーっと働いているんだよ。」

ロイは、既存のポラリックスメンバーの中で一番年上だけれど、まるで幼い子供のように喋ります。ロイも、ヘアンと同じく貧困の連鎖の中で大きくなった青年なのね。

しばらくロイの練習の様子を観察していたケンは、そのロイの身体能力や豊かな個性に、ポラリックスに必要な人材だと判断。
ロイのお母さんと、ロイが働く施設の中国人オーナーと交渉し、ロイのお母さんの残りの借金を肩代わりするから、ロイをポラリックスに欲しいとお願いしました。

こうして、ロイは正式にポラリックスのメンバーになりました。

ロイは小学校にもろくに行っていなくて、英語もさっぱり話せません。
だけど、普通に物怖じせずクメール語でケンやレナに話しかけてるし、なんか会話が成立してる
雰囲気かもし出してるし、何より底抜けに明るいぶっとんだ性格で、ロイの周りにはみんなの笑いが耐えませんでした。
言葉は通じなくても国境を超えてくる男・ロイ!

タタ、ソヒャップ、コン、キン、ノリ、ヘアン、リン、ティー、そしてロイ
ポラリックスが揃ったところで、音楽フェスティバルの出演依頼が舞い込んできました。
依頼してくれたのは、以前、フェスティバルでポラリックスのパフォーマンスを見て一目置いてくれた、首都プノンペンから来たイベント会社の社長さん(シンガポール人)です。

前回のフェスティバルは、お客さんがいない時間帯での出演だったポラリックスだけど、今度はもっと遅い順番、会場が盛り上がってきた時間帯に出演させてもらえることに!

その頃、みんなが憧れていたアーティストが、「クミン・クマエ」というカンボジア人の青年二人組でした。外国のコピーソングではなく、オリジナル曲を自分たちで作詞作曲して歌うクミン・クマエは、ポラリックスにとって目指すべき背中。
今回のフェスティバルでは、そのクミン・クマエと会うこともできたのです!

ロイのアクロバットなパフォーマンスも加わり、さらに勢いが出てきたポラリックスを見て、とある女性が声をかけてきてくれました。

彼女の名前は、ローラ・モン。
アメリカ育ちのカンボジア人の若い女性です。

しかし、数年前に祖国カンボジアに戻り、カンボジアの首都プノンペンで芸能プロダクションを設立。
クミン・クマエは彼女のプロダクションに所属していました。

ローラは、次世代のアーティストを育てたいと考えていました。クミン・クマエのように、どこかの国の誰かの作品をコピーするのではなく、自分たちでクオリティの高いオリジナルのコンテンツを作り、世界に発信していけるアーティストを。

そう、ローラはケンと同じ夢を持って、芸能プロダクションを始めた女性だったのです。

「ポラリックス、すごいわね!!あなたたちのパフォーマンス、最高だった!良かったら、お正月にシェムリアップでコンサートがあるんだけど、私たちと一緒に出演しない?」

カンボジアのお正月は、4月。
お隣の国・タイと同じように水掛け祭りが街じゅうで開催される、カンボジア人にとっては一年の中で最大にて最高の連休です。カンボジアじゅうで、新年を祝う大規模なコンサートが開催されます。
特にシェムリアップは、カンボジア人が全土から参拝に来るアンコールワットのお膝元。
お正月、一番にコンサートが盛り上がる街なのです。

実はこのシェムリアップでのお正月コンサート、ケンが目標にしていたものでもありました。
カンボジアでお正月を迎えるたび、大盛り上がりのコンサートを見て、

「いつか必ずポラリックスをあのステージにに立たせる」

と胸に誓っていました。
ケン、ついにそのチャンスを掴んだね!!

ポラリックスは、一歩ずつ階段を登っている。
あともう少しで、観衆からの大歓声を感じられる。

だけど、その前に
悲しい試練が待っていました。

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