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いざ、別れのとき🇰🇭【スーパースターを目指すカンボジアの若者たち】第32話

🇰🇭旅立ち

プノンペンの来て、怒涛の2年が過ぎ、
やがて、大手携帯キャリア会社・テレビ局との契約終了のタイミングが迫ってきました。

ケンは、
契約を結んでから3人も契約違反を犯したポラリックスとの契約は、もう、打ち切りだろう・・・
と見込んでいましたが、

ケンの映像製作の技術・そして残ったポラリックスの努力を気に入ってくれて、
大手携帯キャリア会社・テレビ局共に、契約の更新を申し出てくれたのです。

それと同時に、ノリからケンにこんな報告がありました。

ノリはポラリックスの仕事が終わった後に、
自らいろいろなイベントなどに顔を出して、
他のアーティストたちとのコネクションを作っていたのですが、
そんな中でローラ・モンと会う機会があったのです。

そう、ローラはポラリックスをとても推してくれる、カンボジアの芸能プロダクションのボス。

他の国の楽曲をコピーするのではなく、カンボジアのオリジナルカルチャーを作っていきたい!という、ケンと同じ方向へ志を持つカンボジア人女性です。

「ローラは、ケンの事務所とパートナーシップを組みたいと言ってるよ。」

それを聞いたケンは、早速、ローラと話をすることに。

ローラの提案は、ポラリックスの営業を全てローラの事務所・バラメイが担うというもの。

ローラはカンボジア人ということもあり、ケンよりもずっと企業などにコネクションがあって、アーティストの活躍の場を作ることに長けていました。

今までの一年と同じように、大手携帯キャリア会社やテレビ局と契約をして、収入を得るのか?

ローラとパートナーシップを提携し、ポラリックスの知名度をあげるための賭けに出るか?

2つの選択肢を、ケンはポラリックスたちに選ばせることにしました。

ポラリックスたちの、未来だから。

数日度、ポラリックスが決断した選択肢は、
ローラとのパートナーシップ。

そして、それに伴い個人的な決断を下したメンバーもいました。

ティーです。

「俺は、この契約が切れるタイミングでポラリックスを抜ける。」

自分の拘りを犯される集団生活、
愛する自然が無いプノンペンでの生活、
ティーにとってどれだけ大変だったことでしょう。

ティーは自分を解っている男。
ちゃんと契約とポラリックスを守って、
シェムリアップに戻る決断をしてくれました。

「ティー、今まで本当にありがとう。」

ティーと一緒に、私の飲み友達・ニタもシェムリアップへ帰ります。

これからは、ポラリックスの定期的な収入が約束されない。

どんどん自分たちで仕事を取っていかなくてはいけない。

果たして、俺の元にいることが、彼らのためなのか?

俺という日本人といることが、彼らの逃げ場になってしまわないか?

ケンは迷い始めます。

ポラリックスにとって、何が一番、大事なのか?

俺は、ポラリックスたちへの責任を本当に果たせたか?

陰気でよく泣く家政婦・レナは、
既に、ポラリックスとはもう一緒にいるべきではないと感じていました。

少し前に日本に一時帰国した際、
横浜駅の地下道で、若者が一生懸命にダンスの練習をしている姿を見て、そう思ったのです。

ポラリックスは、これからは自分たちで道を切り拓いていくべきだ。

例え失敗したとしても、自分たちで。

いつまでもケンや自分が一緒にいては、彼らは羽ばたけないと。

2019年3月

カンボジアの最も暑い時期に差し掛かり、お正月へ向けての高揚が高まる頃。

ケンは、ノリ、リン、ティー、ロイ、ボリャ、ヤン、ミッキー、ニタを集めました。

「今月で、この事務所・・・
Cambodia Stars Academyは閉鎖する。」

みんなは驚きを隠せません。

「・・・どうして?」

「ノリ、リン、ロイは、来月からはローラの事務所・バラメイに移籍するんだ。
ヤン、君もカメラマンとしてバラメイに一緒に行きなさい。」

ケンは、ローラにお願いしていたのです。

ポラリックスの営業だけでなく、
ポラリックスを丸ごと引き取ってくれないかと。

お金は一銭も要らないから、ポラリックスをバラメイの所属タレントとして受け入れて欲しいと。

ローラは承諾してくれました。

ケン、とうとうポラリックスと別れる決意ができたのね。

ティーとニタは、シェムリアップへ。

ボリャはプノンペンに留まり、親戚の仕事の手伝いをすることに。

ミッキーは再び、オーストラリアへ。

「出会った日から今まで、ケンとレナに習ったことを、俺は絶対に忘れない。

こんなこと、今まで言ったことなんかなかったけど・・・

俺は心から、ケンとレナのことを本当の家族みたいに想っていたんだ。」

ノリが目にたくさん涙を溜めて、そう言ってくれました。

カンボジアの人は、関係性がわりと浅くても
けっこう気楽にI love you!とか言ってくれるんだけど、
ノリはなかなかそういう事は言わない男でした。

なんなら、みんなが気軽にやる“ハグ”も、
ケンやレナとはしなかった。

なんだかお互い、気持ち悪いというか、恥ずかしかったんですよね。

そんなノリがそんな事を言ってくれて、
ケンは見つけた気がしました。

ちゃんと、見つかった。

最初に思っていたのとは、なんか違うような気がするけど・・・

“宝物は、見つかった”

別れの前夜。

ドンドン!と、ケンとレナの部屋をノックする音。

ドアを開けると、ニタが立っていました。

「どうしたの?」

「ケン、レナ、私と一緒に祈って欲しいの。」

「は?あんた、酔っ払ってるでしょ!?」

「んふふ。起きたら枕元にビールがあったの。とにかく、私と一緒に祈って。」

「なんで?祈るってどういうこと?」

「私、夢で神様に会ったのよ。

なんか、サソリに似てた気もするんだけど・・・

とにかく、神様が言うには、みんなでお祈りをしろって。
そうすれば、全てが上手くいくって。

さあ、私と一緒に祈ろう!
みんなを呼んでくるね~!」

ケンやレナが唖然としているうちに、ニタは事務所のみんなを呼んできました。

みんな「ニタの脳みそは大丈夫か?」という疑念を隠せない表情で、ケンとレナの部屋に集まってきました。

「さあ、みんな手を繋いで、円になって。それから目をつぶって。」

みんな、ニタに言われるがままに手を繋いで、円になりました。

そして、ニタが謎の呪文を唱え始めます。

他のメンバーはそっと目を開けて、時おりチラチラとお互いに見つめ合いながら、笑うのを堪えていました。

こら、ちゃんと真面目にやるのよ!

「さあ!みんな、心の中で願い事を言って。
ケンとレナは、仕方がないから日本語でもいいよ。」

みんなは手を繋いで目を閉じ、
重度の酔っ払っい・ニタに対して動揺する気持ちを共有しながら、
願い事を唱えました。

みんな、それぞれ何を祈ったのかな?

みんなの願い事、きっと叶うよ。

「私、ここの事務所も、ここのみんなも、大好きよ!」

そう笑うニタに、みんなでウンと微笑んで、手を離しました。

そして

ノリ、リン、ロイ、ヤンはバラメイ事務所の寮へ

ティーとニタはシェムリアップへ

ボリャは親戚のお家へ

ミッキーはオーストラリアへ

私、クジラ、ケン、レナはプノンペン内のアパートへ

ケンの芸能プロダクション
Cambodia Stars Academy 閉鎖。

みんなは共同生活を解除し、袂を分かちました。


それから数ヶ月。

ケンは、プノンペンで個展を開くことになりました。

ケンは、映像作ったり編集したりする他に、絵も上手なのよ。

それでなぜか、ケンのアート作品の個展を開く機会を頂いたのです。

個展の準備は大変だったけど、ノリが仕事の合間をぬって一生懸命にケンを手伝ってくれました。

ケンの個展には、
ノリ、リン、ロイ、ヤン、ボリャはもちろん

シェムリアップにいるはずのティー、
初代マネージャー・カンニャ、
タタ、
ニタ
オーストラリアにいるはずのミッキー(この人、またサプライズでカンボジアに来たのよー!)

そして、日本にいるはずのケンのご両親

レナがパート先で知り合った日本人のお友達

昔からケンの事務所を応援してくれた仲間

大事な人たちが大集合して、
ケンもレナもみんなに「ありがとう」を伝えられたみたい!


さてさて!
これで、私の任務も終了です。
あー疲れた。みんな世話が焼けるんだもの。

「クジラ、私はそろそろ、アンコールワットの神様のところへ帰るわ。」

「嫌だよ。私を置いていかないで。
私もお姉ちゃんと一緒に戻りたい!」

「ダメよ、クジラ。
あなたには、まだ任務が残ってる。
あなたの任務は“ケンとレナ、そしてその家族を見守ること”。
あなたは、日本に行くんだよ。」

「私、日本になんか行きたくない!
だって日本では、カンボジアみたいに自由にウロウロ出歩いちゃいけないんでしょ?
残飯も食べられないんでしょ?
そんな所、嫌だよ。」

「大丈夫、自由に外をウロつくのはダメだけど、“散歩”っていうのに連れて行ってもらえるよ。
それに、ケンとレナの家族は、あなたの生い立ちを理解して、残飯だってくれるよ。」

「嫌だよ、行かないで。
私には出来ないよ、一緒に来て。」

「大丈夫だよ、ずっと近くで見てるから。あんたは出来る子。さあ、行って!」


別れの前夜
ニタの指示に従い
事務所のメンバーは輪になって祈りました
互いの幸せを


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