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短編小説、エッセイ風

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訳アリ食堂

あなたは誰にも言えない訳がありますか?
聞かせてください、女将のお眼鏡に叶えば、定食はタダで提供いたします。

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『訳アリ定食お出ししています。訳アリの方は無料です。』

なんだこれ。

午前の仕事が落ち着いて、普段とは違うランチにしようと思い大通りとは外れた小道に入ってみたら、そんな看板

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たゆたう

「どの季節が一番好き?」

夏の暑さに項垂れる時、冬の寒さに打ちひしがれる時、たまにそういう話題が上がる。

私は正直この季節が一番好きっていうのははっきりしておらず、過ごしやすいという意味で春と秋の入り口が好きと答える。
心が浮足立つという意味では、景色の色づきを楽しめる春~秋初旬が好きかもしれない。これは趣味として写真を撮るからっていうのもある。

個人的にはどの季節というよりも、その時期にし

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窓際の君

窓際の君

我が家の窓際から眺める景色が好きだ。
日頃から大して外にも出ず、家でのんびりする事が好きな私は、よく窓際から見える景色や人を観察している。

子どもが好きなアニメのキャラクターが、廊下を歩く人をドア越しに見ると、まるで水族館に居るようだと言っていたが、なんとなく分かる。

窓の外を行き交う人々それぞれが全く違う人生を歩み、違う景色を見ている。私から見えるのは一部分だけなのに、窓の外の人々には沢山の

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喫茶○○でお待ちしてます

喫茶○○でお待ちしてます

「私ね、全力で好きだった人とあの席で別れ話したの」
いたずら混じりのような、少し強がりにもとれる顔で彼女が話してきた。

「大好きで、私はどうしても離れたくなかったけど、彼の中で終わってることは分かってた。だから最後に会って話をしたの。それがこのお店。」

そう続ける彼女の声が切ない気がして、僕は自分の手を見ながら所在なく座っているしかできなかった。
「ここ、学生の時から時々来てて、好きなお店なの

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