掌編小説「順路・水族館」(500字)
『おーい、こっちに来てみろ』
にいちゃんがぼくを呼ぶ。
『ほら、あんな生き物、見たことないだろ?』
「すげー、でっかい」
小さなぼくの何倍くらいあるんだろうか。見たこともない大きな生き物が、分厚いガラスの向こう、正面からぼくを見ている。
見渡してみると、その他にも色んな生き物がいる。
あそこにいるのは全身真っ赤だ。うーんシュミがわるい。
向こうにはピッタリくっついてるのもいるぞ、カップルなのかな。
「ねえ、にいちゃん」
『なんだ?』
「この生き物、みんな同じ方に向かっていくよ」
『お。よく気づいたなあ。あいつらはな、そういう習性の生き物なんだ』
「へー、なんかかわいそうだね。自分の好きなところに行けばいいのに。」
『流れに身を任せた方が、楽なんだろ』
「ふーん、そっかあ」
正面を見ると、先ほどの大きな生物がまだこちらを見ていた。
よく見ると、正面の生き物は他のよりかなり小さい。子どもなんだろうか。
二つの並んだ目は、他よりも少しだけ輝いているように見える。
やがてその子どもも、親だと思われる生き物に連れられて皆と同じ方向へ消えていった。
『いつまでそこにいるんだ?そろそろ戻ろうぜ』
「うん、わかった」
7月25日 日曜日
今日は初めて、にいちゃんと砂の外に出て遊んだ。
大きな生き物がたくさんいて、驚いた。
でもみーんな、同じ方向に進んでいた。
ニンゲンっていうのは、そういうものなんだってさ。
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