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【詩】あなたは流れている わたしも流れている

最新詩集『源流のある町』(草間小鳥子 著、七月堂)から、「あなたは流れている わたしも流れている」という詩をご紹介します。

あなたは流れている わたしも流れている

より良いものになるための
漠然とした反省
魚道の水のかいだんに
銀の腹が翻る
川は正しさを語らない生き物だから
経済も人命も
ひとしく価値を持たない尺度だ

葬送は夜明け前だった
棺が列をなす目抜き通りに
紙吹雪の踊る午後
与えられた感情と狂騒
膿んだ傷口を隠す
紙片、曇り日
役に立つものと立たないもの

「イノセントな記事を読むのが好きだったんだ」
探査機の着陸
新種の発見
仔牛の誕生
「すれ違うこともない一瞬の生命の発光のような」
フィヨルドの写真
雨の天気図
紙片、曇り日
緩やかな河床

日がないちにち
川辺でうなずき続ける人に
水は滔々と無関心で
ぼんやりと関係を保っている
「あなたはいま、ここで流れていて
わたしもまた、ここで流れている」
かなたに響く歓声
用意された空席
風の気配

「あなたは流れている わたしも流れている」(『源流のある町』草間小鳥子 より)

実は、この作品は、コロナ禍で強行開催された東京オリンピックについて書きました。
明確な言葉を使っていないので、一読してそれとはわかりづらいかと思いますが、上記を知った上でもう一度読んでみると、それらを示唆する言葉が点在していることを感じていただけるかと思います。


わたしが作品をつくる時に大事にしているのが、現在の社会を見つめる視点と権力への批判精神です。

詩はジャーナリズムとは違いますし、社会課題を詩のテーマに利用しようとしているわけでもありません。
ただ、この時代だからこそ表出したある視点・表現をひとつでも多くこの世に残しておきたいと思っています。

オリンピック関連の汚職が次々と明らかになる今、より存在感を増してきた作品となりました。

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