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Grasp Fortune by the forelock.

幸運の女神には前髪しかない、なんて諺を知るずっと前、まだあたしたちがミジンコだった太古の昔、実際にミジンコくらいの脳味噌しか持ちあわせていなかったあたしたちは、可哀想に中学受験の予備校に通ってた。

予備校には伊藤先生っていう国語の男性講師がいた。
伊藤先生は背が高くてガタイが良くて眼鏡をかけてて、ふわふわの天然パーマで前髪にボリュームがあって、先生の前髪に触ると幸せになれるっていう言い伝えっていうか多分先生がそう言ったんだとおもうけど、とにかくミジンコのあたしたちは幸せになりたくて、先生の前髪を触ろうと毎度必死になって背伸びした。

悪ガキミジンコだらけの教室で、あたしミジンコは割と大人しめだったけど、先生はいつもみんなに平等に前髪を差し出していたことを、頂き物のメリーソートのテディベアのモヘアを撫でていたことを急に思い出した。

ふわふわ

何人かのミジンコは楽しすぎて悪過ぎてもっと厳しい他の予備校に強制送還されてしまったけれど、あたしたちの中にはライバル意識よりもっと強い仲間意識みたいなミジンコDNAが植え付けられていて、大抵のことは乗り切れた。

ふわふわ

それからしばらくしてミジンコたちは各々に東邦大附属や明大附属や色んな附属に進学し、全員が渋谷幕張には落ちた。太古の昔。

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