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「反省」なんて、しなくていいから (エッセイ)

「このヒト、《反省」じゃなくって《後悔》してるだけじゃないの」
テレビカメラに向かって、
「深く反省しています」
と頭を下げる、不倫報道の芸能人や、利害関係者から高額接待を受けた官僚や、失言をとがめられた政治家を見るたびに、同居人が言う。

他人の心の内面はわかりようがないが、もし私だったら、その心中は、
(やらなきゃよかった)
(行かなきゃよかった)
(言わなきゃよかった)
あたりだろう。ひょっとしたら、
(バレないようにやればよかった)
かもしれない。
いずれも《反省》より、《後悔》という言葉がふさわしい。
それでも異口同音に、《深く反省》している旨の発言をするのは、過去の行為を悔やむだけではなく、省みて「今後はしない」と将来の行動規範を修正するトーンを持たせ、容赦を求める、とまでいかなくても、批判を和らげるためであろう。
ならば直接的に、
「二度といたしません」
と言明すればいいが、不確定な未来について、公的にそこまで約束したくはない。


会社に勤めていたころ、職場の《安全》は最重要事項だった。
《事故》の際はもちろんだが、その手前の《ひやりハッと》事案が起こった時も、職場で根本から原因を議論し、対策をたてて実施し、報告書を提出することになる。
この報告書の中でも、謝罪と共に、
「‥‥このような事故を起こし、深く反省しています」
が出てくることがある。
報告者の気持ちは理解できないでもないが、企業における《安全》というのは、《情緒的世界》ではなく、《論理的世界》である。
《反省》なんてしなくていいから、《原因究明》と《再発防止策》の立案をしっかり頼む)
と思ってしまう。
正確には、反省しなくていい、というよりも、反省は心中ですればいいのであって、人前で口にしたり、報告書に書いたりしなくていい、ということだろう。

テレビカメラに向かって頭を下げる人たちも、《反省》よりも、《真因》を語り、《具体的な再発防止策》を披露する方がいいのだが、前者は《欲》に関わる生々しい話になりそうだし、後者を本気でやるなら、
「GPSによる位置情報を、配偶者が常に把握できるようにします!」
「今後、利害関係者との会食は、すべてユーチューブで中継します!」
など、今後の人生にとって、相当つらい対策になってしまう。
「深く《反省」しています」
情緒的世界に引き込んで勘弁してもらいたい、というのは人情であろう。

では、万人に適用可能な「再発防止策」はないか、と考えたのが、拙作ショートショート「反省の日々」である。
これも、他人が装着するのは見て楽しめそうだが、自分がこんな目に合うのはご免こうむりたい。謝罪記者会見と同じである。

なお、少数だが、謝罪の際に、《反省》ではなく《後悔》を使う人がいて、個人的にはその率直さに好感を持つ。
例えば、合成麻薬の所持で逮捕された沢尻エリカは、
「多くの方々を裏切ってしまったことを、心の底から後悔しております」
というコメントを発表している。

私が好きな謝罪会見は、写真週刊誌で不倫を報じられた三遊亭円楽(6代目)のそれで、報道陣から、謎かけを持ちかけられ、
「今回の騒動とかけまして今、東京湾を出て行った船と解く」
その心は?に、
「航海(後悔)の真っ最中です」
と結んだ。
こんな洒落に、ガハハ、と笑い、
「座布団2枚!」
と合わせてくれる、大らかな配偶者を持ちたいものである。

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