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「アトムの童」を視て想い出した新入社員実習中の『君は天才だ!』(エッセイ)

高校1年の時、平家物語の麻雀版パロディー北家ぺいけ物語」

東南西家トンナンシャーけのポンの声、
諸行無常の響きあり
国士無双こくしむそうパイの色、
盛者必衰じょうしゃひっすいことわりをあらはす
…………

北家ぺいけ物語」冒頭部分

を書いた同級生を、
「天才だ!」
と感心した話を書きました。

今回は、私が人生で(たぶん)1度だけ、
「天才だ!」
と言われた話です。
(……自分では時々言うかな ── 誰も言ってくれないので)

それを唐突に想い出したのは、日曜劇場「アトムのを見ていた時です。

このドラマは、主人公(山﨑賢人)が親友(松下洸平)と2人でゲームプログラムを開発し、小さな老舗しにせおもちゃ会社のメンバーと共に巨大ライバルに挑んでいく、というストーリーです。
この巨大ゲーム企業の社長(オダギリジョー)がなかなかズルくて、主人公たちが開発したゲームを何度も合法的に盗んでいくのです。

「……そういえばオレ、新入社員実習中に、半日で『恋占いゲーム』を作ったことがあるんだ。先輩がそのゲームをコンピュータ会社の営業に見せたら、コピーさせて欲しい、と頼まれて、勝手に持っていかれたことがあったな」
カミさんに話すと、
「へえ! 初めて聞いた! ひどい話じゃない!」
とけっこう盛り上がりました。
(実は、もっとひどい話が含まれているんだが……)
実行者は私じゃないとはいえ、プログラムのコピーとはまた別の問題行動が含まれていますが、まあ、時効でしょう。

新卒で入った会社では、ふたつの部署で各1カ月ぐらいずつ、業務実習をすることになっていました。
最初の部署で、3年前に入社した先輩の指導のもと、実験系の業務を行っていた時です。指導者が3日間出張することになり、ひとりで実験して事故があってはいけないとのことで、別の先輩(5年前に入社した♂)に預けられました。

たった3日で新たに実験系の仕事を与えるのも危険だと思ったのでしょう、先輩は、自分が使っていたPCの操作方法を初日の午前中に教え、BASIC(言語)のコマンド(命令文)表を渡して、
「なんでもいいから、この3日間でプログラムをひとつ、作りなさい」
と命じました。

初代のNEC PC-8800シリーズが出て間もない頃です。

SONY TEKTRONIX製のこんなマシンでした。

大学時代に他の学生がFORTRAN(言語)で作ったシミュレーションプログラムを使って自分の計算を行ったことはありましたが、PCとBASICを使うのは初めてでした。

モニター画面はこのように緑一色!

簡単なプログラムでお絵描きの練習をしているうちに、アイディアがひらめきました。

《恋占いゲーム》を作ろう!

その日の夕刻、終業時間の少し前にプログラムは完成しました。先輩に披露すると、彼が言ったのです。

「半日でこんなゲームを作るとは! キミは天才だ!」

女性用と男性用のバージョンを作りましたが、女性向けの最も原始的なバージョンを紹介します。
(フェミニストだけでなく、広く女性読者の皆様に石をぶつけられそうで怖いのですが、《太古の昔にバカが……》とお許しください)

女性はまずPCに、本人と、占いたい相手の生年月日を尋ねられます。答えると、誕生日の星座を教えてくれます。
次に、いわゆる「スリーサイズ(今や死語ですが)」など、いくつかの質問に答えなければなりません。

すると、モニター画面の中央に、円が出現します。
そして左上の隅からあなたの恋愛ベクトルが、右下の隅から彼の恋愛ベクトルが、同時に、音を立てながらやってきます。このベクトルの(相対)長さと角度はランダム関数(呼び出される度に<0>と<1>の間の任意の小数をあてる)を使った「ランダム・ウォーク」になっています。

こんな具合です

そして、10回の「ランダム・ウォーク」が終わった時、

両方のベクトル終点が円内に入っていれば、ファンファーレが鳴り響き、中央にハートマークが点滅します。
恋愛は成就します! やったね!

実際にはハートが点滅を繰り返す

あなたのベクトルのみ円内に入り、彼の方は届かなかった場合、あなた側だけの半分に破れたハートマークが点滅します。残念、片思いのようです!

片側のハートが点滅😢

➂ 逆に彼の方だけが円内に入った場合は、彼側のハートのみ向こう側からだけの片思いで、あなたの方はそうでもないのでは?

両方とも円内には届かない場合は、この恋は困難なようです。中央でギザギザに破れたハートが点滅します。
ごめんなさい!

これはツライ!

子供だましじゃん!
そう思われるかもしれません。
でも、インベーダーゲームぐらいしかなかった時代です。
この《恋占いゲーム》は課題を出した先輩はもちろん、そして昼休みに彼が日替わりで連れてくる女子社員にも大ウケでした!

しかも、このプログラムはきわめて発展性が高く、無限に「精度」を高めていけるのです。

ゲームの「開発思想」は以下のようなものです:

・恋愛には、A.相性、B.相手を惹きつける魅力、C.偶然性、の3要素がある。

Aの《相性》は、最初に描かれる円の大きさで表現しました。相性がいいほどベクトル終点は円内に入り易くなります。

Bの《魅力》には精神的なものと肉体的なものがあるでしょう。これを、ベクトルの絶対値(スカラー値)の最大値としました。あなたが魅力的であるほど、あなたを求めて進む彼のベクトルは大股で進むはずです。

Cの《偶然性》。彼が忙しくて電話に出られなかったとか、あなた以上に魅力的な相手と出会ってしまったとか、人生は偶然の積み重ねです。これを、ベクトルの長さ(最大値に掛け算するランダム小数値)と角度(0度から90度までのランダム値)で表します

試作品では、Aの《相性》はとりあえず、誕生星座の相性、および年齢差による相性(あまり離れていては話が合わないのでは?という余計なお世話)としましたが、バージョンアップと共に他の要素も入れていくことが可能です。

Bの《魅力》は(怒らないでね)、女性バージョンはとりあえずスリーサイズを元にしましたが、これも、質問を充実させて、精神的要素や個性などを加えていくバージョンアップが可能です。

課題を出した先輩はすっかりそのゲームが気に入り、見栄えを良くしたり、音響と組み合わせたりしていましたが、TEKTRONIXの営業(だったか、販売商社の営業だったが)が来社した時に見せびらかしたあげく、私にも会社にも無断でコピーさせてしまったわけです。

まあ、私を、
「キミは天才だ!」
と見抜いた数少ない人物として、許してやろう。

(実は、もっとひどい話が含まれているんだが……)
という件、……聞きたいですか?
話が長くなったので、次回にしましょう。

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