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パッケージで商品とお客さんの新たな出会いを”発明” 国内外のマーケティング賞も多数受賞「大好物醤油」の発想(後編)

日本各地の醤油蔵さんのお醤油に、料理のイラストが描かれた「2枚目のパッケージを被せる」というユニークな発想で、国内外の様々なマーケティング賞を受賞した「大好物醤油」。自身の好物から醤油を選ぶという提案が生まれた背景からその発想について、大好物醤油を展開する(株)伝統デザイン工房代表の高橋さんと、大好物醤油の企画・デザインを担当した(株)博報堂の小泉さん、天畠さんに話を聞きました。

・カンヌライオンズ「クリエイティブコマース部門シルバー」
・ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS「マーケティング・エフェクティブネス部門ゴールド」
・JPM プランニング・ソリューション・アワード「ベスト・プロモーショナル・クリエイティブ賞」
・グッドデザイン賞


大好物醤油が生んだ2つのビジネス効果「参入障壁」と「チャネル開拓」

- 前回の最後「最終的にファンになるのは大好物醤油じゃなくて醤油蔵さん」とおっしゃってたのは、すごく共感する一方で、逆に言うと売り上げが下がるわけじゃないですか。そこはどう考えられてますか。

高橋:僕はそこは全然いいなと思っています。醤油蔵さんからすると大好物醤油がきっかけでお客さんがどんどん増えるということが起きる。そうすると、それがうちの参入障壁を高めることにもなったりもするんです。

ちょっと前に、職人醤油と似たようなことをやり始めようとする人たちが結構出てきて。そうすると醤油蔵さんが必ず電話してきてくれるんですよ「うちは断るから安心しろ」みたいに。醤油蔵さんからすると、うちとの関係って1取引先というよりも、一緒に取り組みをしている間柄って見ていただいていて、 回り回ってうちの参入障壁をかなり高めることにも繋がってる感じがします。

- あなたの蔵は刺身です、あなたの蔵はバニラです。のように蔵を振り分けていくわけじゃないですか。文句は出ませんでしたか?なぜうちはアイスなんだって笑

高橋:一切ないです。博報堂の皆さんもそこは心配してくれていたのですが。いや、もう全然大丈夫だろうなっていう感覚があって。 ほんとに決まった後に報告だけしました。「うち白米ですか。そっちは?」みたいな反応でした笑 

- 大好物醤油の売り場での評判はいかがですか。

高橋:雑貨屋さんから評判がいいっていうのをすごく聞きます。ブランドとして並べて見せたいっていうお店が多いです。実際、棚や面積が増えたりというのはあります。

博報堂 小泉:開発する時に「集めたくなる感じ」もすごく意識しました。それはお客さんだけじゃなくて、小売店さんの気持ちを動かすんじゃないか、取れる棚が倍増するんじゃないかみたいなことを考えていました。


印刷会社もお手上げの状況をブレークスルーした、博報堂アートディレクター天畠のアイデア

- パッケージへのこだわりを教えてもらえますか。

博報堂 天畠:今回のような被せるタイプって、ラベルの上にもう1回ラベルを巻いてるみたいに見えたら「意味ないことしてるな」って見えてしまう。どういう形にすればいいか、かなり試行錯誤しました。

天畠カルナ/(株)博報堂 アートディレクター
1992年アメリカ・ハノーバー生まれ鎌倉育ち。2015年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業、同年博報堂入社。広告制作にとどまらず、プロダクト・サービス開発などを通してユーザーや事業主の主体性を育てる。ポスターからアプリケーション開発までリアルとデジタルを横断しながらアートディレクションを行い、長く愛されるブランドをつくる。

中でも特に大事にしたのは、店頭で手に取った時に外れちゃダメだし、でも簡単に外せるようにしなきゃいけないっていうところです。丸い瓶に対して、円形だとすごく外しにくい。箱型で作ってみると、すぐ外れてしまうといった感じで、構造の問題が一番大きかったです。全体を箱で覆うようなものから首かけタイプなど、印刷会社さんにもいろんな形状を出していただいたのですが、「これだ」っていうのが全然見つからなくて。

高橋:印刷会社さんが1回できないって言ったんですよ。

博報堂 天畠:そうですね、一瞬「もうこれ以上無理です」って感じは雰囲気として出されちゃって…。やっぱりパッケージにかけられるトータルのコストを考えたら、結構難しいっていう風には1回なりました。

そんな中でふと「摩擦」をうまく使えないか、摩擦をうまく使って、取りやすいけど取れにくいものが作れないかなって、急に思いついたので、家のカレンダーの裏紙で作ってみたらうまくいったということがありました。円形と四角の中間みたいな形状になったんですけど、 組み立ても楽で、 配送の時にも潰れにくい形状ができました。

そしてこの形なら、店舗スタッフさんのおすすめコメントなどを側面に入れたりしながら、正面はイラストだけを見せるという風に情報整理できて。全部を解決する形状ができたかなと感じました。それまでは、せっかくいいアイデアを形にできなかったらどうしよう、どうしたらいいかなって、ずっと悩んでて、モヤモヤ考えてたんですよね。

高橋:聞いた話だと、そのカレンダーで作ったのは、朝、寝起きのタイミングで、そのまま机に向かってくれたみたいで。そのシーンが僕はすごいイメージできて、多分ずっと考えてくれていて、そこでようやく出てきたアイデアを寝癖ついて寝巻きのまま形にしてくれんだなって笑

博報堂 天畠:本当によかったです。その後は、細かなテストをして詰めて行きました。1ミリとか2ミリで摩擦の強さが変わったり。ラベルの質感や厚みによっても、最適なものが変わってくるので、そこを検証しながら作っていきました。


いい作り手が増えていく環境を作り、業界をオープンに

- 次の5年・10年でどんな方向を目指されてるんですか。

高橋:僕自身で言うと、作り手さんがすごく好きっていうのと、やってても楽しいっていうのがあって、いい作り手がより増えてくるような環境を作っていきたいなとは思っています。僕の中で「いい作り手」の定義があって、今の最新バージョンは自分の言葉で話ができる人なんです。本当の意味で自分の言葉として、自分のものづくり、醤油づくりを言える人って少ないなと思って。

よくありがちなのが「こだわりのものを作ります、地元の原材料を使います」みたいなことで。じゃあなんで地元の原材料なんですか?って聞いたところに的確な答えを返せる方は意外に少ないと思っています。だけど、本当に考えてる人は、それに対して答えがちゃんと返ってくる。 そういう人が増えてくると商品の質も上がってくると思います。

そこの解決策は結局、業界をオープンにして横同士が繋がることかなと思っています。横同士が戦うよりも、むしろ手の内見せ合って、お互いにレベルアップしたほうが結果良くなるんじゃないのかなと。僕みたいなメーカーじゃない、片足を半分突っ込んでる人間が間に入ると、そこが1回スムーズになって、色々動いてくれてるので、そういうのがこう、自分の立ち位置かなっていうのは感じます。


編集後記

半メーカー視点の高橋さん、生活者視点の小泉さん、そしてデザイン視点の天畠さん。醤油や職人へのリスペクトを持ちながらも、異なる3つの視点が交わり大好物醤油が生まれたのだと改めて感じました。そしてこの3視点フォーメーションは様々な業界に横展開可能で、どんどん広げて行きたいなと、そんなことを感じたインタビューでした。


[職人醤油]
すべてを100mlの小瓶で統一している醤油の専門店。日本各地の400以上の醤油蔵を訪問してセレクトしています。
 https://www.s-shoyu.com/


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