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眠る


人は眠っている間に、とてつもない速度と密度で修復されているらしい。

肉体も精神も、他の誰にも理解できない自分ひとりだけの世界へ、ひっそりと還っているのだそうだ。

ザワザワと騒がしい「意識」や「知覚」から一旦抜け出して、単なる生命体の自分に還って行く。

眠る、というと、小さな子舟に乗って、夜の海へひとり漕ぎ出して行くコグマを思い浮かべる。月の綺麗な夜に、静かな暗い海をせっせと漕いで、遠くの沖へと向かってゆく小さな後ろ姿。

コグマがどこに向かっていて、どこへ辿り着くのかは知らない。
水平線の向こうまで行って姿が見えなくなってしまうと、その後の事は何もわからない。

コグマは水平線の先まで行ったら、どこで何をしているだろう。毎晩違う場所で、違う事をしているのかもしれない。ある時はパカッとカラダを開けて小人に修理されているのかもしれない。あるいは、もっと未来的な、レーザー光線のようなものを繰り返し繰り返し頭から爪先まで照射されているのかもしれない。

もしくは、美しい映画を観て泣いているのかもしれない。一晩中、陽気に踊っているのかもしれない。突然激情にかられて、小舟を叩き割ったりしているのかもしれない。

昨晩小舟を漕いでいたコグマと、今夜舟を漕ぎ出すコグマは、何らかの組成を経て、きっと別人(別クマ)になっているんだろう。

ベッドに入ると、私は自分の全てをコグマにさっさと託して意識を失ってしまう。

細胞の一部が入れ替わり、血液や水分は隅々までよく流され、精神もじゃぶじゃぶと洗われて、感覚も感情も刷新される。現実世界で処理出来なかった様々な欠片を、私が知らない間に、磨いて整えて、捨てたり拾ったり、塗り替えたり差し替えたり引き出したり仕舞ったりする夜がやって来る。

今夜も今夜限りのコグマが小舟に乗って、私の代わりに修復の旅へと漕ぎ出す。

手に負えない何もかもがひたすら綺麗になるまで、ただただ眠り続ける。




※まさかの挿し絵。イメージ図。(これじゃ全然イメージ出来んがな。。)

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