見出し画像

Silhouette

気がつくと、黒い山高帽にオーバーコート、赤いネクタイをした背の高い中年男のシルエットは空間に切り取られ、空洞になったその体からは無数の鳩が飛び出して来た。男の姿はどこかへ消え、食べかけの青いりんごは地面にオブジェのように転がっていた。

夢から覚めた僕は、しばらく窓の外を眺めていた。青く澄み渡った上空は、色彩の回復へと向かう旅立ちに相応しく希望に満ち溢れていた。脳裏ではここ数か月の様々な思いや感情が織り交ざり、僕は目を閉じて軽く深呼吸をした。長い旅が始まる。いや、旅はもうしばらく前から始まっているんだ。そう自分に言い聞かせて、これから行く北欧の水の景色を心に思い描いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?