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アンタッチャブル

友人の知人の話。

『カウンセラーさんだったというのを聴いたので相談に乗って欲しい。』と言われ、まだOKしていないのに早口で概要を話された。(まったく人の電話番号を勝手に教えるのは止めて欲しい。)

要約すると、3年前から自分の行く先々に黒い車が待ち伏せをしていて、それがいつも同じナンバーなのだという。
さらにその長い話の間を割愛すると、今では自分が住んでいるマンションの上の階と下の階、さらには両隣に同じ組織の人々が住んでいて囲まれているという話だった。

これとそっくりなお話を過去4~5回ほど聴いたことがある。もちろん全部の話を聞いた上での話だが、これはカウンセリングでどうにかなる範疇の話ではないので、その時は心療内科、精神科の先生へ紹介状を書いた。

そんな過去の例があるにせよ、今回のこの人が本当に組織に狙われているのだったら大変なことなので、『警察には言ってみましたか?』と訊いてみる。
この方は知る限り普通の主婦の方なので、『旦那様は、このことについて何と言っているんですか?』とも伺ってみる。
すると、『旦那も警察も病院へ行けと薦めて来る。それで私は見抜きました。旦那も警察も組織の一員になってしまったのだと。実家の父に相談しましたが、やはり父も組織の一員だと分かりました。』とのことだった。

それでは、その組織の目的な何で、あなたを待ち伏せすることで何のメリットがあるんですか?と訊いてみたところ、『ああ、先生も組織に入ってしまったんですね。』と電話が切れた。

凄い話だなーと思われるかも知れない。
でも、これ、他人事ではないのだ。
誰でも始まりは、小さなコミュニティーでの人間関係がうまく行かなくて、皆が自分の嫌っているとか、小さな思い込みから始まる。いや、もしかしたらほんとに何か嫌がられることをしてしまったり誤解されたりと、そんなことが起こったのかも知れない。
でも、誰しも自分が嫌なやつだとか、自分が人を傷つけてしまったのだと認めるのは耐え難いことで、中には、その思いが人一倍強い人もいるということだ。

小さなことを認められないということが次々と妄想を生んでしまうこともある。

それで思い出した別件がある。
若い頃、美人でもてはやされていた同年代の友人に久しぶりにあった時、彼女が『いやあ、お互い変わらないねー!』と嬉々として言った。
その時、ちょっとぞっとした。
若い頃と同じメイクとファッション、同じく高飛車な態度。
現実の私と彼女は、しっかりと歳を取り、どう見ても50代のおばさんになっているというのに、彼女にはそれが見えないのだ。本気で「私たち、変わらないね。」と思っている様子なのだ。

若い頃から思いやりがなくて問題行動が多く人間関係を壊していた彼女だったが、あいもかわらず『すぐ嫉妬されちゃってねー。』という妄想で片づけていた。あくまで原因を自分の中には見ない。

昔、『秘密』という漫画を読んでいて、印象的なシーンがあった。ある女性が自分を少女のままだと思い込んでいるが、ある人が親切心で彼女に向精神薬を飲ませた。
すると、彼女は鏡の中に現実の年老いたありのままの自分を見つけ自殺してしまうという話。

それがずっと頭に残っている。うかつに妄想は壊してはいけないのだなと思う。

組織に狙われる価値がある自分でいることや、永遠に歳取らない自分という妄想が生きる糧なのだとしたら、多分それは他人が壊してはいけないものなのだろう。

なので、対処すべきは、その自分が作り出した組織が必要以上に自分を怖がらせるものに変化したり、自分で思う自分と周りからの対応があまりに違って余計に苦しいとか、そういった問題の方なのだろう。

誰にでも、些細な思い込みはある。

でも、出来ることならば私は、真実の中で本物のおばちゃんとして現実を生きて行きたいな。

ただ忘れてはならないのは万人がそう思うとは限らないということだ。

それを知り 優しくあることは 難しい。

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