”つくる”のがもっと楽しくなる! 「つくる展 ーTASKOファクトリーのひらめきをかたちにー」で見つける ”おもしろい”をつくるヒント。
「TASKO(タスコ)」という企業を知っていますか?メディアアーティストの落合陽一さんが「歯車が噛んだりチェーンが動いたり、重いもの、トルクのあるモーターでデカいものが上下運動するような作品はTASKOに頼むのが業界の慣例」なんてラジオでお話もされていた、色々な展覧会や舞台などを支えている企業で、舞台制作・機械製作・デザイン・マネジメントを専門とするメンバーのあつまる”21世紀型総合アートカンパニー”です。
そのTASKOの展覧会「つくる展ーTASKO(タスコ)ファクトリーのひらめきをかたちにー」が、群馬県の高崎市美術館で開催されています。展覧会には、動くものや音楽が奏でられるもの、大人も思わず参加したくなってしまう”おもしろい”作品がたくさん!
「こんな”おもしろい”表現、どうやって生まれてくるんだろう?」
そんなことを考えながら、TASKOの工場長・木村匡孝さんによるミュージアムツアーに参加しました。ユニークな作品と合わせ、ツアーのなかで印象に残った、”面白い”を「つくる」ヒントになりそうなお話をご紹介します。
▍試作品や自分の好きなもののコレクションがアイディアのもとに。
高崎市美術館は3つのフロアからなる美術館。まず、1Fの展示室には、「つくる」の前の発想のもとになるようなものたちが並びます。
展覧会のキービジュアルにもなっている ≪「つくる展」インスタレーション≫ は、「平面(設計)」「立体(造形)」「うごき(機械)」「制御(デジタル)」というものづくりのための4つの要素を分解してつくられた文字。「る」の文字のまるい部分は、時々「ふきあげパイプ」のボールがつくりだしていてついついぴったりと文字に見える瞬間を待ち構えてしまいます。
そして、≪TASKOの棚から≫ には、自然素材や工業素材、試作品からクラフト、そして、分類しきれない「いろいろ」まで、さまざまな「作品になる前の素材」が。
これは、TASKOファクトリーに実際にある棚を再現したもので、こうした、一見関係の無い試作品や自分のコレクションがアイディアのもとになっているのだそう。この棚の前で打ち合わせをすると、棚の素材が結びついて新しいアイディアが生まれ、そのアイディアをどう技術的に実現するか?という流れになることもあるそうです。
すぐに何かに結びつくわけではない身近なものや、好きなものから発想を広げることができるんですね。
▍1つの動きだけでも、「組み合わせ」で無限の表現が生まれる。
続いて、2Fの第3展示室には、作品の「要素」になるような、基本的な動きを使ったシンプルな作品が集まっています。
≪ROTTE (ローテート)≫ という作品は、「回る動き」に特化した作品。同じ形のオブジェが1方向に回転するだけなのに、ダンスを見ているような面白さです。
「回転」自体は基本的な動作だけど、「回る力」+「制御」で、ストップさせたり、立ち上がりのスピードを変えるとさまざまな表情が生まれ、回る動きだけでも、動きの「組み合わせ」で無限の表現をつくることができるのだとか。
ちなみに、回転しているオブジェはスプリングのオモチャを変形させたもの。こうした素材を選ぶ基準として、「安い」「手に入れやすい」「加工しやすい」、つまり、すぐにつくれて、長年なくならない(いつでも手に入れられる)ものというのを大事にしているそう。
それに、ユニークな動きの作品だけど、それを構成するパーツは「基本的に全部Amazonで売っていて、今はどこでも買えるもの」なのだとか。これも「つくる」ときに大事な要素だなぁと感じました。
≪ローテート≫ と同じモーターを吊り下げる形で使用した ≪LIFT (リフト)≫ は、上下運動の動きの作品。誰もが知っていて、重力があるから「こういう動きをするよね」と予想できる動きから、少しだけ外れた動きをすることで、見ていて気持ちよくて面白く感じられます。
みんなが知っている動きだからこそ、「組み合わせ」から生まれる「意外性」に、また面白さが生まれるんですね。
第2展示室に展示された ≪ル・ディスコシャンデリア≫ は、音と光の「組み合わせ」の作品。3つのマットを踏むと、音が出たり、音や光のリズム・テンポが変化する作品。楽器は演奏できないけれど、マットを踏むだけで音楽と映像が作り出せるような感覚が楽しくて、思わず色んな踏み方を試してしまいます。「音と光の組み合わせは相性が良い」と解説されていました。
ひとつひとつはシンプルなものでも、「組み合わせ」で面白さが生まれてくることを体験できます。
▍水と空気と磁力はタダ。でも、科学を知っていればもっと面白くできる。
作品の「要素」を紹介する展示室では、「見えない力」を使った表現のシリーズも展示されています。
例えば、磁石を使って、ボールが重力に逆らうような動きを見せる≪マグレール≫や、吹き上げパイプのおもちゃのように、風船が空中に浮かび続ける≪浮かぶ風船≫など。見えない力を使うと、意表を突いた表現ができるとのこと。
木村さんは大学時代に先生から「水と空気と磁力はタダだから使え」と言われたのだそう。
そんなタダの「空気」を使った≪浮かぶ風船≫は、「コアンダ効果」という現象をつかってつくった作品なのだそう。タダの素材も、「科学」を知っているだけで、面白いものに変換できちゃうんですね。
他にも、例えば第2展示室にある、≪ひかりの3原色≫ は、赤・緑・青の3つの光源を、様々なオブジェで遮ることによって、カラフルな絵画のような像をつくって楽しめる作品。これも、シンプルながら科学の知識がつかわれた作品です。
自分の手でつくりだす表現だけじゃなくて、科学の知識があれば、表現の幅がもっと広がるんだなぁと実感できます。
▍「影」は解像度が無限大。デジタルを見慣れた今だからこそ感じられる新鮮さ。
最後に、3Fの第5展示室へ。こちらは薄暗い展示室で、光と影を使った作品が展示されています。
≪札幌ループライン≫ は、LEDをつけた小さな電車模型がジオラマの街を走りながら、影絵でひとつのストーリーをつくりだすロマンチックな作品。情緒あふれる音楽と、生でつくりだされる影絵の映像には思わず何周も見入ってしまいます…
また、ジオラマは、建築模型だけではなく、実はペン立てやビー玉など、身近なものの組み合わせで札幌の風景が再現されているものもあり、「この素材がこんな風に見えるんだ!」なんていう面白さもある作品です。
この作品の解説の中で印象に残ったのは「影は解像度が無限」という言葉。モノクロームの世界だけれど、アナログで見える映像は鮮明で、普段見慣れたディスプレイの中の映像とはちがった滑らかさ。アナログの装置に触れる機会が少ない今、見慣れないから逆に新鮮に感じられるんですね。
3Fのもうひとつの展示室に展示された ≪パフューマリー・オルガン≫ は、音楽の「音階」に香りを割り当てた「香階」に着目して制作されたオルガン。
オルガンの鍵盤を弾くと、香水の入った瓶がぴょこぴょこと動き、そこに風が吹き込まれることで、笛のように音楽が奏でられ、さらに、香水の香りが展示室に広がります。ひな壇状の最上段には演奏する仕組み、中段には香りの原料、最下段には香りの入った瓶が置かれ、それぞれの香りを嗅ぐこともできるんです。
音楽は小さなプレイヤーで聞けるし、こんな大がかりな装置が無くても演奏もできるけれど、鍵盤を弾くと、目の前の楽器のうごきをたのしみながら、生演奏の音が聞ける面白さ、部屋中が徐々に良い香りになっていくというその場でしかできない体験。デジタルにあふれた今だからこそ余計に感じられる「アナログ」の楽しさなのかもしれないですね。
作品をたのしみながら、「つくる」ヒントも見えてくるかもしれないこの展覧会。見終わったら、きっと「つくりたい!」になっちゃいますね。
「つくる展ーTASKO(タスコ)ファクトリーのひらめきをかたちにー」は、2022年9月4日(日)までです。
※ 連載中のwebメディア「ナンスカ」でも、展覧会についてご紹介しています。
【展覧会情報】つくる展ーTASKO(タスコ)ファクトリーのひらめきをかたちにー
会期:2022年7月9日(土曜)~9月4日(日曜)
会場:高崎市美術館
開館時間:
午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
金曜日のみ 午後8時まで(入館は午後7時30分まで)
※混雑状況により入室制限となる可能性がございます。
会期中の休館日:
7月11日(月曜)・19日(火曜)・25日(月曜)
8月1日(月曜)・8日(月曜)・12日(金曜)・15日(月曜)・22日(月曜)・29日(月曜)
観覧料:
一般:600(500)円
大学・高校生:300(250)円
※( )内は20名以上の団体割引料金
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