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長崎で国際フォーラムに参加~ウクライナ出身の私が考える平和への鍵とは~

国際NGOプラン・インターナショナルのアンナ・シャルホロドウスカーです。2022年にウクライナから日本へ避難し、プラン・インターナショナルのアドボカシーグループで働いています。今年5月10~13日に長崎で開催された平和をテーマにした国際フォーラム「長崎ピース・プレナー・フォーラム(Nagasaki Peace-preneur Forum)」※に参加してきました。

  • ※「次世代のダボス会議」とも呼ばれる「One Young World」の分科会


講演者とフォーラム参加者との集合写真


長崎で世界平和の重要性を議論する意味

長崎市がこの国際フォーラムの会場に選ばれたのは偶然ではありません。約80年前に起こった原爆投下の悲惨な体験を経て、長崎市はこのような悲劇を二度と繰り返さないための復興と平和の象徴となったからです。私の祖国ウクライナを含め、世界では今なお多くの紛争が起きており、その数は年々増え続けています。現在の危機を食い止め、新たな危機を防ぐ方法を見つけるため、さまざまな国や地域から約150人の若者が国際フォーラムに参加し、世界の変革にむけ自分たちに何ができるのか、そのあり方を議論しました。私の母国では約10年にわたり紛争が続いていることを踏まえると、私がこの国際フォーラムに参加することはとても意味のある機会となりました。

20カ国以上の若者たちと平和の実現について語り合う

4日間にわたり開催されたこの国際フォーラムでは、20カ国以上から集まった参加者が、科学技術などさまざまな手段を用いて経済、教育などの分野で平和を実現するために可能な行動や段階について議論しました。2日目には、講演者たちが興味深いスピーチのなかで、自らの経験や考え、若者へのアドバイスを語りました。それぞれが異なる分野で活動しながらも、平和と幸福のために貢献できていることが印象的で、共通の目標のために多様性と団結が重要であることが伝わってきました。

トークセッション

講演のほかにも、トークセッション当日には、市民のエンパワーメント、GDPだけでは捉えられない人々の幸福度(ウェルビーイング)の実現、平和と紛争問題について、メンターやゲストを交えたディスカッションや、パネルディスカッションのセッションも行われました。これらの話題を掘り下げてみると、それぞれの紛争には異なる背景や展開があるために、紛争解決への決定的な対応策や完璧な解決方法は存在しないものの、解決にむけたさまざまな方法を理解し、模索する重要性が明らかになりました。さらに、世界各国の学生たちとのセッションは、変化をもたらす方法について、具体的な経験や見解が紹介され、とても楽しいものとなりました。

ワークショップ

2日目に参加したワークショップでは、自分が関心のあるテーマについて、解決のためのプロジェクトをチームで立ち上げました。すべての人が快適で安全だと感じられる、「平和で包摂的な社会を作る」という大きな目標を達成するために、ウェルビーイング実現のための技術や対話の構築、平和のためのソーシャルメディアのあり方など、具体的な課題が設定されていました。これはこの国際フォーラムに参加したすべての若者が、協力し合い、前向きな行動を起こそうという思いから設定された取り組みです。ワークショップを通じて、私を含めてすべての参加者が、自分の考えを行動に移し、変化の担い手になれることを理解できたのは、素晴らしい経験となりました。

対話を通じて解決を見出すことの大切さ

国際フォーラムへの参加を通じ、一見無関係に見えても、平和を実現する鍵となり得る事柄について、新たな認識を持つことができました。なかでも重要なのは、交渉を通じ合意に至る能力であることが分かりました。コミュニケーション不足は誤解を招き、紛争の原因になり得ることもあります。自分とは違う考えにも耳を傾け、相手の立場を理解しようとすることで、双方が納得する解決策を検討することができます。もちろん、交渉による紛争解決が効果的でなかったり、不可能だったりする場合もありますが、それでも、対話の仕方を変えて別の解決策を見出そうとすることが必要です。


講演する国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉氏

登壇者の一人である国連事務次長・軍縮担当上級代表の中満泉氏が話された、平和を実現するための考察は非常に印象的でした。中満さんは、地球規模のウェルビーイング実現のための技術開発の重要性を述べられました。また、現在の世界情勢に対し、最も緊急かつ必要な分野を特定するだけではなく、相互理解と多様性の尊重、受容の重要性を指摘しました。相互理解と多様性を尊重することは非常に困難ではあるものの、すべての人の意見が聞き入れられ、理解される環境でのみ、共通の解決策や理解に至れるのだと述べています。

地球規模のウェルビーイングを達成するために

今回この国際フォーラムに参加したことは、平和を達成するためのさまざまな問題や皆の役割について考える、貴重な機会となりました。ひとつの考えを私の母国の状況にあてはめるのが難しかったり、解決方法がほとんど役に立たないように感じたりすることもありました。交渉は、紛争を予防するために重要であることはもちろんですが、それには紛争の当事者同士に合意形成の意志があることが不可欠で、緊急事態では交渉に時間がかかりすぎることもあります。

すべての紛争に対する明確な答えや解決策はありませんが、助けとなる重要な指針や包括的な戦略はいくつかあると実感しました。さらに、地球規模のウェルビーイングを達成するためには、一人ひとりの意志と貢献が不可欠です。国際フォーラムで発表されたプロジェクトは、平和構築活動がさまざまな地域で、多様な方法で実施可能であることを明らかにしました。

フォーラム最終日には、原爆の犠牲者に捧げられた博物館や追悼施設を訪れました。破壊の規模や犠牲者の数を知るにつれ、私は自身の故郷であるマリウポリで少し前に起こったことを思い出しました。私の町は原爆は投下されていませんが、科学技術が平和とは正反対の目的で使用された悲劇の場となりました。展示されていた、現在の世界の核兵器保有情報を見て、もし科学技術が繁栄と平和のための発明に使われれば、世界にはもっと多くの前向きな変化がもたらされるのではないかと思いました。

プラン・インターナショナル アドボカシーグループ
アンナ・シャルホロドウスカー