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寛容と情熱と日常 江國香織【本:いくつもの週末】

直観で気に入った本があると、とりあえず購入し手元に置いておきたくなる。「物を持たない」主義の自分としては、本というものは一番重くて、一番電子化が進んでいるものなのに、なぜだかはわからない。

もう10年以上前に、江國香織さんの『冷静と情熱のあいだ』という恋愛小説を読んで、その本を持って物語の舞台であるイタリアのフィエレンツェとミラノを訪れたことがある。とはいえ、その本をまた旅先で読むのではなく、ただ手元に置いておき、朝の街をエンヤの曲を聴きながら走った日々。

この『冷静と情熱のあいだ』は、同じ時系列に起こる出来事を、江國香織さんはあおい(女性)の目線で、同じく作家の辻仁成さんは阿形順正(男性)の目線で描かれていて、赤色の本と青色の本をどちらも読んでより深く物語に入り込めるようになっていた。これだけ映像やVRの世界を簡単に楽しめる世の中で、それでもあの当時、先に本と出合って、自分の想像力がどんどん膨らんでいって、あの世界感に降りたった瞬間、ガイドブックや映像じゃなく、自分の想像力との「答え合わせ」の瞬間、なんだかあの瞬間は、今では失われた、とても「贅沢な時間」だったんじゃないかとさえ思えた。私たちの想像力に挑戦してくる本の存在が、とても有難い。

ふと、そんなことを思い出した同じ著者のエッセイ『いくつもの週末』。さすが江國さん、と私はそんなにも彼女のことを知るわけではないけれど、『冷静と情熱のあいだ』を読んだあの頃の自分に、少し戻させてくれた、でも振り返りというよりもまた新たな言葉に出会えた瞬間だった。

キャプチャ77

・仕事とお風呂と夫と
・読書と掃除と洗濯と公園
・マンションに一人でいると、奇妙に孤独でつまらない
・新聞を読む夫と、推理小説を読むか、周りを見渡しぼーっとする私

・散らかし屋で物事に無頓着で感情を軽視しるぎる夫と我慢弱く感情的で譲歩というものを知らない私
・独身生活にはモノトーンの秩序があり、私はこの「秩序」というものを、かなり愛しているのだった。とはいえ、色つきの生活はときどきとても幸福だ。
・誰かと生活を共有するときのディテイル、そのわずらわしさ、その豊かさ。一人が二人になることで、全然ちがう目で世界をみられるということ。
・依存というのはすごくむずかしいし、勇気がいる。

・たよってもいいのだ。あるときふいにそう思いついたのだけれど、そう思ったときの居心地の悪さは忘れられない。

・共有する記憶
・出会ったとき、人はお互いが持っているそのちがう風景に惹かれるのだ。それまでの時間、一人一人が積みあげてきた風景。
・結婚はstruggleだ。満身創痍。でも、風が吹けば傷口は乾くので、いちいち気にしないことにしている。ささやかなものたちにその都度すくわれていかないと、とても愛を生き抜けない。

・愛情というのはある種の病気だなと思う。それがあるためになにもかも厄介になる。
・少し距離のある関係の方がcomfortableで素敵だ、というふうにしか考えられなかったのに、いいえ結婚をするのだ、わずらわしいことをひきうけるのだ、ともに現実に塗れて戦うのだ、と無謀にも思えてしまったあの不思議な歪を、私はいつまでも美しいものだったと思っている。美しいくてばかげていて幸福ななにかだった、と。
・寛容と情熱
・甘やかしたり甘やかされたりするのは大人の特権
・幸福にしたりされたりする方が、教育したりされたりするよりずっと素敵だ

・仲なおりというのはつまり、世の中には解決などというものはないのだ、と知ることで、それを受け容れることなのだ。それでもそのひとの人生からでていかない、そのひとを自分の人生からしめださない、コースアウトしないこと。
・理屈っぽい性格

#雨
#週末
#公園
#土曜日
#本屋
#風景
#一人の時間

私たちは落ち着かなくなっている。
たぶん、いつまでたっても着地地点を得られないからだ。

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