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正直であることの勇敢さが、人と人とを繋げ、人との関係性を発展させていく【「まずはこれ食べて」(原田ひ香 著)】

やばい、面白い!
久々に一気読みしてしまいました…。

あらすじは、
ベンチャー企業のオフィスである2DKのデザイナーズマンションに、家政婦「筧みのり」がやってくるところから始まります。
学生時代に立ち上げ、気心の知れた仲間同士でがむしゃらに成長させてきた会社では、最近は想像を絶する多忙さでギクシャクした空気が蔓延していました。
そんな会社に、ぶっきらぼうで無骨な筧みのりがやってきて、ぐちゃぐちゃだった玄関も、お風呂場も綺麗になり、
深夜まで働き詰めのメンバーを思いやった温かなご飯のおかげで、
目の前の仕事をこなすだけで精一杯だったメンバーが、会社のこれからについて、会社の在り方について、メンバーの在り方について、考え始めるきっかけが生まれました。
会社の創設メンバーたちが共に抱える、消えたメンバーに寄せる想いや、
会社をこれからどうしていくか…
それぞれのメンバーが抱えるコンプレックスや悩みに、それぞれが向き合えるようになっていく、
という物語です。

ベンチャー企業に家政婦がやってくる、という令和っぽい舞台が好きです笑
そして、全員が人間臭くてとても好き。
(ラストはミステリー小説を思わせるかのような、思わず!?と口を抑えてしまうような展開で、ネタバレしてしまうと面白さが半減してしまうような物語です、色んな要素があって面白いんです)
皆、誰かに認められたい、とか、一緒にいてほしい、とか、求めてほしい、とか、愛されたい、とか、
でも上手く言えなくて、そんな気持ちに向き合うことすら
大人になると、付き合いが深くなると、
面倒で、
「ずっと皆で一緒にいたい」という願いを叶えるために
本当は言いたかったはずのこと、聞きたかったことに、ずっと蓋をしている。
(なんで大人はこういうふうになっちゃうんでしょうか…私も含めですが…)
ずっと一緒にいたいから作った会社。皆で必死で大きくした会社。
そして、いなくなってしまった、皆が大好きだった創業メンバーがいつでも帰ってこれるように、どこにも売却せず、残していた会社。
会社を通じて、大人になっても友達でいられた、繋がっていられたけれど、それぞれには人生があり、その人生を、無理やり会社という形で繋げているのには限界がある。
それを皆大人になるにつれて、理解しつつあるのです。
(切ねえなあ)

恋人にも、友達にも、家族にも、いつか終わりはくる。
人間は変化していくし、環境も変化していく。
だって皆同じ目標を持っていようが、毎日顔を合わせていようが、同じ家に住んでいようが、別々の人生を歩んでいて、生きているから。
他人との関係性は永遠じゃない、いつも、その時々で、ラッキーなことに一緒にいられているだけ。
それを認めてしまったら、一気に全てが壊れてしまいそうで、怖い。
でも、同時に思うんです。
終わりにしなくてもいいじゃん、というか、終わることなんて本当は無いよって。
いきている限り、ずっとずっと、変わらない。
確かに、その社会的に定められた関係性(家族とか友達とか恋人とか)は変わるかもしれない、会える頻度や、会話すら少なくなるかもしれない、
もしかしたら「あの時は楽しかったな」なんて思う日が来るかもしれない。
でも、それはその時のことで、関係性は変化していく、終わるんじゃなくて、変化していくだけ。
むしろその変化を楽しんで、人との関係性を成長させていこう、と思えたら、どんな素敵な学びが待っているだろう、とも思います。
だから、この本を読んで、人との関係性を、無理やり終わりにしようとなんて、しなくていいと、思うのでした。
(最後、会社をどうしていくかを決定するシーンで、それをすごく思いました。実際に読んでいただきたいので、具体的な内容はここでは伏せます)

最後に、正直、って、すごくいいな、って思わされました。(突然)
胡雪という、創業メンバーの一人が、社会や他人に女性扱いされることに対して過敏に反応してしまい、筧みのりに献立の説明を受けた際に「女だからって、料理の管理させるんですか」とつっかかった後のシーンがすごく好きです。

「…女の子がいるって聞いて」
水音の中に、小さな筧の声が聞こえた。
「リンゴをもらったものだから、つい、アイスクリームを買っちゃった」
女の子だから甘いものなんて、短絡すぎるよねえ、あたし。
ありがとう、と素直に言えない。
(中略)
「女の子がいるって聞いて、デザートを作るなんて、女は甘い物好きだっていう、もしかしたら、思いこみや差別かもしれないけど」
筧はつぶやいた。
「でも、相手を喜ばしたかっただけ。それだけ」
(中略)
「男の役割とか女の立場とか、そんなに気にしなくてもいいじゃないの」
筧がさらりと言った。
「あたしが家政婦やってるのは、ただ、この仕事がよくできて、好きだからだし」

「まずはこれ食べて」(原田ひ香 著)

筧みのりに対して、敵対心を持っていた胡雪と、筧みのりの距離が縮まったシーンです。
人と距離を縮める時、正直こそが、必須だな、と思います。
言葉遣いとか、礼儀とか、もちろんそういうことも大事だけど、
筧みのりみたいな、正直に自分の気持ちを伝える、っていう、本当にシンプルなことこそが、どんな小手先のコミュニケーションのテクニックとかよりも、人と人とのつながりを作る一番有効な方法なんじゃないかと、思います。

大人になると友達は作りにくい。
人との関係性は希薄になっていく。(ように思われる)
でも、人との関係が終わることはない(自分が望めば)し、むしろ近づいたり離れたりしながら、成長させることができる。
その時に、いつだってそれを叶えてくれるのが「正直さ」なんじゃないかって思うんです。
正直であることが人と人をつなげ、正直であることが、その関係性を発展させる。
「一緒にいたいから」「離れたく無いから」と願うばかりに秘密を増やせば増やすほど、人は離れていく。
(残酷ですが)
正直であることの勇敢さが、人と人とを繋げ、人との関係性を発展させていくシンプルで最強の方法なんだと、この本に教えられた気がしています。


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